美術館が所蔵している作品や
常設展示を観に行く連載・第4弾です。
今回は、2020年にオープンした
アーティゾン美術館へうかがいました。
前身は、歴史あるブリヂストン美術館。
東京・京橋の街中で、
ピカソやルノワールを見られる美術館が、
新しくうまれ変わったのです。
現在、休館中に新たに収蔵した作品を
たっぷり楽しめる
「STEPS AHEAD :
Recent Acquisitions 新収蔵作品展示」
を開催しているので、そのようすを取材。
作品を解説してくださったのは、
学芸員の島本英明さん。
担当は、ほぼ日奥野です。さあどうぞ!

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第1回 藤島武二の《東洋振り》から。

──
以前のブリヂストン美術館から、
アーティゾン美術館という名前に変わって、
何だかもう、
すっかり新しくなりましたね。
島本
はい、リニューアルではなく、
2015年5月に以前の美術館を休館し、
アーティゾン美術館という
新しい美術館として開館しました。

──
まさしく、そんな感じがします。
開館記念展の
「見えてくる光景 コレクションの現在地」や、
石橋財団コレクションと
鴻池朋子さんがセッションした展覧会
(「ジャム・セッション 
石橋財団コレクション✕鴻池朋子 
鴻池朋子 ちゅうがえり」)、
「琳派と印象派 東西都市文化が生んだ美術」
なども拝見しましたが、
このタイミングで、
新しく収蔵したコレクションの展覧会ですか。
島本
ええ、今回は2015年5月以降に
購入や寄贈、寄託などいろんなかたちで
新たに収蔵された作品を、
まとめてご覧いただこうという企画です。
さっそく、ご案内いたしましょう。
──
はい、どうぞよろしくお願いいたします。

提供:アーティゾン美術館 撮影:木奥惠三 提供:アーティゾン美術館 撮影:木奥惠三

島本
今回の
「STEPS AHEAD:
Recent Acquisitions 新収蔵作品展示」には、
作品点数でいうと、
ぜんぶで「290点」ほど出しています。
新収蔵作品約90点を中心に約200点、
さらに
芸術家の肖像写真コレクションから
87点を展示しています。
半分弱は、はじめてお見せする作品です。
──
そんなに。それは楽しみです!
島本
写真作品は、ほとんど初お目見えですし。
──
まさに「新しく名前を変えて、開館した」
というコンセプトにふさわしいですね。
島本
はい、今回は「建物をあらためた」とか、
「新装、改装した」ではなくて、
新たに生まれ変わったと捉えているので。
──
展覧会名も「前へ!」ですものね。
島本
はい。決意表明‥‥とでも言いますか。

──
基本的なところですみません、
展示会のメインビジュアルのこの作品は、
どなたが描かれたものですか。
島本
はい、5階に展示しているんですけれど、
エレイン・デ・クーニングです。
抽象表現主義で有名な、
ウィレム・デ・クーニングの奥さまです。
美術批評家でありながら、
自分で絵も描くアーティストでもあって、
近年、注目を集めている人ですね。
──
はあ‥‥知りませんでした。
島本
彼女の作品を美術館で紹介するのは、
この展覧会が、
日本ではじめてじゃないでしょうか。
──
カッコいいです、すごく。
島本
そうでしょう?
この絵は、のちほど出てきますので、
そのときにまた、
くわしいことを説明いたしますね。
それでは第一章、最初のセクション。
──
お願いいたします。
島本
部屋の中心に展示したのは、
藤島武二の《東洋振り》という新収蔵作品。
その周囲に、
ブリヂストン美術館の時代から
コレクションのメインだった
他の藤島作品、黒田清輝、青木繁‥‥
など、日本の近代洋画と言われる
明治以降の油彩画を、
新収蔵作品と一緒に飾っております。

──
こちら側には西洋近代の作品があって。
アーティゾンさんのコレクション展示で
よく見るメアリー・カサットとか。

島本
はい、ベルト・モリゾや
エヴァ・ゴンザレスなども出ています。
ここでは当館のハイライト、
コレクションのなかでも強いところを
展示しているのですが、
その中心に、
同じ20世紀前半の時代に描かれた
藤島の《東洋振り》を展示したのです。
──
うつくしい横顔ですね‥‥。

藤島武二《東洋振り》1924年 藤島武二《東洋振り》1924年

島本
でしょう? この《東洋振り》は、
東洋趣味を意識して描いているんです。
というのもこれ、中国の服なんですよ。
ただし、中国で描いたのではなく、
自分の持っていた中国の服を、
日本人モデルに着せて描いたようです。
──
これが新収蔵のなかでも、目玉。
島本
そうです。
当館のメインの作品群にも負けない、
素晴らしい作品だと思います。
──
藤島武二さんの絵って、
以前から、収蔵されていましたよね。
島本
はい。ブリヂストン美術館の創設者である
石橋正二郎は、
生前の藤島と交流が深かったんです。
石橋に作品を直接譲ったりなど、
藤島は当館にゆかりのある作家なんです。
──
どういう人だったんですか。
島本
はい、近代日本の洋画家で、
ルネサンスはじめ
西洋絵画の伝統をよく勉強しています。
イタリアやフランスへの留学経験もあり、
油絵に関して
素晴らしい技術を持っていました。
日本人画家の中でも、
ずば抜けて上手い人だと思います。
──
人物を描いた絵が、多いんですか?
島本
いえ、風景も人物も両方、描いています。
キャリアを重ねるにつれて
作品の抽象化が進んでいった作家です。
この時代の日本人画家としては、
頂点を極めるくらいの人だと思います。
──
はあ‥‥それほどまでのお方。
島本
こちらが若いころの、藤島の作品です。

藤島武二《黒扇》1908-09年(重要文化財) 藤島武二《黒扇》1908-09年(重要文化財)

──
はい、これは見たことありました。
島本
他にも、
日本の神話や天平時代のような古代を
モチーフにしていたり、
留学時代に描いた女性の肖像だったり。
──
横顔の絵が多いんですかね。
島本
そうですね。意識していたと思います。
ちなみに横顔の肖像画‥‥というのは、
15世紀前後のイタリア、
ルネサンス期によく見られるんです。
──
へええ。
島本
ピエロ・デラ・フランチェスカなどが
知られています。
有名なレオナルド・ダ・ヴィンチや
ラファエロよりも、少し前の人ですが。
──
何か‥‥何を意味してるんでしょうか。
横顔の肖像というのは。
島本
時代や作家、作品によって
さまざまな解釈があるとは思うんですが、
藤島の絵で語る場合、
ひとつには、
平面的に単純化しつつ装飾的で、
構図的なうつくしさを感じると思います。
──
まさに「うつくしい」が第一印象でした。
島本
藤島の時代は、
実物のボリューム感や立体感を再現する、
という時代では、もうなかった。
それより、
文字や柄など装飾をあしらいながら、
絵画という「平面」として何を表すか‥‥
という意識のほうが強かったんです。
──
たしかに、柄物の中国服と柄のうちわ、
バックには漢字‥‥で、
パッと見ゴチャゴチャしてそうなのに、
むしろスッキリした印象です。
女性の表情が凛としているからなのか。
島本
絵筆の手際がよくて、品がありますし、
センスを感じるといいますか‥‥。
そういう藤島の技術もあると思います。
当館が自信を持ってご紹介できる、
ぜひ、直に見ていただきたい作品です。

提供:アーティゾン美術館 撮影:木奥惠三 提供:アーティゾン美術館 撮影:木奥惠三

(つづきます)

2021-07-01-THU

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  • ブリヂストン美術館を休館した後、
    2020年に
    新しい美術館として開館した、
    アーティゾン美術館。
    開催中の「STEPS AHEAD」では、
    この真新しいミュージアムに
    新たに収蔵された作品を、
    たっぷりと楽しむことができます。
    なんと展示の半数近くが、
    はじめて公開される作品とのこと。
    メインビジュアルに採用された
    エレイン・デ・クーニングはじめ
    女性作家たちの抽象画、
    藤島武二、キュビスム、具体、
    マティスの素描‥‥など
    3つのフロアにまたがる展示は、
    みごたえ十分です。
    ルノワール、ピカソ、青木繁など
    この美術館の代表作も。
    9月まで会期も延長されたので、
    ぜひ、足をお運びください。
    チケットなど詳しいことは
    アーティゾン美術館の公式サイト
    ご確認ください。

    常設展へ行こう!

    001 東京国立博物館篇

    002 東京都現代美術館篇

    003 横浜美術館篇

    004 アーティゾン美術館篇

    005 東京国立近代美術館篇

    006 群馬県立館林美術館

    007 大原美術館