「ほぼ日」夏限定の人気コンテンツ「ほぼ日の怪談。」がこの2019年もはじまりました。
昨年は書籍版の『ほぼ日の怪談。』がでて、さらに今年はなんと、電子書籍にもなりました。
(詳しくはこちらをどうぞ。)

この応援企画として、「本で読む怪談のおもしろさ」をもっと知りたいと、
たいへんな読書家である河野通和「ほぼ日の学校」学校長に、「こわい本」を紹介してもらうことに。

そして絞りに絞った5冊を、1時間で一気に語ってもらいましたよ。
なんと河野さんは、この紹介のために5冊を再読して、身も心もへとへとになったそうです。

‥‥‥それはざぞかし、こわいに違いない!!

どうぞ、お楽しみください。

ここでご紹介した本は、8月23日(金)からのTOBICHI東京「すてきな4畳間」のイベントで、すべて手にとってご購入いただけます。

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第4回

『青蛙堂鬼談』


岡本綺堂

日本の怪談を紹介するなら、
これは絶対に入れたい作品です。

岡本綺堂(きどう)というのは、
ご存じ、『半七捕物帳』の作家です。
あまりピンと来ないかもしれませんが、
怪談ものもたくさん書いている作家です。

青蛙(せいあ)という竹細工の三本足の蝦蟇(ガマ)を
手に入れて、みずからを「青蛙堂(せいあどう)」と
名乗った弁護士のところに、12人の客が招かれます。
置物のある部屋に集まって、
それぞれに一席ずつ怪異談を披露していきます。

いわゆる「百物語」の形式で書かれた短編集です。
百物語とは、百本のロウソクを立てた部屋に集まって、
ひとりがひとつずつこわい話を語ります。
ひとつの話が終わるたびに、
一本ずつロウソクを吹き消します。
最後のロウソクが消されたときに、
‥‥‥ヒュー、ドロドロ〜!
本物の化けものがあらわれるという趣向(?)です。

語られる話は、いかにも日本らしい怪談です。
もともとは中国由来だという説もありますが、
ちょっと湿気が多い、風が生あたたかい、
日本の風土を感じさせる話が揃っています。

たとえば、「利根(とね)の渡(わたし)」という作品。
こわいんです。
人の執念、怨念のこわさ。
しかも文章がうまい。

(目次を見ながら)
あ、そうそう、「猿の目」。
ウンこれも‥‥ウン。
1篇1篇は短いんです。
「一本足の女」。
これもそう、こわい‥‥。

タイトル、うまいでしょう。
スプラッターな話じゃないんだけど、
やっぱり怨念なんですよ。
生霊(いきりょう)になって、とか、
人間の裏側にあるこわさ。
復讐への執念。

日本人は、異界と日常の世界を行ったり来たりするような、
そういう感覚に馴染みがあります。

だから、監禁されるとか、隔絶されたところに行くとか、
そういう極限状況ではなくても、
ふとしたことで「あっち側」に引き込まれたり、
「向こう側」から訪ねてこられたり、
霊がそのあたりをさまよっています。
日常と霊界のあいだの扉‥‥?
扉じゃないな、よしずかな。
もしくは庭にある枝折戸(しおりど)みたい感じかな?
いずれにせよ、通り抜けしやすい境界になんです。

岡本綺堂は、そういう怪談(死霊や憑きものの怪異談)を
熱心に集めて書いた人です。
一方で、日記をこまめに書いたらしく、
本になったその日記を読んだ人から聞きました。
毎日の天気、起床、散歩、仕事、来客、食事、体調とか、
平々凡々とした日常の細かい記述だけだというのです。
あまりに平凡なので、逆におもしろいと。
手紙やハガキの返事もすぐに出すような人だったらしく、
律儀を絵に書いたような作家だったとか。

その人がこういう話を好んで書いたというのも、
おもしろいと思います。
こわさというより、人というもの不思議さを感じます。

(つづきます)

2019-08-21-WED

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  • 『ほぼ日の怪談。』Kindle版リリースを記念して、
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