
「ほぼ日の學校」でとっても好評だった
作曲家の石田多朗さんによる雅楽の授業。
その熱量をそのままに
2025年に東京・渋谷の「ほぼ日曜日」で
音楽イベント「ほぼ雅楽。」を開催しました。
そのダイジェスト版をお届けします。
第1部は糸井重里、
第2部は音楽プロデューサー亀田誠治さんが登場。
演奏を味わいながら石田さんと語り合います。
笙・篳篥・龍笛・楽琵琶といった雅楽器に、
チェロと鍵盤を合流させた、
とっても不思議なステージ。
雅楽と西洋の音楽は、果たして
どのように溶け合うのでしょうか?
音楽を聞きながらぜひお楽しみください。
石田多朗(いしだ・たろう)
1979年アメリカ合衆国ボストン生まれ。
上智大学にて国文学・漢文学を専攻後、
東京藝術大学音楽学部に入学。
2018年株式会社Drifterを設立。
雅楽の楽曲制作などを通して、
これまでにない日本の音楽のあり方を日々研究・制作し、
発表をする。
2024年ディズニー製作のハリウッドドラマ
「SHOGUN 将軍」
(作曲Atticus Ross、Leopord Ross、Nick Chuba)の
日本伝統音楽に関する総合アレンジャーとして参加。
エミー賞とゴールデングローブ賞のW作品賞受賞に
貢献するとともに、
エミー賞の作曲賞、メインテーマ賞の2部門で
ノミネートを果たす。
また「SHOGUN(将軍)」のサウンドトラックは、
グラミー賞「最優秀映像作品スコア・サウンドトラック」
部門にノミネート。
2025年には雅楽とクラシック音楽を融合させた
アルバム『常世』をリリース。
2026年は東京・京都・ミュンヘン・ケルン・パリ・笠間の
インターナショナルツアーを開催。
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亀田誠治(かめだ・せいじ)
1964年生まれ。
音楽プロデューサー・ベーシスト。
これまでに椎名林檎、スピッツ、平井 堅、GLAY、
いきものがかり、JUJU、石川さゆり、
氷川きよし+KIINA.、Creepy Nuts、
アイナ・ジ・エンドなど、
数多くのサウンドプロデュース、アレンジを手がける。
東京事変のベーシスト。
2007年、15年の日本レコード大賞にて編曲賞、
21年に日本アカデミー賞優秀音楽賞、24年には第19回 渡辺晋賞を受賞。
他、舞台音楽や、ブロードウェイミュージカルの
日本公演総合プロデューサーを担当。
現在、Eテレ「ウェルカム!よきまるハウス」に出演し、
子どもたちに伝えたい往年の名曲を紹介している。
19年より親子孫3世代がジャンルを超えて
音楽体験ができる
フリーイベント「日比谷音楽祭」の
実行委員長を務めるなど、
様々な形で音楽の魅力を伝えている。
中村かほる:楽琵琶
大塚惇平:笙
三浦元則:篳篥
纐纈拓也:龍笛
成田七海:チェロ
- 糸井
- クラシック音楽は法則的で、
雅楽とはまったく別のものである、と。
- 石田
- そうです。
でも、そうは言っても、
共通しているところもあるんじゃないかと思っていて‥‥。
その話を、休憩のあとにしようと思います。
- 糸井
- 急に起承転結の「転」が。
いったいどうなるんですか?!(笑)
- 石田
- いやいや(笑)。
実は、そこにはわりとはっきりした答えがあるんです。
‥‥先に話しちゃいます?
- 糸井
- (即答)うん。
だって、推理小説みたいになってるから。
- 石田
- じゃあ、そこまで話してから休憩に入りましょう。
- 糸井
- はい。
- 石田
- ええとですね‥‥。
ぼくはいま、森の中に住んでいるんです。
- 糸井
- ええ。
- 石田
- 栃木の森を歩いていて、
葉っぱが風に揺れる音や、
カエルの鳴き声みたいな自然の音が、
同時には鳴らないことに気づいたんです。
そのとき、
雅楽がどうしてああいう音楽として生まれたのかが、
すごくよくわかった気がしたんです。
- 糸井
- ばらばらなのが自然の音であり、
それを音楽にしたのが雅楽であるということを。
- 石田
- はい。
ぼくは仕事柄、いわゆるテクノのような曲もつくるんですね。
グリッドがあって、
テンポをきっちり合わせるような音楽です。
そんな中で、ある日森を歩いていて、ふと、
「あれ、自然界には一定のリズムって、ないんじゃないか?」
と思ったんです。
- 糸井
- まずは「ない」と思った。
- 石田
- 想像してみてください。
山や空や海の中で、一定に鳴っているものって、
ほとんどないですよね。
でも、あるとき同じように森を歩いていて、
「いや、自然界にも一定のテンポで鳴っているものがある」
と気づいたんです。
何だと思いますか?
- 糸井
- え、なんだろう。
- 石田
- クラシックが生まれるよりも前、
雅楽が生まれるよりも前からあるものです。
一定のテンポで鳴る音。
- 糸井
- 音ですよね。一定で鳴る音‥‥。
- 石田
- 言いますね。
それは、心臓の音です。
- 糸井
- あっ、そうか。
- 石田
- そうなんです。
おそらくヨーロッパの人は、
日本人が自然そのものを音楽にしようとしたのとは
対照的に、この世界の中で、
一定に鳴る心臓の音を特別なものとして捉えた。
そして、それを音楽にするのがいいと
感じたんじゃないかと思うんです。
- 糸井
- いいですね〜!
- 石田
- 自然界の中で特別なものである、人間の心臓のリズム。
それが、音楽のベースになっていったんじゃないか
と思うんです。
この前、フランスの映画監督
ジャン=リュック・ゴダールの展覧会に行ったんですけど、
ゴダールって、すごく人間中心なんですよね。
人間のことをずっと描いているように、
ぼくには感じられました。
- 糸井
- ゴダールはそうですね。
- 石田
- 映画にしても建築にしても、
ヨーロッパの人って、
人間のことをずっと考えているなと思うんです。
一方で、雅楽は自然を見ている。
たとえばアニメーションで言えば、
欧米にはディズニーがあって、
日本にはジブリがありますよね。
ちょっとジブリの映画を想像してみてください。
みなさんも一緒に想像してください。
- 糸井
- します‥‥。
- 石田
- ‥‥草原があって、葉っぱが揺れている。
遠くで森が動いていて、
宮﨑駿さんの描く水色の空に雲がたなびいている。
そこを、飛行機が静かに飛んでいく。
ずっと見ていられますよね。
でも、この気持ちって、言葉で表現するのが難しい。
ぼくにとって雅楽は、この感じなんです。
- 糸井
- うん。
- 石田
- でも、ディズニーは
別の描き方をします。
- 糸井
- 同じ森でもディズニーのアニメの森は
動物たちが自由にすごしているかのようだけど、
何かとみんなで集まって森の音楽を奏でてますよね。
- 石田
- 何かと合奏してますよね。
でも、ジブリのアニメで、
みんなが合奏しているようなリズムを感じたら、
ちょっと違う気がしませんか。
つまり、ヨーロッパは人間的な視点から
自然を捉えて音楽にしていて、
日本は自然を崇拝するような視点を音楽にしている。
だから、出てくるものはたしかに全然違います。
でも、実はヨーロッパの人も日本の人も、
結局のところ、自分を取り巻く自然をどう解釈したか、
そのことが音楽になっていったのではないかと思うんです。
- 糸井
- そうか〜。
- 石田
- そして、すみません。
さっき、ひとつだけ嘘をつきました。
自然界には、もうひとつ、一定のものがあるんです。
昔の原始の人でも気づくものです。
さて、何でしょうか。
心臓のほかに、もうひとつ繰り返しているもの。
- 糸井
- なんだろう‥‥。
- 石田
- それは、太陽や月、惑星です。
- 糸井
- あっ、そうだ!
天文だ!
- 石田
- はい。
月も太陽もゆったりしていますけれど、
一定のリズムでやって来ますよね。
それを音楽にしたのが、インドの人たちなんです。
なので、やはり音楽というのは、
自分を取り巻く自然をどう解釈してきたか、
そのことが表れたものなんじゃないかと思います。
ヨーロッパの人は心臓を特別なものとして、人間中心に。
雅楽の人たちは自然そのものを特別なものとして、
そこに音楽を寄せていく。
インドの人たちは天体の動きを音楽にしていく。
おそらく、
この世界をどう切り取ったか、
それが音楽の始まりなんだと思うんです。
- 糸井
- おぉ、いいですね。
- 石田
- そして、日本の人のこうした美学の源流から生まれた
雅楽という音楽に、
1300年たった現代でもアクセスできるというのは、
ものすごく価値のあることだと思います。
- 糸井
- 昔と同じなんですね。
- 石田
- そうなんです。
世界的に見ても、
音楽がこれほどそのまま保存されていることは、
とても稀です。
日本音楽の始まりに近いものが、
いまも生で聴ける。
しかも、生きた形で残っている。
これは、かなり貴重なことです。
- 石田
- じゃあ、休憩に行く前に、最後にもうひとつだけ。
- 糸井
- はい。ぜひ。
ぼくはいま、とってもおもしろいんで、
みなさん、今日は巻き込まれてください。
- 一同
- (笑)
- 石田
- もうひとつだけ、別の話をします。
ヨーロッパの人と日本の人とでは、
「普遍」という言葉の意味が、たぶん違うんです。
ヨーロッパの人は、
城をつくるにしても石造りで、
何があっても壊れないものをつくろうとする。
音楽で言えば、バッハの楽譜のように、
どこへ持っていっても変わらない、
完成されたものをつくります。
このように、時間や空間を超えて残り続け、通用し続けるもの。
それを普遍と呼んでいるんだと思います。 - それに対して、『SHOGUN 将軍』の世界である日本では、
たとえば将軍やお殿様が寝る部屋を仕切っているのは、
障子だったりしますよね。
障子って和紙でできていて、
子どもや猫でも破れてしまうくらい、かなりもろい。
でもそれは、
「破れたら張り替えればいい」
という考え方に基づいているんです。
つまり、一度つくったら壊れないものを目指すのではなくて、
壊れきる前に、すぐに直す。
直し続けることで保たれている状態、
それが日本における普遍なんじゃないかと思うんです。
細かく変わり続けることで、
逆に変わらない。
そういう普遍の発想です。
- 糸井
- ほぉ!
- 石田
- バッハが楽譜を書き上げたら、それは永久に残ります。
でも雅楽は、変わらないと言われながらも、
実は微妙に、微妙に変わり続けているんです。
たとえば、ぼくが大塚さんから笙を習ったとします。
口伝ですから、その時点で少し変わりますよね。
ぼくなりの笙の演奏になる。
そして、ぼくがまた別の人に教えたら、
さらに少しずつ変わっていく。
- 糸井
- 雅楽は「俺の読んだ楽譜」に
なっちゃうわけですね。
- 石田
- そうなんです。
これは、音楽を生き物として捉えているのに近い
と思います。
生き物って、
それを構成している細胞が短い期間で全部入れ替わっても、
なおその生き物として存在していますよね。
雅楽のような音楽も、同じなんです。
ずっと細かく変化し続けている。
でも、変化し続けながら保たれている。
その状態こそが普遍なんだ、
というのが日本の発想なんじゃないかと思います。
- 糸井
- 自分の子に伝えるような
一子相伝ということをやってきたけど、
それをやってもまるっきりうまくいくはずがない。
だから、次のいい方法を考えようみたいな。
- 石田
- はい。
そうやって雅楽は、微妙な違いを受け入れながら、
細かく変化し続けてきたんです。
そして、細かく変化し続けることで、
結果的には雅楽として変わらず存在し続けてきた。
だから1300年も引き継がれてきたんだと思います。
- 糸井
- ‥‥みなさんお待たせしました、休憩です。
- 一同
- (笑)
(明日につづきます)
2026-05-21-THU
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親子孫3世代がジャンルを超えて音楽体験ができる
フリーイベント「日比谷音楽祭2026」は
クラウドファンディングプロジェクトを
6/28(日)まで実施中。
Tシャツからマグカップなどの素敵な返礼品があるようです。
詳しくはこちらをご覧ください。

雅楽とクラシックの異なる2つの世界を
融合させたアルバム『常世』は、
2年間の試行錯誤の末に完成させたそうです。
石田多朗さんの音楽の世界をもっと知りたい人は
聞いてみましょう。
SpotifyやAppleMusicで聞けます。


