──

19歳のとき越路吹雪さんを知り、
ソワレさんご自身も歌を歌うようになって、
もう「30年」になるわけですね。

ソワレ

はい。

──

いま、シャンソンについて、
どういう魅力のある音楽だなと思いますか。

ソワレ

まず、なんでもありなところ。
フランスのお国柄もあると思うんですけど。

それに、ぼくは
自分ひとりで音楽を聴くのが好きなんです。
歩きながらとかね。
で、そういうときに感じるのは、
ひとりであるとか孤独とか、そういうこと。

撮影：にしの ゆうき

──

ええ。

ソワレ

シャンソンって、そういうときの気持ちに
ぴったり寄り添ってくれる曲が多い。

このへんのことを、
もうちょっと上手に言いたいんだけど‥‥
シャンソンの何がいいのか、
ここまで来ると、もう、わかんないな。

──

いや、いまのお答えで伝わってきましたが、
質問の仕方をちょっと変えて‥‥
ソワレさんご自身が
シャンソンを歌い続けてるのはなぜですか。

ソワレ

それなら、答えられる。

歌うことで、
ぼく自身が生かされてるからじゃないかな。

──

おお。

ソワレ

もちろん「仕事」だって意味じゃなくてね。
だって、ぜんぜんお金もうかってないし。

いま、４軒やっているお店の収入で
やってはいけてるんだけど、
歌は、やればやるほど赤字。
でも、歌を歌ったことで出会いがうまれて、
その先には「道」があった。

──

人生の道が。

ソワレ

だからといって、
音楽至上主義な人間でもないんですけどね。

音楽よりも、ごはんを食べたり、
スーパーで買い物したり、税金を払ったり、
ふだんの生活のほうが、
よっぽど大事だって思っている人間なので。

──

でも、
歌が、シャンソンが、人生を開いてくれた。

ソワレ

そう。戸川昌子さんとの出会いもそうです。
ぼくのバイト先のクラブに、
戸川さんが遊びに来てくださったんです。

なんだか、クラブで
シャンソンを盛り上げてるやつがいるって、
見に来たらしくて。
戸川さんの「青い部屋」に呼ばれたんです。

──

残念ながら閉店してしまった、
有名なシャンソニエ「青い部屋」ですね。

ソワレ

「あなた、ここぜんぶブッ壊してくれない」
って突然、言われたの。戸川ママから。

──

ブッ壊す‥‥って、ご自分のお店を？

ソワレ

青い部屋が、酒を飲ませてもうけるだけの
未来のないシャンソニエになってる。
そんな場所はブッ壊して、
若い人たちの集まるハコにしてくれって。

そんなの絶対イヤだから断ったんですけど、
そのときに自分の心臓が、
ビックリするくらいドキドキしちゃって、
当時まだ20代、
どうしようかなって一晩だけ考えたけど
「じゃあ、ブッ壊します」って言いました。

──

で、ブッ壊した‥‥。

ソワレ

ええ、おのぞみどうりに。

青い部屋を、クラブに変えちゃったんです。
2000年の12月に大改装しました。

──

そういうことだったんですか。
つまりリニューアルのプロデュースをした。

ソワレ

初代の店長も、やらせていただきました。

いまじゃ絶対できないような、
素敵なパーティーをたくさん、やりました。
戸川さんともいい関係で、
３年半くらい続けたんですけど、
もう他人に気を使うのはやめようと思って、
自分でぜんぶ責任を取れるほうが
自分らしいかな、と思って、
ゴールデン街に自分のお店を出したんです。

──

そのお店で、流しのアコーディオン弾きを
やっていたのが、
チャラン・ポ・ランタンの小春さん‥‥！

ソワレ

自分のお店を持ってからは、
もう人の面倒は見ないって決めたんだけど、
不思議なもので、しばらくしたら、
ピエール・バルーの連れ合いのアツコが、
「お店を出したい」って言ってきて。

ぼくたち、すごく仲がよかったんです。
ご存じですか、アツコ。

──

はい、存じ上げています。

ピエールさんにインタビューをしたときに、
同席して通訳してくださいました。

ソワレ

そう、そのアツコから
「ソワちゃん、店のプロデュースやってよ」
って話が来たの。2010年。
それが、渋谷のサラヴァ東京っていうお店。

──

そうだったんですか。
いまはなき東急文化会館の脇にありました。

ソワレ

同じころに、青い部屋が閉店したんですよ。
戸川昌子ママから
「ソワレ、あのお店なくなるんだけど」
「え、ちょうどぼく店をやるんだよね」
という話から、
サラヴァ東京で、
戸川昌子が毎週ライブをやることになって。

──

めぐりあわせですね。人生って。

ソワレ

本当に不思議な話。

──

ピエールさんが主宰していた
ヨーロッパ最古の有名なインディーズの
レコードレーベル「サラヴァ」が、
そのサラヴァ東京で、
50周年記念展を開いたじゃないですか。

ソワレ

はい、はい。

──

そのときピエールさんが来日したので、
展覧会場で、
インタビューさせてもらったんですよ。

ソワレ

あ、ほんと？　ぼく、その場にいたかも。
日本のマネージャーだったから。

──

おお、そうなんですか。

インタビューさせてもらったあとすぐに、
ピエールさん、亡くなってしまって‥‥。

ソワレ

そうね。2016年12月の末に亡くなって、
年が明けて１月に向こうでお葬式でした。

亡くなる直前に、
渋谷O-EASTでコンサートをやりました。

──

ピエールさんもご出演なさった
サラヴァ50周年のコンサートですよね。

ソワレさんのお仕事だったんですね。
不思議なご縁を感じます。

ソワレ

2016年って年は戸川ママが亡くなって、
ほどなくピエールも死んじゃった。

サラヴァ東京は、
結局ぼくがオーナーを引き継いだけど、
2019年２月に、ビルの都合で
閉店することになって、
それで、サラヴァの備品一式を持って、
新宿にお店を出したんです。

──

かつてピエールさんがおっしゃっていた
「自分の得たよろこびだけを灯りにして
進んでいけば道に迷うことはない。
それは君の人生の唯一の道しるべだから」
という言葉が、
ぼくは、なんだか、すごく好きなんです。

ソワレ

ええ。

──

それって、
サラヴァっていうレーベルのありようを
よくあらわしているなあと思うんですが、
河合奈保子さんをきっかけに
越路吹雪さんを知り、
シャンソンを知って‥‥という
ソワレさんの人生にも、
あてはまるんじゃないかなと思いました。

ソワレ

そうかもしれない。

──

ソワレさん自身がいろいろ引き寄せてる、
みたいなこともありそうですけど。

ソワレ

これまで、ぼくの人生が動くときって、
人とのつながりとか
誰かと触れ合いとか、
そのほとんどが受け身、受動的なんです。

青い部屋の話も、サラヴァ東京の話も、
道しるべのようにして、
ぜーんぶ、あっちから来ているんです。

──

人とのつながり。

取材が終わったあと、
ピエールさんに「紙とペンある？」って
言われたんです。
何だろうと思ってお渡ししたら、
サラサラとパリのおうちの住所を書いて、
「パリに来たら、遊びにおいで」って。
ほんの２時間ちょっとの取材で
そんなこと言われたのは
あとにも先にも、あのときだけなんです。
シャンソンまわりの人って、
何だか‥‥そういうところがあるような。

ソワレ

ピエールは、そういう人ですよね。
ぼくも、はっきりした性格ではあるけど、
頼まれると断れないところはある。

だから、青い部屋だサラヴァ東京だって、
いろいろ関わらせてもらったので。

──

シャンソンや、シャンソンのまわりに
いる人を知れば知るほど、
「人生」みたいな言葉が思い浮かびます。

ピエールさんが倒れて運ばれたとき、
みずからつくって歌った
「水の中の環」を歌っていたと聞きました。 
若い救急隊員が
ピエールさんのことを知らなかったようで、
「ぼくは歌手です」と教えてあげたと。

ソワレ

ええ。

──

思えば、その歌もシャンソンですもんね。

「人生はめぐっていくけれど、
大事なものは変わらない」っていう歌も。

ソワレ

だから‥‥自分自身を振り返ってみると、
人との出会いに導かれて、
頼まれてお店をやったり、
大好きな越路さんのＣＤをつくったり、
歌だけにしがみついた人生では
なかったんだろうなあ、って思うんです。

もちろん、シャンソンは好き。
これはこれで、自分らしい人生だと思う。