連載第11弾は、箱根のポーラ美術館へ。
まさにいま、
開館以来、最大規模のコレクション展が
開催されています。
モネから、ルノワール、ベルト・モリゾ、
藤田嗣治、日本の具体、そしてリヒター。
ポーラ美術館といえばの名作から、
新収蔵作品もたーっぷりと楽しめます。
チャンスがあったら是非、
訪問することをお勧めしたい展覧会です。
ご案内くださったのは、工藤弘二さん。
担当は「ほぼ日」奥野です。
個人的には、
新収蔵作品だけの藤田嗣治さんの展示室、
あれがすごかった‥‥!

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第3回 「フジタ」から「具体」へ。

──
この展示室は、ぜんぶ‥‥藤田嗣治さん。
工藤
そうですね。レオナール・フジタです。
ポーラは以前からフジタで有名でした。
本日は、この展示室も
たっぷりご紹介したいと思っていました。
フジタだけで、
ひとつの展覧会ができるくらいの点数の作品を
持っているので。
──
何回もやってらっしゃいますものね。
フジタさんの展覧会。
昨年も、やってらっしゃいましたし。
工藤
他館さんへもフジタの作品をお貸し出しして
展覧会のご協力をさせていただいたり、
以前から力を入れていて、点数も多いんです。
そして、今この部屋に展示しているのは、
それらに加えて、
まったく新しく収蔵したフジタなんです。
──
ぜんぶ?
工藤
ぜんぶです。
昔からあるフジタじゃないんです、これら。
──
すべて、新収蔵。‥‥それはすごい。
工藤
いちばんの見せどころは、
となり合わせで紹介しているんですけれど、
右が《ベッドの上の裸婦と犬》、
左が《横臥裸婦》です。
ここが「欠けていたピース」で、
裸婦を描いた作品が、
これまではなかなか手に入らなかったんです。
──
おお、それが、ついに。
工藤
もちろん、他の新収蔵作品もすばらしいです。
贅沢ですよ。ちょっと自画自賛です。

レオナール・フジタ (藤田嗣治)《ベッドの上の裸婦と犬》
1921年 油彩/カンヴァス 88.8×116.1cm
1921年 油彩/カンヴァス 88.8×116.1cm
© Fondation Foujita / ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2022   G2930 レオナール・フジタ (藤田嗣治)《ベッドの上の裸婦と犬》
1921年 油彩/カンヴァス 88.8×116.1cm 1921年 油彩/カンヴァス 88.8×116.1cm © Fondation Foujita / ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2022 G2930

──
どれも「いいフジタ」ばっかりである、と。
工藤
そのとおりです。
──
ポーラ美術館のコレクションの元になった
鈴木常司さんの時代から多かったんですか。
工藤
そうですね。もともと。
──
鈴木さんが、お好きで?
戦後のフジタは、フランス国籍を取得して
パリに戻り、
日本からは離れていった印象ですが、
何か、個人的な関係があったんでしょうか。
大川美術館の大川英二さんとか、
とおくフランスまで会いに行った日本人も
ごく稀にいたようですけど。
工藤
たぶん、そういう機会はなくて、
ただただ好きで集めていたんだと思います。
だから初期のコレクションは
鈴木の好きだった作品ばっかりなんですね。
お客さまにも、やっぱり人気が高いです。
──
ぼくも乳白色で、猫ちゃんで‥‥みたいな、
そんなイメージしかなかったところに、
東京国立近代美術館の戦争画で
ビックリしちゃったような経験があります。
たしか、戦争がはじまって帰国して、
陸軍の美術協会の理事長に任命されて‥‥。
工藤
それだけに、のちに戦争が終わったあとに、
戦争に協力したとして糾弾の対象になる。
このあたりの言い方が難しくて、
戦争の絵を描いたことは事実なんですけど、
あの時流のなかで、
フジタだけが描いていたわけではないです。
──
はい、近美の《アッツ島玉砕》をはじめ、
フジタの描く戦争画は、
軍の求める「戦争画」の枠に収まらない、
飛び抜けた出来栄えだったわけですよね。
圧倒的だった故の糾弾、だったとしたら。
皮肉というか、
もう、何とも言えない感じがありますね。
工藤
その対極にいたのが、たとえば松本竣介です。
戦争画みたいなものには、
自分は、一切かかわらない‥‥と言って、
描きたいものだけ描くんだと。
──
第五福竜丸の事件を描いた
アメリカの画家のベン・シャーンとかも、
フジタに抗議していますし、
そのあたりは、
簡単には語れないことばかりでしょうね。
工藤
そうやって日本から去ったフジタですが、
最晩年は、
ランスに建てたちいさな礼拝堂の壁に、
自らの最後の作品として、
情熱を注いで「壁画」を描くんですよね。
結局、完成させて間もなく、
フジタはそのまま、
彼の地に骨をうずめることになるんです。
──
なるほど。
工藤
フジタの物語の一端ではありますけれど。
この部屋にある「裸婦の時代」の作品は、
まだ戦争の前、
フランスで活躍していたころのものです。
──
すでにフランスでは、売れっ子で。
工藤
そうですね。面相筆という筆で、
すごく細い輪郭線を描いているんですね。
面相筆というのは、
日本画などを描く際に使われていた筆ですが。
──
ええ、ええ。
工藤
そうしたもので裸婦を描いた作品などは、
それまでなかったわけです。
当時はパリ万博とかが開催されたりして、
さまざまな国のアーティストが、
パリに、集まってきていたんですけれど。
──
エコール・ド・パリのみなさんなど。
モディリアーニ、ユトリロ、キスリング、
スーティン‥‥。
工藤
そう、そのなかのひとりに
フジタも数えられることがありますよね。
日本風の絵を描くフジタは、
パリで熱狂的に受け入れられたんです。
パリへ絵を学びに行った日本人の画家は、
たくさんいましたが‥‥。
──
黒田清輝さんはじめ。
工藤
世界的にもっとも有名になった日本人のひとりは、
やっぱりフジタだと思います。

──
そこまでの大芸術家で、
華やかなイメージばかりだったんですが、
戦後に糾弾される人生を送っていたとか、
ずいぶんと長い間、知りませんでした。
でも、どれも素敵ですね‥‥あらためて。
ぼくはぜんぶはじめてというか、
観たことない気がするんですが、
みなさん初見という作品もあるんですか。
工藤
もちろんです。だって、新収蔵ですから。
どこかの美術館で収蔵されている作品は、
新収蔵できないわけですから‥‥。
──
あ、そういう意味なのか。新収蔵って。
工藤
つまり「眠っていた作品を、探してくる」
みたいなところもあるわけです。
作品を新収蔵する‥‥ということは。
──
じゃあ、どこかの個人宅に飾られていて、
これまで
印刷物に掲載されたことさえないような、
そういう作品も‥‥。
工藤
いろんなケースがありますが、
そういう作品も、多々あると思いますよ。
当館も含めて、
だいたい、どこかの美術館が収蔵したら、
「あの絵は、あの美術館に入った」
という、
作品の所在が、周知されていきますよね。
少なくとも日本では、
おそらく、よっぽどのことでもない限り、
別のところへ行くということは稀ですし。
──
つまり、見たことなくて当たり前なんだ。
本や雑誌や資料集などでも
目にするチャンス自体がなかった作品。
いまの話を聞いたら、
よりいっそうありがたい気持ちに(笑)。
工藤
ですから「見たことない気がする」って、
それは「大正解」なんです。
──
おお、やった。無欲の大正解(笑)。
次の部屋からは「第2会場」ですね。

©Ken KATO ©Ken KATO

工藤
はい、従来のコレクションと
現代の作品をつなぐために新収蔵を‥‥
という話をしたと思うんですが、
このあたりの作品が、
これまで、まったく欠けていたんですね。
主には「日本の抽象絵画」です。
──
難波田龍起さん。抽象的。
工藤
難波田さんのこれくらい大きな作品って、
もうだいたい
どこかに収蔵されてることも多いですが、
今回、このサイズで、
難波田さんの中でも重要な作品を
収蔵できたのは、とても幸運なことです。
──
この方は、こういう感じが多いんですか。
工藤
はい、そうですね。
これは『生命体の集合』という作品です。

難波田龍起《生命体の集合》
1970年(昭和45) 油彩/カンヴァス 130.2×193.5cm 難波田龍起《生命体の集合》
1970年(昭和45) 油彩/カンヴァス 130.2×193.5cm

──
言われてみると、
たしかに「生命体の集合感」を感じます。
作品名って、やっぱり、重要なんですね。
工藤
長らく所在がわからなかった作品なんです。
昔の難波田さんの個展の新聞記事とかに
写ってたりするんですが、
その後、どこにあるのかがわからなかった。
そういう「掘り出し物」が、
ひょこっと出てくることがあるんですよ。
──
作品の来歴の話って、おもしろいですよね。
いま渋谷駅に飾られている
巨大な岡本太郎さんの《明日の神話》も
長い行方不明のあとに
メキシコの郊外の倉庫で発見されたとか、
そんなことあるんだ〜と思います。
工藤
逆に、ここのピースが足りないから
「何年代の、こういうスタイルの作品が」
と思ったとしても、
ピッタリの作品が見つかるとは限らない。
本当に「偶然の出会い」みたいな部分が
あるんですよ。
そのチャンスを逃さないことが重要です。
──
具体美術協会の田中敦子さん。新収蔵。

工藤
そう、こちらも、田中敦子さんの作品で
これほど大型のものはなかなか出ない。
本当に運というか、巡り合わせですよね。
田中さんの《電気服》は、ご存じですか。
──
はい。森村泰昌さんもやってました。
電球とネオン管みたいなものでつくった、
ピカピカ光る「服」ですよね。
着てる状態のシルエットが、
何ていうか、どこか「雪ん子」みたいな。
工藤
ええ(笑)、ようするに
田中敦子さんの《電気服》を知ってれば、
あのイメージから
一直線にこの絵を連想すると思いますが、
仮に知らなくても、いいんですよ。
そういう知識がなくても、
この作品が持ってる強烈なエネルギーは、
伝わると思うので。
──
はい、そう思います。
工藤
何が描いてあるんだろうという疑問から、
さかのぼって
《電気服》を知ることもあるだろうし。
──
でも、田中さんの絵画作品って、
こういうタイプしか見たことないような。
ちがう感じの絵も描いているんですか。
工藤
ええ、描いてはいるんですけど、
《電気服》のあとは、
こういった作品がほとんどだと思います。
──
見つけちゃったって感じなんでしょうか。
あっちには
白髪一雄さんの足で描いた作品もあるし、
具体の人たちからは、
既存の何かを乗り越えようとか、
新しいものをつくりたいっていうような、
ほとばしるような何かを感じます。
工藤
ええ、イノベーションと言っていいほど、
まったく違うアプローチ、
まったく違う作家性を提示していますね。
時代としては何十年も昔の作品ですけど、
見る人に、
つねに「新しい力」を感じさせるような、
そういうエネルギーに満ちていますよね。

©Ken KATO ©Ken KATO

(つづきます)

2022-07-27-WED

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  • ポーラ美術館開館20周年記念展 モネからリヒターへ 新収蔵作品を中心に

    いま「開館以来、最大規模」の展覧会が、
    ポーラ美術館で開催されています。
    モネとゲルハルト・リヒターの競演、
    すべて新収蔵作品で構成された
    藤田嗣治の展示室。
    さらには、ルノワールやマティスなど、
    ポーラ美術館ではおなじみの印象派、
    20世紀美術の有名作から、
    戦後の日本美術、
    杉本博司さんなどの現代アートまで、
    新旧の名画ががズラリと並びます。
    見ごたえ、満足感が本当に、すごいです。
    9月6日(火)までの開催。
    この夏休みは、ぜひ、箱根へ。必見です。