ほぼ日が神保町に引っ越してから、もう5年。
いろんな街からのアクセスもいいし、
古本、カレー、喫茶店、お祭りも賑わって、
神保町っていい街だなあと思っていましたが、
なんとこのたび「世界で最もクールな街」に!
59か国333都市で展開するシティガイド
『タイムアウト』によって選ばれた、
2025年のナンバーワンなんですって。
神保町という“地元”の受賞を喜ぶ糸井重里が、
タイムアウト東京のおふたりと
お昼ごはんを食べながらおしゃべりしました。

PHOTO:Kisa Toyoshima
撮影協力:広島お好み焼 カープ 東京支店

>東谷 彰子さんプロフィール

東谷 彰子(とうや あきこ)

ORIGINAL Inc. 取締役副社長
タイムアウト東京副代表

幼少期はマニラで、中学高校はバンコクで過ごす。
1996年に帰国し、
早稲田大学教育学部英語英文学科に入学。
卒業後はTOKYO FMに入社。
1年間の秘書部勤務を経て、ディレクターとして
多様なジャンルの番組制作を担当。
2010年1月、ORIGINAL Inc.入社。
タイムアウト東京コンテンツディレクターとして、
取材、執筆、編集、企画営業、PRなど幅広い分野で活躍。
国内外にアーティストから学者、スポーツ選手まで
幅広いグローバルなネットワークを持つ。
企業や省庁、自治体向けの高品質な多言語対応は
高い評価を得ている。

>イリ・サーリネンさんプロフィール

イリ・サーリネン

タイムアウト東京副編集長

フィンランド生まれ。
ヘルシンキ大学政治経済学部卒、
上智大学大学院グローバルスタディーズ
研究科修士課程修了。
2013年にORIGINAL Inc.に入社し、
2019年からディレクターとして観光庁の
「地域観光資源の多言語解説整備支援事業」等を担当。

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(3)意味の言葉と感情の言葉。

糸井
神保町って、東京駅まで出られるし、
歩いて銀座まで行けちゃうんですよ。
神田の中でグルグル歩き回っていてもいいけど、
隣にこの街もあるんだよっていうのが、
またおもしろいんですよね。
野球場だって徒歩圏内の水道橋にあるんだし。
東谷
海外の方が東京にいらっしゃると、
「こんなに広いって思わなかった!」とおっしゃるんです。
東京に2泊3日して、それから京都に行くんだけれども、
2泊じゃ足りなかったって。
糸井
ああ、そうかもねえ。
東谷
糸井さんがおっしゃったように、
神保町を中心にしてみると、
たくさんのものが見ることができますね。
糸井
ああ、ほんとそうですね。
日本橋とか人形町の方にも行けますしね。
人形町なんて、この神田を
もっと昔にしたような感じだし。
自分で言っといて、いいねと思っちゃった(笑)。
東谷
ほんとにいいなと思いました。
イリ
海外から観光で来ている人たちは、
何キロでも平気で歩く方が多いんですよ。
「2時間かかってても全然大丈夫!」みたいな感じで、
東京の街から街まで歩いていけるっていうのは
すごくいいポイントだなって思います。
糸井
神保町は迷路みたいに
いろんなものが入り組んでいて、
歩くごとに新しいものが見つかりますよね。
こんなところにこんなお店が
あったんだなっていうことがよくあります。
ここに来るまでにも、近くにジムがあって、
ここに通っている人いるんだなあと思うだけで
ちょっとおもしろいんですよ。
前に、この界隈でプロ野球のドラフト会議を
みんなで見る会に誘われたことがあって、
そこは野球ファンが集まる店でしたね。
東谷
へぇー、おもしろい!
糸井
知らなかったことだらけなんですよね。
行ったことはないけれど、
テーブルに小っちゃい釣り堀があるお店だとか、
マンションを上がっていったところに
小っちゃい寄席があったり。
もうね、わけわかんないです。
いろんなものが見つかりますよ、いまだに。

イリ
ちょっと探せば発見がある街。
糸井
なにか探せばあるよっていうのは
素晴らしいことですね。
新しい発見があるかと思えば、
ぼくらが盛んに取り組んでいるのは、
町内の綱引き大会だったりしてね。
東谷
あっ、そうですよね。
街のお祭りに参加しているとうかがいました。
糸井
とおりいっぺんの綱引き大会だったんだけど、
「勝つぞー!」って本気で練習しはじめたら、
みんながたのしくなっちゃった。
チームの数も増えたし、
ぼくら自身がもう勝てなくなってきました。
カープのお母さん
お好み焼は、そばでいい?
糸井
そばでいいと思います。

東谷
糸井さんに伺いたいことがあって。
神保町の話とはすこし離れてしまうのですが、
このあいだ、竹富島に行ったんです。
糸井
おー、はい。
東谷
島には330名ほどが暮らしていて、
子どもたちが島の言葉で劇を練習していたり、
私が訪ねた日はたまたま「種子取祭」という、
島民の方々が一致団結して
農作物がうまく育つようにお祈りする
奉納芸能の日だったんです。
それを拝見していて、島の言葉や文化を守る伝統を
目の当たりにしたんですね。
それは、すごく大切な営みだなと思ったんです。
一方で、私たち『タイムアウト東京』は、
いろんな文化を翻訳する仕事が多く、
日本語と英語の言語の特性の差をいつも感じています。
特にイリは、さまざまな地域の文化を
英語で伝える仕事をよくしているんですけど。
イリ
そうですね。
東谷
日本語ってあいまいな部分が多くて、
そのあいまいさを共有できる文化があります。
英語は主語がはっきりしていて、
情報も詳細まで具体的。
ほんとに違う言語だなと思うんですよ。
たとえば、イリと話していても、
日本語では品行方正な感じですけど、
英語で話すとちょっとカジュアルになります。
そこには、それぞれの言語における
思考の違いがあるんだろうなと思っています。
AIのプロンプトを書くときも、
日本語と英語では反応が変わるんですよね。
日本語で入力したときには、
日本語→英語→英語→日本語というように、
日本語で答えてもらっていても、
途中で英語の思考が入っているんだろうなと。
竹富島の人たちが島の言葉を守っていくように、
日本語を使うときの思考のあり方も
守っていかなきゃいけないんじゃないかなって、
最近よく考えていました。
糸井さんは、日本語の特異性や、
日本語における考え方の特異性について
考えていることってありますか。
糸井
ずっと考えてきたんじゃないですかね。
日本の場合は、感情の入った言葉のやりとりが
ものすごく多いですよね。
教育でも、小学校の頃から
遠足に行ったら作文で感想を書かされます。
「何があって何がよかった」ではなく、感想を書く。
でも、いまネット上の言い合いを見ていると、
「それはあなたの感想でしょ?」っていうのが
悪口になってるじゃないですか。
東谷
はい。
糸井
でも、ずーっと感想を言って育ったのが
日本の教育なんですよね。
知らない人どうしで会っても
「どう思った?」「私はこう思う」って。
「思う」のやりとりは、感情の交換なんですよ。
それが共通した相手とは、
これから先も会いたくなるんですよね。
英語はもっと数学の記号に近くて、
これは何を意味していて、こっちは何を意味して、
主語があって、述語があって、
それを形容するものは赤いか白いか‥‥、みたいな。
英語では記号として全部分類ができて、
AIの思考はその延長線上にあるから、
感情と言いたいことは、全然違うんです。
東谷
そうなんですよね。
糸井
人って、何かについて決定的な正解を知りたくて
生きてるわけじゃないんです。
赤ん坊どうしが仲よく遊んでいたとしても、
ケンカしていても言語はないじゃないですか。
だけど、それで成り立ってるわけです。
仲のいい恋人どうしだったら、
なにをしゃべってるかわからなくても仲がいい。
日本人から見ると、人間社会のほとんどのことが
心で成り立っているはずなのに、
全部を意味に変えちゃうのが言葉の弱点でもあって。
そうやらないと契約とかはできないわけですよ。
東谷
ああ、そうですね。
糸井
だから契約や約束を中心につくられた社会では、
英語的表現を借りてくるしかないんです。
そうじゃなくて、ただどこかに行って
ぼーっとしようよっていう日があれば、
それは感情の部分なんですよね。
俳句でも和歌でも「どう思った」だけを言っています。
「あなたがいなくて寂しい」とかね。
それは正しいでも間違ってるでもなくて、
「寂しい」っていう心を伝えているわけです。
意味と感情を使い分けながら社会が進んでいって、
どこかで、借りたり貸したりするんじゃないかな。
イリさんの生まれたフィンランドは、
アジア圏と文化的に近いところがありますよね。
イリ
ええ、そういわれてますね。
糸井
だからフィンランドの映画を観ると、
表情が大げさではなく、
あまり変わらないんですよね。
それって、日本人に似てる気がします。
イリ
そうですねえ(笑)。
糸井
それは、別のヨーロッパ圏やアメリカの人からすると
不思議なことかもしれません。
どこかで混ざり合っていくんでしょうね。
ぼくはアラン島に行ったことがあるんですが、
そこではスコットランド本土の人たちが、
古語を学びにくる夏合宿があるんですよ。
言葉が使われなくなる前に、学んでいるんです。
編み物やデザインと同じように、
言葉も心と表現として文化全体から学ばないと。
「こういう意味だよね」だけじゃわかりません。
東谷
そうですね。
糸井
そこは、すごく重要な場面だと思います。
AIがどんどん代わりにやってくれるようになると、
人間である必要がなくなっちゃうんです。
ほら、このお好み焼のソースでも、
お店によって使っているものは違いますよね。
お好み村ソースだったり、オタフクソースだったり。
お母さん、ここはどこのソースなの?
カープのお母さん
ミツワだね。
糸井
はい、ミツワソースですね。
ほかのソースにしたら
お客さんにバレちゃうでしょ?
カープのお母さん
バレるバレる。
糸井
そういうのを、みんなに共通する心というか、
交換しあう心っていうものが
心地いいんだと思うんですよね。
カープのお母さん
人によっては、誰に焼かれたかって
わかっとる人もおる。
東谷
ああ、そうですか。
「今日はお母さんのじゃない」とか?
カープのお母さん
そう。
糸井
わかる、わかる。
湿り気の度合いが違うんだよね。
カープのお母さん
そうそう、上からの押し方とかね。
東谷
焼いてるときに野菜の水分が
どれぐらい抜けたかによって変わるんですか。
糸井
それはおおいに変わりますよ。
あれだけもやしが入ってるのに
お好み焼がベトベトしないんですから。
それにはなんかあるんですよ、コツが。
カープのお母さん
ああ、もやしもいいのよ。
広島のもやしだから。
糸井
そうか、水気が少ないのかもね。
カープのお母さん
そう、少ないの。

(つづきます)

2026-01-15-THU

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