
新しい登山の形「フラット登山」や、
三拠点生活など、
自然や地方との関わりのなかで、
ご自身にとっての心地よい生活のしかたを模索している
ジャーナリストの佐々木俊尚さんと、
糸井重里が久しぶりに会って話しました。
話は、「ホーム」をどう考えるかにはじまり、
地域との関わり方から、
働き方、人生の終わり方にまで及びました。
これから先、より心地よい生活を
送っていくにはどうすればいいか、
あなたも一緒に考えてみませんか?
佐々木俊尚(ささき・としなお)
作家・ジャーナリスト。
1961年兵庫県生まれ。
毎日新聞記者、月刊アスキー編集部を経て、
フリージャーナリストとして活躍。
テクノロジーから政治、経済、社会、
ライフスタイルにいたるまで発信する。
「フラット登山」を考案。散歩でもない、
ロングトレイルでもない、新しい登山の形を提唱している。
著書に『フラット登山』(かんき出版)のほか、
『家めしこそ、最高のごちそうである。』(マガジンハウス)、
『そして、暮らしは共同体になる。』
(アノニマ・スタジオ)などがある。
6主体の側に入りたい。
- 佐々木
- ぼくは大学時代から山登りをしていて、
20代のころは学外の山岳会で
クライミングをやっていました。
そこには、「山登りするときは登ってる人優先、
下りてる人は待つ」とか、
組織登山の掟のようなものがいっぱいあるわけです。 - だけどいまは組織登山をする人が減っていて、
遭難者が増えてるのも、掟を知らなくて、
守らないがゆえなのかなと。 - 例えば登山の経験がないのに
北アルプスの穂高岳のような難しい山に
初心者がいきなり行く。
当然、動けなくなったりケガをしてしまったりする
可能性がありますよね。 - この状況に対して
体系的に登山をやってきたベテランたちは
警鐘を鳴らして、
「このままではまずいぞ」と言ってる。
だけど、
いまさら組織登山は復活しないと思うんです。
ロックの体系と同じで、
いまの登山には組織登山の掟はあてはまらない。 - だったら、いまの組織登山に入らない人が
気持ちよく山を楽しむためにはどうしたらいいのか、
前提の部分を書いたのが
『フラット登山』なんですよね。
- 糸井
- あーそうか。
佐々木さんが考えていることがわかる気がしました。 - 自分たちが尾瀬とか赤城でやってることにも
あてはまるんですけど、
何時にどこに集合するかだけ伝えて、
どう集合場所に来るかとかは、
細かく言わないんです。
とにかく来た人で行きましょうと。 - 自由度があり、同時にあなたが参加するんだから、
どうやってくるかは自分で考えてというのは
ユーザーフレンドリーなことですよね。
- 佐々木
- そのぐらい気楽なほうが結果的に楽ですよね。
- 糸井
- そうなんです。
そういう自由さが、
これから重要なルールになると思ってるんですよ。
- 佐々木
- 喉が痛くて風邪気味かなと思うのに
約束したから行かなきゃいけないとかは面倒です。
だったら「今日は行かないです」
と気楽に言えるほうがいいね、ということですね。
- 糸井
- そうですよね。
「集まらなかったから、2人で行くか」と、
できることのなかでやればいいというのは、
お客様主導で、
カスタマーが神様の時代の考えとは真逆のことです。
- 佐々木
- お店にもそういったことを考えているところが
だんだん増えてきましたね。
「うちに合わないお客さんなら
来なくてもいいです」みたいな。
- 糸井
- ほぼ日はそのあたりの考えに近いやり方で
やってきている気がしますね。
「なるべく親切に話し合いましょう。
だけどこれ以上はできないところもあります」
とお客さんにも伝えていると思います。 - ほぼ日で大きなイベントをやると、
アルバイトとして参加したいと
言ってくれる人たちがいます。
それも少ない数ではないんですよ。
つまり買い物客として楽しかったことの先にあるのは、
アルバイトになることなんです。
- 佐々木
- スタッフの側にいたい。
つまり「主体の側に入りたい」ってことですかね。
- 糸井
- そうです。
ホストとゲストで言えばホストの側のほうが楽しい。
ぼくが「MOTHER」というゲームを作ったきっかけも
「作る側になりたい」と思ったからです。
ゲームがこんなに面白いんだったら、
作ったらもっと面白いぞと思って。
- 佐々木
- なるほどね。
最近、読んだ記事に、
例えば『ゴジラ-1.0』とか映画のレビューで
やたらといま、制作側の目線で書いてる人が
増えてるって書いてありました。
- 糸井
- 制作者目線のコメント、ありますね。
「制作側にも都合があって、
こうなってしまったのはしょうがないんだよ」とかね。
映画でいうと、エキストラで参加することが
映画鑑賞以上に面白いことなんですよね。
人気のある凝った映画は
エキストラで参加したファンがいっぱいいる。
- 佐々木
- なるほど。
クラウドファンディングで参加して
エンドロールで名前が載るとうれしいみたいな。
- 糸井
- マルクス経済学一辺倒で考えてるときは、
労働は、
「売るもののない人間が自分の時間を売ること」
だったわけです。
それは労働時間で賃金が決まることで
労働はいやなことだったんです。
いまはそうじゃなくなっています。
- 佐々木
- お金があるだけでは、
もはや社会に承認されなくなってきている。
逆に言うと
その人が社会にどんな価値を与えてるかが
大事になってきています。 - 「AIが進化すると仕事がなくなる」という
議論がありますよね。
それで政府がベーシックインカムという制度を取り入れ、
国民にお金を与える。
国民はそのお金でものを買って
サービス受けて消費して、
企業側はその売上でAIやロボットを使ってものを作る
という循環があれば、
経済は成立するのではという思考実験があります。 - でもお金をもらって1日中スマホゲームをしてるだけで
人は果たして生きていけるのかというと、
それは無理だと思うんですよ。
- 糸井
- つまらないんですよね。
- 佐々木
- 自分が何も価値を生み出してないのは、
つまらないですよね。 - でも最近考えているのは、
そこに推し活があれば
成り立つんじゃないかということです。
- 糸井
- 推し活?
- 佐々木
- 推し活って単にグッズを買うというのもあるけど、
仮想通貨を買う方法もある。
例えばまだ人気のないアイドルが発行している
トークン(暗号資産)を1万円で買います。
そのときにNFTの写真とかも一緒にもらいます。
で、彼女がだんだん人気が出てくると、
その1万円のトークンが10万円に値上がりする。
そのときに売り飛ばせば9万円の利益になるんだけど、
売らずに持ったままで
「彼女が地下アイドル時代からファンだった」ことの
証明としてトークンとNFTの写真を持つようなイメージです。 - 要するにアイドルの投資家ですよね、
デイトレーダー的に儲ける人もいれば
長期ホールドする株主としての位置を
保ちたい人もいるだろうと。 - つまりいろんな人が人に対して投資すると、
自分では何も生み出していなくても、
誰かに対してトークンを買ってあげることで
社会貢献してることになる。
それなら社会の循環が成り立つんじゃないかなと。
- 糸井
- つまりお神輿を担いでるんですよね。
- 佐々木
- そうです。
推し活がある種の承認欲求を満たすものになりうる
未来があるんじゃないかと思うんですよね。
- 糸井
- その社会に、
もうなりかけてるかもしれません。
さきほど話した、
ほぼ日のアルバイト募集に多くの人が来てくれるのも、
そのほうが友達になりやすいんですよ。
お客さんとして「あ、また会いましたね」っていうよりも
「一緒に働いたね」っていうほうがつながりができやすい。
- 佐々木
- 確かに。スタッフ同士だと話しやすいけど、
お客さん同士ではあんまり話さないですね。
- 糸井
- そうなんですよ。
アルバイトの人たちで同窓会とかやってるわけですよ。
推し活の活動そのものが
「ホーム」になっているわけです。
- 佐々木
- そうですね。集まった人たちがいる場所が
自分にとっての「ホーム」になってる。
- 糸井
- ぼくらの会社の株主総会には
たくさんの投資家の方が来てくれるんですが、
その中には
お神輿の棒を持ってるような人たちがいるんですよね。
つまり、ほぼ日を支えてる自分のことを
楽しんでいる人たちがいます。
これがもっと広がっていったら
楽しいだろうとは思うんですよ。
- 佐々木
- 「私たちがほぼ日を支えてるんだ」って人ですね。
仲間というか。
まさに推し活です。
- 糸井
- それに近いですね。
おそらくファンクラブ経営とは違うんです。
- 佐々木
- ファンクラブというと
お客さんが集まっているような感じがしますね。
会費を払うのか投資をするのかで、
意識がだいぶ違うのかもしれませんね。
(明日につづきます)
2025-10-25-SAT
-
佐々木俊尚さんの新刊

気負わず、できる範囲で山を楽しんでほしいという、佐々木さんが新しい登山のかたちを書いた『フラット登山』(かんき出版)。どんな装備を用意したらいいかから、どんなコースを歩いたらいいかまで、かなり実践的な内容です。佐々木さんのパートナー、松尾たいこさんによる装画もさわやかで、山に行きたくなります。
