人をだまし、嘘をつくことで、
笑い、驚き、感動を生む人たちがいます。
そんな嘘のスペシャリストたちに
「嘘論」をうかがうインタビュー企画です。
第3弾はパントマイムアーティスト
「が~まるちょば」のHIRO-PONさん。
ことばを使わず、セットも使わず、
見る人の想像力をあやつるパントマイム。
「嘘」というテーマを真ん中に置きながら、
パントマイムのこと、ソロ活動のこと、
五輪開会式でのピクトグラムのこと、
たっぷりじっくり全8回でうかがいます!
聞き手は「ほぼ日」稲崎です。

>HIRO-PONさんプロフィール

HIRO-PON(ひろぽん)

パントマイムアーティスト。

1999年に「が~まるちょば」を
元相方のケッチ!と結成。
サイレントコメディー・デュオとして、
世界の35カ国以上で公演を行う。
現在はデュオ活動に終止符を打ち、
HIRO-PONが「が~まるちょば」を継続。
黄色のモヒカンがトレードマーク。
東京オリンピックの開会式では、
クリエイティブチームのクリエイターとして
ピクトグラムの演出・構成を手掛け話題になる。

公式Twitter:@GAMARJOBAT_H

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05 ピクトグラムに心を入れた。

──
オリンピックの話も
うかがっていいですか?
HIRO-PON
どうぞ。
──
東京オリンピックの開会式には
3人のピクトグラムが登場しましたが、
HIRO-PONさんはどの役だったんですか?
HIRO-PON
当日メインで演じていたのは、
ぼくの後輩にあたる2人組なんです。
ぼくは後半に登場する3人目で、
前半はピクトグラムの格好のまま、
ステージ上でライブカメラを操作していました。
──
ピクトグラムの創作や構成のベースは、
HIRO-PONさんが考えられたんですか?
HIRO-PON
そうですね、はい。
──
あの50種目のピクトグラムを、
一発本番のライブ中継でやるというのは、
なかなか無茶な決断ですよね。
HIRO-PON
最初はそれこそ50種類、
ぜんぶやる必要なかったんです。
でも、当日のパフォーマンスを
選手たちの前でやるんだったら、
全部やらない以外はないだろうなって。
だって、じぶんの種目がなかったら、
その選手たちは悲しいじゃないですか。
──
ピクトグラムのシーンは、
何分くらいあったんですか?
HIRO-PON
最終的には5分ですね。
なので1種目、4~6秒くらい。
どういう順番ならぜんぶ入れられるか、
そういうところからのスタートでしたね。
──
時間的な難しさもありますが、
同時にエンターテイメントとしても
成立させないといけないわけで‥‥。
そこもまた大変な苦労ですよね。
HIRO-PON
そもそもピクトグラムって、
三次元のものを二次元にしたもので、
それを人が演じてまた三次元に戻すという、
すでにそういうバカバカしさはあります。
──
たしかに(笑)。
HIRO-PON
それで、せっかく三次元に戻すなら、
ぼくはピクトグラムに
「心」を入れたいと思ったんです。
──
心?
HIRO-PON
ピクトグラムを人で表現するなら、
ピクトグラムの「心」を動かして、
見ているお客さんの「心」を動かそうと思ったんです。
なぜかっていうと、それと同じことを、
ぼくはいつもパントマイムでやってるので。
──
あー、なるほど。
きょうの話はまさにそういう話ですね。

HIRO-PON
例えば、途中で収録映像に切り替わって、
ピクトグラム同士が戦うシーンがあったんですけど。
──
空手のところですよね。
HIRO-PON
見た目はピクトグラムですが、
2人いるとそこにドラマが生まれます。
ドラマが生まれるということは、
見ている人の気持ちがちょっと動く。
そうなるとライブ映像に戻ったあとも、
ピクトグラムに対して見方がちょっと変わる。
──
ちょっと感情移入すると。
HIRO-PON
覚えてるかわかりませんが、
最初のほうでバドミントンのラケットを
落としましたよね。
──
ありました、ありました。
日本中がヒヤッとした瞬間(笑)。
HIRO-PON
あとで記者たちから、
「あれは演出ですか?」って
聞かれたりもしたんですけど‥‥。
──
ええ、まさか?!
HIRO-PON
あれはライブのできごとなので、
そこは想像してくれればいんですけど。
でも、あれが演出だろうが、
ほんとうのアクシデントだろうが、
あの瞬間に見てる人の心は動きます。
──
はい、動きました。
HIRO-PON
そういう意味では、
ピクトグラムを複数にした意味もあったし、
ちょっとは心のようなものも
入れられたのかなとは思うんですけどね。
──
いまの話もそうなんですけど、
やっぱり人は「人」に感情移入しますよね。
HIRO-PON
ああ、見てる人がね。
──
絶対に失敗できない大舞台で、
その緊張感もぜんぶ画面から伝わってくるから、
見てるほうは「がんばれー!」と思いますよね。
思わず応援したくなるというか。
HIRO-PON
だって、オリンピックがそうだもん。
──
ほんとだ!
HIRO-PON
マラソンだってそうですよね。
なんで走ってるだけの人を
2時間もずっと見られるんだろうって思うけど、
ぜんぜん見ちゃいますよね。
で、最後はものすごく感動する。
──
します、します。
HIRO-PON
あれは理屈じゃないですよね。
──
人が走ってるだけだから、
映像だけ見たらほんとうは退屈なはずですよね。
HIRO-PON
走ってるだけ。
でも、その走ってる姿はリアルですよね。
やっぱり人はリアルで
一生懸命な人に心を動かされます。
──
テレビを見てる人たちも、
画面に映る以上のものを見てますよね。
選手たちの苦労とか練習量とか、
オリンピックに出るために犠牲にしたものとか。
HIRO-PON
そういうのが見えてくるし、
画面からビンビン伝わってきます。
それは選手が出そうとしてるわけじゃなく、
勝手に出ちゃうから、
見てるほうも心から感動するんでしょうね。
──
そうですよね。
HIRO-PON
‥‥で、それと同じようなことを、
ぼくは嘘をついてやろうとしているんです。
パントマイムで。
──
ああぁーー!

HIRO-PON
もちろん舞台上でぼくは嘘をつきます。
でも、それは嘘じゃなくて、
できるだけリアルじゃないといけない。
だから飲んだふりじゃなくて、
ほんとうに飲まなきゃいけない。
──
とことんリアルじゃないといけない。
HIRO-PON
疲れてるふりじゃなくて、
ちゃんと疲れなきゃいけない。
寒いふりじゃなくて、寒くなきゃいけない。
じぶんの心を本気で動かすからこそ、
見てる人の心も動かすことができる。
ぼくは、ほんとうにそう思うんです。

(つづきます)

写真:タケシタトモヒロ

2022-02-01-TUE

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  • が〜まるちょばの舞台
    『PLEASE PLEASE MIME』
    名古屋公演、東京追加公演決定!

    現在、全国ツアー中のHIRO-PONさん。
    2月26日(土)に名古屋公演があります。
    本公演はショートスケッチ5作品と
    名作長編『指環』の2幕構成。
    ぼくも1月の東京公演に行ってきましたが、
    笑いも、涙も、驚きも、感動も、
    ぜんぶが詰まった素晴らしい舞台でした。
    1人で演じてるとは思えないほど、
    愛くるしい人たちが続々と登場します。
    東京追加公演は5月に決まったそうなので、
    ご興味のある方はおみのがしなく!

    チケット最新情報は公式サイトからどうぞ。