連載第11弾は、箱根のポーラ美術館へ。
まさにいま、
開館以来、最大規模のコレクション展が
開催されています。
モネから、ルノワール、ベルト・モリゾ、
藤田嗣治、日本の具体、そしてリヒター。
ポーラ美術館といえばの名作から、
新収蔵作品もたーっぷりと楽しめます。
チャンスがあったら是非、
訪問することをお勧めしたい展覧会です。
ご案内くださったのは、工藤弘二さん。
担当は「ほぼ日」奥野です。
個人的には、
新収蔵作品だけの藤田嗣治さんの展示室、
あれがすごかった‥‥!

前へ目次ページへ次へ

第2回 フォーヴのブラック、点描のマティス。

クロード・モネ《睡蓮》
1907年 油彩/カンヴァス 93.3 x 89.2 cm クロード・モネ《睡蓮》
1907年 油彩/カンヴァス 93.3 x 89.2 cm

工藤
こちらは、当館の「とてもいい睡蓮」です。
──
とてもいい(笑)。でも、たしかに。
工藤
当館にモネの《睡蓮》は2点あるんですね。
こちらは画面全体が水面ですけれども、
下の階で
リヒターと並べて展示しているのは、
いわゆる太鼓橋の描かれている《睡蓮》で。
──
モネの《睡蓮》って
ぜんぶで200以上あるとのことですけど、
太鼓橋の《睡蓮》も複数あるんですか。
工藤
はい、あります。
モネは1899年から《睡蓮》を描き出しますが、
太鼓橋の《睡蓮》が第1連作、
水面を描いた《睡蓮》が第2連作と言われていて。
──
国立西洋美術館さんに、
表面の剥がれた、すごく大きな《睡蓮》が
ありますよね。
たしか、凸版印刷さんが
デジタル技術で擬似的に修復していました。
工藤
ええ、ありますね。
あの作品も、すばらしい《睡蓮》ですよね。
こちらはマティス初期の作品なんですけど、
新収蔵です。

アンリ・マティス《オリーブの木のある散歩道》
1905年  油彩/カンヴァス 46.0×55.5cm アンリ・マティス《オリーブの木のある散歩道》
1905年 油彩/カンヴァス 46.0×55.5cm

──
《オリーブの木のある散歩道》。
工藤
これまでもマティスは持っていたのですが
初期の時代がなかったので、
こちらの作品を新たに加えたんです。
今回は、マルケやヴラマンクといっしょに
こちら側の列で「フォーヴィスム」、
つまり色彩の流れを見せています。
──
はい。
工藤
そして、反対側の壁では、
セザンヌからピカソ、ベン・ニコルソンと続く
「キュビスム」、
つまり線やかたちの流れを見せています。
──
あ、なるほど。色と形で対比的に。
あ、でもブラックが両方の壁にいますね。
色彩と形態と。ブラックと言えば
ピカソとともにキュビスムの代表作家、
つまり形態の人だと思っていたんですが。
工藤
ジョルジュ・ブラックは、
最初のうちは、フォーヴィスムのような
描き方をしていたんです。
──
そうなんですか。へええ‥‥!
工藤
ピカソとキュビスムの実験をはじめる前は、
こういう絵を描いていました。
これもですね、すごくいいブラックです。
《レスタックの家》と言って‥‥
あ、ごめんなさい、
さっきから何か自慢してるみたいな‥‥。

ジョルジュ・ブラック《レスタックの家》
1907年  油彩/カンヴァス 60.3×49.3cm ジョルジュ・ブラック《レスタックの家》
1907年 油彩/カンヴァス 60.3×49.3cm

──
他館のみなさんも
もう、はりきって自慢されていますので、
どんどん自慢してください(笑)。
工藤
あ、本当ですか。では、遠慮なく(笑)。
で、キュビスムのブラックに
フォーヴィスムみたいな描き方をしていた
時期があるように、
マティスにも点描の時代があったんですよ。
──
ええっ、スーラの
《グランド・ジャット島の日曜日の午後》
みたいな‥‥?
工藤
マティスはシニャックの描き方を学んでます。
わたしたちがよく知っているマティスは、
色彩が前面に出た、
フォーヴィスム時代が有名なんですけれど、
その前に「点描の時代」があった。
代表的な作品は
オルセーにある《豪奢、静寂、逸楽》です。
──
絵の具を混ぜずに点々を打っていくという
気の遠くなるような描き方を、マティスも。
それは、すごく意外です。
工藤
こちらの《オリーブの木のある散歩道》は、
点描からフォーヴへの移行期にあたる作品。
その意味で「初期」なんです。
──
たしかに、細かくないけど点々で描いてる。
でも、何々派とかナントカスムとか、
画一的に分類しがちですが、そうですよね。
ひとりの作家の中でも、
描き方には、いろいろ変遷がありますよね。
ピカソなんか、まさにでしょうし。
工藤
同じようにラウル・デュフィという作家も、
極めて軽快な描き方が有名ですが、
初期には
フォーヴィスム風の作品を描いていました。
マティスはフォービスムですね、
ブラックはキュビスムですねと、
もっとも有名な時代で覚えられていますが、
必ずしも、それだけではないんです。
──
ちなみに、ここのパートのタイトルが、
「セザンヌからニコルソンまで」
となっているということは、
ニコルソンという人が重要なんですか。
工藤
ええ、重要です。ベン・ニコルソンですが、
ご存知ですか?
──
いえ、不勉強で、何も。
工藤
イギリスの作家で、
抽象的な作品をたくさん残した作家ですね。
こういった作品‥‥これも静物なんですが、
物体を分解して描いています。
タイトルは《セント・アイヴスの港》です。

ベン・ニコルソン 《セント・アイヴスの港(夏)、1951年8月31日》
1951年  油彩、鉛筆/厚紙 37.4×45.5cm
© Angela Verren Taunt. All rights reserved, DACS & JASPAR 2022 G2930 ベン・ニコルソン 《セント・アイヴスの港(夏)、1951年8月31日》
1951年 油彩、鉛筆/厚紙 37.4×45.5cm © Angela Verren Taunt. All rights reserved, DACS & JASPAR 2022 G2930

──
港‥‥あ。
工藤
そう。
ものごとを分解するのがキュビスムですが、
そういう時代の影響も受けながら、
よく見ると、ここがほら、港なんですよね。
──
はい、見ていて途中で気づきました。
青森県立美術館で見た、
土地から感じる印象を絵に描いてこられた
村上善男さんの作品と、
どことなーく、親しいものを感じるような。
工藤
ああ、そうなんですね。
では、こちらの大きな絵は
マルコ・デル・レというイタリアの作家の
《赤い室内》という作品なのですが、
どうでしょう、誰かに、似ていませんか?
──
‥‥‥‥‥‥マティス‥‥ですか?
工藤
ご名答。マティスが大好きだったんですよ。
心から尊敬している、と。
画面の色の鮮やかさをはじめ、
たしかに、似通った雰囲気を感じますよね。
──
壁の柄みたいなのも、どこか。
工藤
はい、そうですね。マティスは、
部屋の壁の装飾など好んで描きますからね。
よく言われることですが、
マティスは壁と床の境目を明確に描かずに
3次元空間を平面的に表現しますが、
そんなところも似ています。
ただ、マルコ・デル・レは現代の作家です。
この作品も2011年のものですね。

──
あ、そんな最近の人だったんですか。
ここからは一転して、しっとりした感じで。
工藤
そうですね。
──
直前まで
マティスやマルコ・デル・レを見てたので、
何というか「暗め」‥‥というか。
工藤
日本人画家の描く洋画って、
西洋絵画と比較すると「暗い」んですよね。
こちらは、関根正二です。
──
早逝というか、早く亡くなった方ですよね。
印象的な自画像の。
工藤
そうですね。夭折の画家と呼ばれています。
そして、あまりに有名な《麗子像》ですね。
岸田劉生が自分の子を描いた作品。

岸田劉生 《麗子微笑》
1920年(大正9) 木炭、水彩/紙 50.8×34.2cm 岸田劉生 《麗子微笑》
1920年(大正9) 木炭、水彩/紙 50.8×34.2cm

──
自分の娘をこんなにもたくさん描くのって、
いったいどういう‥‥
並べて言うのも失礼かもしれませんが、
世のお父さんたちが、
娘の似たような写真をたくさん撮っている、
あれと同じような気持ちなのかなあ。
工藤
どうでしょうね(笑)。
でも、実際、本当にたくさんあるんですよ。
当館にも、ごらんのように
《麗子微笑》と《麗子像》と《麗子坐像》、
3つの「麗子」を所蔵しています。

──
それぞれに、微妙に表情がちがって。
工藤
でも、だいたいムスッとしてる(笑)。
彼女は当時、まだ小さかったので、
絵のモデルに慣れてないし、
ずっと黙って座ってなきゃいけないし‥‥で
「顔が笑ってない」んです(笑)。
──
なるほど(笑)。
それは‥‥ムスッとしても仕方ないですよね。
まだ、こんなちっちゃいわけですし。
工藤
画家とモデルの話、いろいろありますよね。
職業モデルが使えないとなると、
どうしても家族にお願いすることになって、
でも、みんな長時間座らされたりして、
イヤになっちゃったみたいな話があります。
──
彫刻ですが、ジャコメッティも、
家族をはじめ、
何年も何年も同じ人を前に座らせていたと、
富山県美術館で聞きました。
ゴッホは「自画像」が多いですよね。
工藤
ゴッホは、自分と、郵便配達の人だったり、
生活の近くにいた人を描いてますね。
さて、こちらは新収蔵、里見勝蔵です。
ヴラマンクに、それまでの優等生的な絵を
ダメ出しされて、
こんなふうに過激な描き方になった人です。
──
作品のタイトルは《ポントワーズの雪景》。
たしかにダイナミックな雪景色です。

工藤
さあ、おまたせしました(笑)。
お好きだという、松本竣介です。
──
はい、わあ、でも、
そんなにいっぱいは知らないんですけれど。
最近は大原美術館さんで見た作品が、
こんなような、綺麗なブルーの色でしたね。
工藤
ええ、抽象化した「街」に、
人物めいた影がおぼろげに浮かんでますが、
こういった色調が多いです。
大原美術館さんの作品も、同じシリーズでしょう。

松本竣介 《街》
1940年(昭和15) 油彩/カンヴァス 53.0x73.0㎝ 松本竣介 《街》
1940年(昭和15) 油彩/カンヴァス 53.0x73.0㎝

──
当時の時局に抵抗してたんですよね。
工藤
そうなんです。
この人は『みづゑ』という雑誌に掲載された
「生きてゐる画家」という文章が有名。
戦争の時代に「こう描くべきだ」という絵、
戦争に協力するような絵、
体制に迎合するような絵‥‥に対して、
真っ向から反論したのが、竣介なんですよ。
──
当時の警察とかに、にらまれるかもしれないのに。
工藤
自由に描きたいものを描くべきだ‥‥って。
──
そういう人だったんですね。
森村泰昌さんが、
松本竣介さんの全身の青年像に扮装されていて、
それで、オリジナルを好きになったんです。
工藤
これは、その《立てる像》の背景です。
──
あ、そうなんですか。え、あの絵の「背景」? 
どこなんだろう。
工藤
高田馬場のあたりですね。
──
へええ、そうだったんですか、高田馬場!
意外に身近な場所だったんだ。
どのあたりかな。ビッグボックスとか?
工藤
神田川に架かる田島橋‥‥ですね。
ビッグボックスとの位置関係は
ちょっとわからないんですけど(笑)。

松本竣介 《風景》
1942年  油彩/カンヴァス 37.9×45.4cm 松本竣介 《風景》
1942年 油彩/カンヴァス 37.9×45.4cm

(つづきます)

2022-07-26-TUE

前へ目次ページへ次へ
  • ポーラ美術館開館20周年記念展 モネからリヒターへ 新収蔵作品を中心に

    いま「開館以来、最大規模」の展覧会が、
    ポーラ美術館で開催されています。
    モネとゲルハルト・リヒターの競演、
    すべて新収蔵作品で構成された
    藤田嗣治の展示室。
    さらには、ルノワールやマティスなど、
    ポーラ美術館ではおなじみの印象派、
    20世紀美術の有名作から、
    戦後の日本美術、
    杉本博司さんなどの現代アートまで、
    新旧の名画ががズラリと並びます。
    見ごたえ、満足感が本当に、すごいです。
    9月6日(火)までの開催。
    この夏休みは、ぜひ、箱根へ。必見です。