フランス帰りのレ・ロマネスクTOBIさんに
あるとき、聞いてみたんです。
「シャンソンって悲しげな歌が多くない？」って。
そしたら、TOBIさんは
少し笑いながら「うん、みんな悲しいよね」って。
でも、その悲しみは、涙だけに彩られない。
ときにあたたかく、ときにユーモラスに、
人生まるごとを包み込むような大きさがあります。
演歌歌手の神野美伽さんが
「はじめてのシャンソン」で歌う予定の13曲を、
一曲ずつ、勝手気ままに、とりとめもなく、
TOBIさんとおしゃべりしました。
（歌唱順に話したわけではありません）
だまされて、老いさらばえて、すべてを失って。
それでもなぜか、どの歌も、どこか明るい。
人の人生の悲喜こもごもを、包みこんでしまう。
それが、シャンソンの優しさなのかも。
さあ、一緒に13の歌をめぐる旅に出ましょう。
担当はシャンソン係の「ほぼ日」奥野です。
ボン・ヴォヤージュ。
- ──
- ほとんどの方が知っている名曲ですよね。
- 岩谷時子さんが一晩で書きあげた訳詞を、
越路吹雪さんが歌ったという。
- TOBI
- 「♪あなた～の 燃える手で～」という、
岩谷さん版が有名ですけれど、
ほとんど岩谷さんの創作だと思います。 - もともとは、もっと激しい詞だから。
「♪あなたが望むなら大金さえも盗むわ」
みたいな。
- ──
- そうなんですか。知らなかった。
- TOBI
- 「♪あなたが望むなら
黒い髪をブロンドに染めたっていい」 - 「♪あなたが望むならすべて捨てる
祖国も捨てる 友人も捨てる」
- ──
- はげしい‥‥！
- TOBI
- 「♪あなたが死んだら
わたしも死ぬから かまわない」って。
- ──
- たしか美輪明宏さんも、
元の歌詞をいっそう実感して歌えるよう、
自ら訳してらっしゃいますよね。 - この「愛の讃歌」を。
- TOBI
- ぼくが思うに、この「燃える手」の人は、
もういないんじゃないか、と。 - だって、たとえば
「♪命の限りにあなたを愛するの」って、
愛しい人はもういない、
「あなた」に「捨てられている」からこそ
活きてくる歌詞だと思うし。
- ──
- なるほど‥‥その聴き方は深いですね。
- いま現在、愛し合っている幸せなふたり、
という歌ではないものとして聴く。
- TOBI
- 「♪わたしの願いは ただそれだけ
あなたと二人」という箇所も、
「愛しい人はもういない」前提で聴くと、
より深みが出てきます。 - これはつまり「妄想の曲」だと思います。
「♪あなたの燃える手で わたしを抱きしめて」
の部分には
（その手は、もうないけれど）。
「♪ただ二人だけで生きていたいの」
の部分には（それはもう、かなわないけれど）、
という反語を補って聴いてみてください。
- ──
- 切ない‥‥。
- TOBI
- 「♪頬と頬よせ」
（もう頬と頬はよせられないけれど）。 - 「あなたと二人で暮らせるものなら、
何にもいらない」
（だって、もう暮らせないのだから）。
- ──
- おそろしや、シャンソン。
切ないの底なし沼。
- TOBI
- おそらく、この女の人は、
何らかのあやまちを犯してしまったんです。
そのために男が出て行ってしまった。 - だから後悔してるという歌だと思うんだけど、
そういう歌を、
さまざまな恋愛を経験したピアフが歌う。
- ──
- ピアフが歌えばこその「愛の讃歌」だと。
- TOBI
- そういう歌として聴いていますね、ぼくは。
（つづきます）
撮影：福冨ちはる
2025-11-05-WED
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演歌歌手の神野美伽さんが歌う
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