フランス帰りのレ・ロマネスクTOBIさんに
あるとき、聞いてみたんです。
「シャンソンって悲しげな歌が多くない?」って。
そしたら、TOBIさんは
少し笑いながら「うん、みんな悲しいよね」って。
でも、その悲しみは、涙だけに彩られない。
ときにあたたかく、ときにユーモラスに、
人生まるごとを包み込むような大きさがあります。
演歌歌手の神野美伽さんが
「はじめてのシャンソン」で歌う予定の13曲を、
一曲ずつ、勝手気ままに、とりとめもなく、
TOBIさんとおしゃべりしました。
(歌唱順に話したわけではありません)

だまされて、老いさらばえて、すべてを失って。
それでもなぜか、どの歌も、どこか明るい。
人の人生の悲喜こもごもを、包みこんでしまう。
それが、シャンソンの優しさなのかも。
さあ、一緒に13の歌をめぐる旅に出ましょう。
担当はシャンソン係の「ほぼ日」奥野です。
ボン・ヴォヤージュ。

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11  黒い瞳

TOBI
この「黒い瞳」という曲は、
もともとはロシア民謡だと思うんですけど、
郷ひろみさんが
「哀しみの黒い瞳」って歌ってるんですよ。
──
なるほど。何か関係があるんですかね?
TOBI
「♪なぜにィ~ほほえむの~かゥァゥァ~」
って歌なんだけど、
フリオ・イグレシアスの
「黒い瞳のナタリー」という曲のカバーで。
──
あー、なるほど。
TOBI
で、そのフリオ・イグレシアスの歌った
「黒い瞳のナタリー」が、
ロシア民謡の「黒い瞳」のメロディーに
オリジナルの歌詞をつけてるんです。
──
一説には、「黒い瞳」って、
19世紀中頃にフランス人のつくった歌が
ロシアに持ち込まれ、
ロシア語の歌詞をつけられて歌われ親しまれ、
ロシア民謡として広まったそうです。
TOBI
そうなんだ。
──
つまり、日本の郷ひろみさんの歌った歌の
源流を遡れば、地球をまわりまわって
スペインからロシア、
そして、フランスへとたどりつく‥‥。
TOBI
なるほど。
当時、日本でフリオ・イグレシアスの
人気がすごかったことは、
ぼくは肌では感じてなかったんですが、
ちょっと年輩の女性たちが
「フリオ~! フリオ~!」と熱狂していた、
というウワサは聞いています。
広島の片田舎にも、
「ナタリ~」とフリオの真似するおじさんが、
近所に何人かいました。
──
ヒバゴンとTOBIのふるさと、比婆郡に。
TOBI
ともあれ、ぼくは「黒い瞳」といえば、
郷ひろみさんの歌が真っ先に思い浮かびます。
──
あ、郷ひろみさんの「哀しみの黒い瞳」って、
日本語詞が岩谷時子さんですね。
シャンソンと言えばの越路吹雪さんの相棒で、
「愛の讃歌」はじめ、
数々のシャンソンの訳詞を手掛けられた。
そこでも、シャンソンとつながっているんだ。
TOBI
それを言うなら、
郷ひろみさんの「男の子女の子」も岩谷さん。
さらには「花とみつばち」って曲があって
それも岩谷さんの作品なんだけど、いいです。
歌い出しが
「どうでもいいけど帰るのいるの 
夜明けだよ まぶしいのは裸の胸さ」って歌。
──
歌い出しからそんな感じなんですか。
TOBI
ぼくは、その曲がいちばん好きです。
岩谷さんがつくった、郷さんの歌の中では。
──
なるほど。これまでの話をまとめますと‥‥。
フリオ・イグレシアス「黒い瞳のナタリー」
のカバー曲で、日本語の詞については
「どうでもいいけど帰るのいるの 
夜明けだよ まぶしいのは裸の胸さ」という
すごい歌いだしの曲をつくった
岩谷時子さんの手掛けた
郷ひろみさんの「哀しみの黒い瞳」の源流は、
フリオ・イグレシアスのスペインを経由して
ロシア民謡の「黒い瞳」にたどりつくけれど、
さらにさかのぼれば、19世紀フランス‥‥。
TOBI
そういうことになりますね。

(つづきます)

撮影:福冨ちはる

2025-11-11-TUE

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