こんにちは、ほぼ日の奥野です。
光石研さん主演でテレビドラマにもなった漫画
『デザイナー渋井直人の休日』の最新刊が出たので、
作者の渋谷直角さんと話してきました。
直角さんとわたくしと渋井直人は、ほぼ同世代。
50代のデザイナー渋井さんをとりまく、
おしゃれと加齢とペーソスとが交錯する日常を、
描く直角さんも、読むわたくしも、
少しずつ肌身で「実感」してきているようです。
おじさんによる、
おじさんのための‥‥かはわからないけど、
「俺たち、おじさん」について(?)、
わざわざ渋井さんの好きそうなおしゃれカフェで、
おじさんトークしてきました。

>渋谷直角さんのプロフィール

渋谷直角(しぶやちょっかく)

1975年生まれ。名前は本名。小山ゆう先生の『おれは直角』から名付けられた。マガジンハウスの『relax』でライター仕事をはじめ、同誌でマンガも描くようになり、以降、いろいろな雑誌やwebで主にマンガを描いている。

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第2回 誰もカテゴライズしたくない

──
ここ10年くらい、
おじさんについて考えてきた直角さんは、
現在の風潮として「おじさん」が
雑にひとくくりにされること‥‥などが、
ちがうんじゃないかと。
直角
デザイナー渋井直人の前に描いた2冊が
『奥田民生になりたいボーイ
出会う男すべて狂わせるガール』と、
『カフェでよくかかっている
J-POPのボサノヴァカバーを歌う女の一生』
という漫画なんですが、
これ、世間からの受け取られ方として、
「作者が遠くから見てる対象をバカにして
描いた作品だよね」
みたいな感じのものが多かったんです。
──
へええ。
直角
つまり、渋谷直角という漫画家は、
ものの見方が意地悪で、
ものごとを皮肉に見ているやつだっていう。
──
タイトルの印象ですかね。
読めば、ただただおもしろいんですけどね。
直角
もちろん、自分の中には
シニカルな部分もあるんですけど、
それを武器にして生きてきたわけでもない。
いろんなパターンで
やってきたつもりだったんで、
「そこだけ見られちゃうのかあ」って、
当時はちょっと悩んでいたんです。
そこで「渋井直人」くらい
自分に寄せた名前のキャラクターにすれば、
こっちの意図とか作風も伝わるのかな、と。
──
なるほど。自分のことですよ、と。
直角
ただ、その渋井さんのときですら、
「これは、誰のことを描いているんだ?」
「元ネタになっている人物を探そう!」
みたいな感じがあって、
いくら「モデルは自分です」って言っても、
ぜんぜん聞いてもらえないんですよ!
──
届かせたい声が、どこにも届いてゆかない。
風に舞い散る、おじさんの思い‥‥。
直角
むしろ、それとは真逆の
「絶対、誰かのことを揶揄してるんだ!」
みたいな声ばっかり大きくて。
だからもう、いろいろ諦めたっていうか、
「描き続けるしかない」と。
──
おじさんの姿を。
漫画家・渋谷直角の達観。
直角
ぼくはマガジンハウスの
おしゃれなおじさんに憧れていたわけだし、
渋井さんのことも好きなんです。
それと、当人のことをそんな知らないのに、
ああだこうだ言うやつも大嫌いでした。
なのに文句を言ってくる人たちからは、
ぼく自身が
そういうタイプに思われちゃってたんです。
──
忸怩たる思いですね。
直角
ええ~、そんなあ~みたいな。
──
昨日、1冊目の単行本から読み返してたら、
最初は、渋井さんが残念な目に遭っちゃう、
ただおもしろい漫画だったものが、
回を重ねるにつれて、
どんどんおじさんという存在そのものに
エールを贈っているかのような‥‥。
直角
そうかもしれませんね。それこそ第1話は、
アイビー好きな渋井さんが、
お気に入りのグローバーオールかなんかの
ダッフルコートを着て
若い人の展覧会へ行ってみたら、
そこにいるおじさんが全員、
まったく同じダッフルコートを着てた話で。
──
足元は、一様にクラークスっぽい靴でね。
つまり、若手のクリエイターに招待されて
やった~自分は特別だと浮かれて、
渋井さんなりにスキのないファッションで
展覧会場のドアを開けたら、
そこには、
自分とそっくりな格好をしたおじさんが
ウヨウヨいた‥‥という。
直角
自分もほかの多くのおじさんと同じだった、
自分は特別だというのは、
渋井さんの思い込みだったという話ですが、
これも
「渋谷は、おしゃれデザイナーおじさんは
ダッフルコートを着てると捉えてるんだな」
みたいな考察が入ったりするんです。
──
そりゃあ、うがった見方すぎませんか。
どうしても
そういう人だと思いたいんでしょうか。
直角
むしろ、ぼくはファッションが好きですし、
ファッションで属性を決めるのも嫌。
それってもっと内面的っていうか、
その人の歩んできた歴史が、
その人のファッションを形づくっている、
という気持ちがあるんです。
だから、かつてストリートにいたおじさんが、
いまもSupremeのキャップを被って
ハーフパンツを履いてる‥‥みたいなことを
揶揄したりはしたくない。
そういう依頼が来ても、ずっと断ってました。
──
そういう依頼?
直角
「ナンチャラ女を系統を立てて、
解説してもらえませんか」みたいなやつとか。
──
あー、なるほど。
つまり、直角さんなら詳しそうだし、
おもしろおかしく話してくれそうだからと。
直角
うん。そういう依頼、たくさん来ましたよ。
ナンチャラ男、ナンチャラ女。
人の生態を音楽みたいにジャンルわけして。
──
そういう芸の人だと思われていた。
直角
仮に、そういうことを器用にやれたとして、
「じゃ、おまえはどうなの?」
なんて聞かれたら、
ぼく自身は
「ナンチャラ男です」とかって言えるほど
何かに詳しいわけでもないし、
そこまで自分を客観視することもできない。
ただ、こんなこと言ってても、
え、あんな仕事やってたじゃんというのが、
出てくるかもしれないけど‥‥。
──
わはは、
しっかりやってるじゃないですかと(笑)。
でも、直角さんの中には、
そういう気持ちがずっとあったんですね。
直角
たぶん、ぼくらが20代だったころ、
つまり90年代のマウントだと思うんです。
ナンチャラ女、ナンチャラ男って。
──
何かを分類し考察し展示し鑑賞する行為って、
ある意味で強者の論理というか、
家父長的、上から目線の行為であるとも
言えなくもないですもんね。
直角
そういうのが、嫌だったんです。
昔から、カテゴリーされる側だったんで。
──
だから、誰もカテゴライズしたくない。
つまり「おじさん」というたった一言で、
マウントを取るかのように、
本来は多種多様な「壮年以上の男性」を、
「文句を言っても大丈夫な人たち」
に押し込めてしまうのが、嫌なんですね。
直角
そうなんですよ。
「えっ、いまだにそんなことしてるんだ。
そんな、90年代みたいなこと?」
とかって思うし。
でも、そろそろ終わると思うんだけどな。
そういう価値観も。
──
そういう感じします?
直角
だって、いまの若い人たち、
ぜんぜんマウント取らないじゃないですか。

(つづきます)

2026-03-25-WED

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