こんにちは、ほぼ日の奥野です。
光石研さん主演でテレビドラマにもなった漫画
『デザイナー渋井直人の休日』の最新刊が出たので、
作者の渋谷直角さんと話してきました。
直角さんとわたくしと渋井直人は、ほぼ同世代。
50代のデザイナー渋井さんをとりまく、
おしゃれと加齢とペーソスとが交錯する日常を、
描く直角さんも、読むわたくしも、
少しずつ肌身で「実感」してきているようです。
おじさんによる、
おじさんのための‥‥かはわからないけど、
「俺たち、おじさん」について(?)、
わざわざ渋井さんの好きそうなおしゃれカフェで、
おじさんトークしてきました。

>渋谷直角さんのプロフィール

渋谷直角(しぶやちょっかく)

1975年生まれ。名前は本名。小山ゆう先生の『おれは直角』から名付けられた。マガジンハウスの『relax』でライター仕事をはじめ、同誌でマンガも描くようになり、以降、いろいろな雑誌やwebで主にマンガを描いている。

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第3回 第1回フジロックの話は禁句

──
えっと、マウント取ったりしないんですか。
いまの若い人。
直角
と、思う。あんまり見たことないですもん。
少なくとも、ぼくのまわりにはいない。
他方で、同世代の同業者と話すと、
「いまどきそんな人、この世にいるのか!」
みたいな
超マウント気質の編集もまだいるらしくて。
──
たしか渋井さんも32ページ、
レイアウトやり直しさせられてましたよね。
直角
些細なことで超マウント取ってきたりとか。
そういう人もまわりにはいないから、
「これは‥‥俺がラッキーだけなのか!?」
なんて思っちゃうくらい。
だって、もうみんな「50」とかですよ?
そんな年齢になってまで、
そんなひどい対応されちゃうんだみたいな。
──
まだまだあるんですね。そういう理不尽が。
これだけ世間でハラスメントがどうだとか、
旧下請法の改正にあたっては、
中小受託取引適正化法が制定されてるのに。
直角
ぼくらが20代とか30代のころは、
まあ、ふつうにあったことじゃないですか。
「なんでこんなことまで
アンタに言われなきゃならないんだ!?」
みたいなのって。
もうないんですよ。ぼくの世界には、もう。
──
お知り合いのところでは起こってるけど。
直角
そう。信じられないことに、いまだに。
でも、90年代に育ってきた人間としては、
そういう90年代的な価値観って、
終わっていくんだなという実感があります。
だって「オレの方がすごいぜ!」
みたいなのって、
20代の人と話すと、ぜんぜんないですもん。
──
そうなんですか。
直角
自分は自分、あなたはあなた、誰かは誰か。
そういう生き方を尊重している感じ。
みんな、やさしいし。
さらにセンスもよくて、いろいろ知ってて、
みたいな若い人も多い。
だから、ぼくらのときに横行してた
「オレ、ナントカさんと知り合いだから!」
みたいな感じとかないんですよ。
──
人脈みたいなもので、
自分を大きく見せようみたいな考えがない。
直角
もうね、自分が恥ずかしくなるんですよね。
マウント取った取られたみたいな
ああいう古い世界を知ってるってこと自体。
昔はどうだったこうだった‥‥みたいな
おじさんの武勇伝とか苦労話なんか、
絶対に誰も聞きたくないじゃないですか。
──
おじさんだって聞きたくないです。
でも、どうして
そういう話をしちゃいがちなんですかね。
われわれ、おじさんというものは。
直角
やっぱり、自分には価値があるんだって
認めてほしいからでしょうね。
──
「第1回のフジロックに行った話」とか。
直角
そう。その話は、
ぼくの友だちの実際の経験談なんですが、
漫画に描いたとき、
少なくないおじさんたちが
けっこうな衝撃を受けていたんですよね。
映画監督の大根仁さんなんかは
「もっと世間に周知させるべきだ」って。
──
つまり「もう聞きたくない」わけですね。
第1回のフジロックの話なんて。
直角
若者にしたら「またその話か!」だから。
実際、若いバンドの子に
「第1回のフジロック」って言った瞬間、
本当に顔を歪めました。
だから「ああ、マジで嫌なんだ!」って。
それから絶対言わないようにしてる。
──
第1回には行ってないけど、肝に銘じます!
直角
ぼくなんかもう、
気に入られたくって仕方ないですもんね。
若い人に。
若い人が褒められたら、
ぽわ~んと気持ちよくなっちゃいますし。
──
うわはは、直角さん、チョロいです!(笑)
赤子の手をひねるかのように。
直角
知り合いの若い子なんか、
もうね、なんでも打ち返してくるんですよ。
こっちの話を。
頭の回転がはやくて、
ぼくたちの時代‥‥つまり90年代のことも
めちゃくちゃ詳しかったりして、
そういうタイプに、
「転がされるのもいいのかな」って思うし。
──
わはは(笑)。
転がされてるときは気持ちいいですもんね。
直角
ぼくの「カッコいいおじさん」の理想像は、
若い子たちにバカにされる人だし。
──
なるほど。本望ですらあると。
直角
直角さん、本当にクソジジイだね~って、
言われるおじさんのほうが、
オレはカッコいいじゃないかと思ってる。
──
その感覚はわかるんですけど、
そこに「リスペクト」は求めるんですか。
直角
究極、失礼な感じでイジってくる若者を、
どっしり受け止めて、
やさしく受け容れて、
「そうなの!」「どこがだめなのーっ?」
みたいに返せるおじさんが、
ぼくはステキだなって思っちゃいますね。
──
直角さんの、
おじさんとしての度量の深さを感じます。
直角
ただ、ムカつきはすると思うんですよ。
──
わはは、正直でいい!
はい、ムカつくでしょうね、十分に。
相手が若者じゃなくてもムカつきますよ。
直角
でも、自分の若いころを思い出したとき、
「クソジジイ~」って
ふざけて言える人のほうが好きだったし。
──
ああ、リスペクトのあるなしというより、
好かれてるかどうか。なるほど。
直角
ぼくはもう若い子たちと接するときには
プライドなんか要らないと思ってます。
──
クエンティン・タランティーノの大傑作
『パルプ・フィクション』の中で、
ブルース・ウィリスも言ってましたしね。
「プライドなんか傷つくだけのものだ、
捨てちまえ!」と。
90年代の話で失礼しましたが。
直角
若いころのは自分は、
まわりのおしゃれなおじさんに向かって
「もうダセえっすよ、それ」
とか言いたかったタイプなんですよ。
受け容れてくれたら、
どんなに素敵な関係になれるだろうって、
勝手に思ってたんです。
──
だから、おじさんの側になったいまこそ、
逆に
「若者のすべて」を受けとめてやろうと。
それは「媚びてる」とはちがいますよね。
直角
たぶん。
──
なんなんでしょう、では。
令和の時代のコミュニケーションの形?
直角
なんなんでしょうね。
でも、ふとした瞬間に
「あれ‥‥この人って案外すごいのかも」
みたいに感じてもらえたら、
そのときマジなリスペクトが入ってくると
思うんです。
──
つまり、仕事で見せる。
直角
そこまでいけるかどうかですよ。俺が。

(つづきます)

2026-03-26-THU

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