「ほぼ日」夏限定の人気コンテンツ「ほぼ日の怪談。」がこの2019年もはじまりました。
昨年は書籍版の『ほぼ日の怪談。』がでて、さらに今年はなんと、電子書籍にもなりました。
(詳しくはこちらをどうぞ。)

この応援企画として、「本で読む怪談のおもしろさ」をもっと知りたいと、
たいへんな読書家である河野通和「ほぼ日の学校」学校長に、「こわい本」を紹介してもらうことに。

そして絞りに絞った5冊を、1時間で一気に語ってもらいましたよ。
なんと河野さんは、この紹介のために5冊を再読して、身も心もへとへとになったそうです。

‥‥‥それはざぞかし、こわいに違いない!!

どうぞ、お楽しみください。

ここでご紹介した本は、8月23日(金)からのTOBICHI東京「すてきな4畳間」のイベントで、すべて手にとってご購入いただけます。

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第3回


『火車』


宮部みゆき

宮部さんという人は、生まれながらの
物語作者だと思います。
時代小説も見事ですが、
この作品のように、カード破産という
社会的な問題をテーマに選んでも、
市井に暮らす「声なき人」の目線に立って
それをわくわくする物語に仕立てます。
すごい作家だなと思います。

文庫本のカバーに
「謎を解く鍵は、カード社会の犠牲ともいうべき
自己破産者の凄惨な人生に隠されていた」
とあります。

主人公は、休職中の刑事。
怪我をして仕事を休んでいる。
だから、警察手帳を出して捜査する、
という自由が奪われている身の上です。
万能の刑事が聞き込みをし、
組織力をいかした捜査を繰り広げ、
謎を解き明かしていく、というのではありません。
サッカーでいうと「手を使ってはいけない」という
厳格なルールが課せられているような設定です。

両親の反対を押し切って結婚しようとしていた
婚約者がある日忽然と姿を消します。
いったい何が起きたのか?
理由が何ひとつわからない。
いなくなった彼女を探し出してほしい。
休職中の刑事が、突然、親戚の青年から泣きつかれます。

ここから次第に、
主人公がこの「人探し」にはまり込んでいきます。
たった一人での、地を這うような地味な捜索。
でも、それだからこそ、
日本社会のいろいろな側面や、
世間的な“幸せ”とは縁遠い
生活者の隠された表情が浮かんできます。

本が刊行されたのは1992年ですから、
27年前になりますけれど、
いま読んでもまったくリアリティーを失いません。
むしろもっと深く潜行しているかもしれない
日本社会の闇の部分の手触りが、
この作品からはしっかりと伝わってきます。
「安心、安全」と思い込まされていた日常生活の
すぐそこに待ち構えているかもしれない暗い深淵の、
口を開けたこわさ、深さが伝わってきて、
背筋がゾッとさせられます。

読むにしたがって、こわさが忍びよってくる作品です。
いったん悲劇的な状況に追い込まれた人間は、
どうやったらそこから立ち直れるのか?
巻き込まれたその家族は、
どうしたらその苦境を逃れられるのか?
主人公の不幸な境遇を
いったい誰が責められるのか?

ヒロインの造型も鮮やかです。
そして印象的なラストシーン。
これが‥‥なんとも切なく哀しくて、
心に残ります。

韓国で映画化された「火車 HELPLESS」も
その後に観ました。
女性監督の映画でしたが、
原作を思い切って触っていました。
韓国では大ヒットしたそうですが、こちらもお勧めです。

(つづきます)

2019-08-19-MON

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  • 『ほぼ日の怪談。』Kindle版リリースを記念して、
    TOBICHIの「すてきな四畳間」でイベントを行います。
    ここで紹介される本も、手にとってお求めいただけます。

    くわしくはこちらをご覧ください。