──

学士会館の前にある通りのように、
実は「都市計画道路」がかかっていて
今後工事がはじまる場所って、
東京都内にたくさんあるってことですよね。

中島

まだ動き出していない都市計画道路は、
東京に限らず、日本中にたくさんありますね。

──

日本中、同じような時期に決めたんですか。

中島

まあ少なくとも高度成長期より前、
「これから自動車社会が来るぞ」という時期に、
道路をつくろうと、
あちこちに計画線が入ったんです。

だからその制限を受けながら
建物が建っている場合もあるし、
逆に制限があるからこそ広場として
うまく使われ続けている敷地もたくさんあります。

──

70年経って、計画が途中でがらっと変わったり、
新しい計画が増えたりすることはないんですか？

中島

計画が増えることはありますけど、
減るのはすごく少ないです。
都市計画ってまたここが難しくて、
たとえばいまの東京、車の通行量って
減ってるんですよ。

──

へえーっ。

中島

たとえば昔だと、山梨から茨城のほうに抜けるには
東京の都心を通らないと難しかったんです。
だけどいま、圏央道とか外環道とかもどんどんできて、
わざわざ東京の都心を経由しなくてもよくなった。

あと運送関係も変わってきてますよね。
ヤマトや佐川みたいな業態が発達して、
それぞれの会社が自分たちでお客さんのところへ
荷物を届けに行く機会もすごく減ったんです。
企業所有の商用車の利用も減ってますし。

そもそも東京は公共交通網が発達していて、
歩いてどこでも行けるじゃないですか。
その意味でも、車の利用は減ってます。

だから「これから先、道路を増やしていく必要って
あるのかな？」というのは実はあります。

──

「じゃあ、やっぱり道路にしません」
ということもできるんですか？

中島

それが言えるといいなと思うんですけど、
これがけっこう難しいんです。

計画線がかかってる場所って、
さっきのように不動産開発上の制限も受けてるんで
「70年間の制限はなんだったんだ。
私のビル、２階建てじゃなくて
６階建てにしてたら儲けられたのに」
みたいな人たちが当然出てきます。

──

そうですね。

中島

それに対して行政側が、全路線・全敷地に
「計画をやめるから補償します」とやったり、
逆に所有者の人とかが
「行政訴訟だ！」とかやりはじめた場合、
たぶんもう行政がパンクしてしまうだろうと思います。

──

それは無理ですね。

中島

なのでそんなこと、とても怖くて言えないのが
いまの段階かもしれません。

ただ実際に、計画道路がかかってたけど、
みんなの合意でやめたような例もあって、
たとえば岐阜の高山。
歴史的な古いまちなみが残ってるんですけど、
ある時期まで、そこに計画道路がかかっていたんです。

で、昔であればみんな
「でっかいビルを建てて、近代的な商店街にしようよ。
車がバンバン来たほうがお客さんも来るし、
計画道路もOKだ」とか思ってた。
けれども時代が変わって、
いまの歴史的な市街地が素敵だと思う人たちが
たくさん来るようになった。

そのとき
「計画道路が通ったら、いまのまちなみを
ぜんぶ一回壊さなくちゃいけないぞ。どっち取る？」
ってときに、高山のある商店街の区画で
「私たちは道路拡幅は望みません。
その代わり、いままでの制限の話ももう言いません」
ってみなさんで合意できて、
「こっちの方がいいよね」ってまとまったんです。

──

それ、めっちゃいい話ですね。

中島

めっちゃいい話です。みんなの話し合いで、
目指す方向が一致したんですね。

いろんな価値観の人が関わる東京の道路沿いで、
どうすればそういう前向きなことをできるかは、
なかなか重たい課題ですけれども。

──

じゃあ、いま必要かどうかは別として、
訴訟とかにならないために
道路計画が残ってるところもあるかもしれない。

中島

そういうところもあると思います。

──

いまも全国のあちこちに
「この道路はもうすぐ広くなるのね」
というエリアがあるんですね。

中島

そうですね。
計画が動いてるところもやっぱりあります。

また「建物が建て詰まっていて防災上危ない」
とかの理由で、本当に道路拡幅が
必要なところもちゃんとあります。

「これ以上道路を作る必要は100パーセントないよ」
みたいに言えることってまったくなくて、
実際に渋滞が起きてる場所もあるんです。

だけど‥‥まあどうでしょうね。

千代田区の白山通りあたりは、
車道としてはそろそろ足りてるんじゃないか。
むしろ、いまある道路を１車線減らして、
そのぶんを歩道にするみたいな動きも出てきてます。

──

え、歩道の方を広くする？

中島

そうですね。
「車の量が減ってきてて、人の歩行量のほうが
多いんだから、そっちに振っていこう」
みたいな発想もあります。

──

へえーっ。

中島

海外の例ですけど、たとえばニューヨークでは、
タイムズスクエアの前の道路が
100パーセント歩行者専用道路になったんです。

もともと道の使われ方自体、90パーセントが歩行者で、
10パーセントがタクシーとかの車だったんです。
そのため「使われ方に合わせた道路の割合にしよう」
という考え方になった。

でも、10パーセントの車道って１台も通れない。
「じゃあ、ここはなくていいんじゃないか」と
完全に歩行者専用にした、みたいな。

だから最近のまちづくりでは
「道路の使い方も変えていける」ってところにまで
議論が出ていて、実際に起きている例もあります。

──

それはでも、政治と絡むような話ですよね？ 
住民がそういう声を伝えたければ、
選挙でどう動いて‥‥みたいな話でしょうか。

中島

うーん、そういうやりかたももちろんありますけど、
そこまで大仰にしなくても、
「私たちのまちの道をどう使いたいか」
という議論は、実際もっとできると思いますよ。

僕らも「ほぼ日の學校」のある
神田ポートビルの前の道路を使って、
実験的な『なんだかんだ』というイベントを
やらせてもらってるんですけど。

──

そうですよね。
中島さんは『なんだかんだ』のメインスタッフでも
ありますけど、普通の道路で、
ずいぶん実験的なことをされてますよね（笑）。

神田ポートビルの前の道路を通行止めにして、
畳200畳を引いてイベントをやるという。

©ゆかい

中島

はい。あれも実は
「道路って、もっともっといろんな使い方が
できるんじゃない？」
という発想からの取り組みなんですね。

「通行するためのもの」と思っている道路が
人が出会う広場になったり、
もっと違う使い方ができるかもしれない。
そういう実験であり、提案なんですね。

その経験のなかで見えてくる
「こういう使い方、たしかにいいよね」を、
普段の使い方にもつなげていけたら、
まちに新しい可能性が広がるんじゃないか
と思っているんです。