ジャズやロック、笠置シヅ子さんのブギウギなど
さまざまなジャンルの音楽に挑んできた
演歌歌手の神野美伽さんが、
こんどは「シャンソン」を歌おうとしています。
数千人規模の会場で演歌を歌っていたとき、
人知れず、
数十人の前でシャンソンを歌っていた神野さん。
コロナと手術で「歌」を禁じられたとき、
神野さんを救ったのが「オー・シャンゼリゼ」。
そんな神野さんが歌う「はじめてのシャンソン」、
本番は11月15日、会場は赤坂の草月ホール。
チケットは、まだ、手に入ります。
神野さんのシャンソン、ぜひ聞きに来てください。
きっと、すばらしい会になります。
担当は「はじめてのシャンソン」係の奥野です。

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第５回 扉を開ける人、導く人

──
さっき、荒井洸子さんの歌を「明るい」って
おっしゃってましたが、
ぼくもシャンソン、
いまいろいろ聴いてるんですけど、
意外に明るい曲調の歌が多いなと思いました。
たとえば、沢田研二さんも歌っていた
「脱走兵」って曲も、
自分は戦争には行きたくない、
つきましては大統領閣下、
赤紙が来たけど徴兵拒否しますって歌ですが、
曲調は明るいんですよね。
神野
そうですね。沢田研二さんも、
いろんなシャンソンを歌ってらっしゃいます。
──
「群衆」とか。「愛の讃歌」とかも。
神野
どれも暗い感じはしないですもんね。
沢田さんって、本当に幅が広かった。
演歌でいったら、ちあきなおみさんですね。
シャンソンも、ファドも、ジャズも、
そしてド演歌も。
わたしは、それが「歌手」だと思うんです。
──
シャンソンが「歌」という意味であるように、
歌手は「歌を歌う人」であると。
神野
そう、「いろんな歌」を歌う人。
ちあきさんという存在がいてくださったから、
「歌手って歌を歌う人だ」という考えが、
わたしの中で完成してしまったんです。
だから自然と、
そういう歌手を目指すようになったんだと思います。
──
歌を歌うのが歌手。カッコいいなあ。
でも、ハタチから銀巴里に通って、
パリのシャンソニエめぐりもしていたけれど、
「シャンソンのコンサートをやろう」
っていうタイミングは、こなかったんですね。
神野
求められなかったから、シャンソンを。
これまでの歌手人生の中では。
笹尾さんみたいな人がいなかったから。
──
じゃあ、めずらしい人が現れて（笑）。
神野
そう（笑）。松原先生は
「きみは、きっとそういう歌手になる」って
言ってくださいましたけど、
「シャンソンのコンサートをやったらどう？」
なんて提案してくる人ではなかった。
でもね、笹尾さんと松原先生って、
わたしのなかでは、すごーくつながるんです。
──
似てる？
神野
似てる。松原先生が亡くなって、
お墓参りにも行かせていただいたんですけど、
そのときに、
昔、先生が昔くれた手紙とか、
仕事のプランを書いた紙を読み返していて。
笹尾さんも、最初に「ほぼ日」のみんなに
会のプランを描いてくれたでしょ。
──
そうなんです。いつも描いてくださいます。
コンセプトが凝縮した、
エッセンスの塊みたいな資料なんですけど。

神野
そういうことする人、めずらしいですか。
──
あそこまでの資料を作ってくる人はいないです、
他にはあんまり。
もう、ちっちゃな「アートピース」なので。
神野
でしょ？　
松原先生が、そういう人だったんですよ。
──
そうなんですか！
神野
はい。コンサートの構成を考えるときには、
必ず「絵から描く」んです。
先生によく言われたのは、
「緞帳が開いてから下りるまでの２時間、
どんな景色の中を
あなたが歩いていくのか絵で表現なさい」。
絵なんか描けませんって言うと、
「お花の絵でもいいし、空の絵でもいい」。
──
うまいとか下手とかじゃなく。
神野
そう、ストーリーをイメージさせるために、
「絵で描いてみなさい」って。
そういうことを、教えてくださいました。
今回、最初の打ち合わせのときに、
笹尾さんが持ってきてくださったじゃないですか。
絵の描かれた、手づくりの資料。
あのとき、本当にビックリしたんです。
「松原先生が憑依したんじゃないか！」って（笑）。
──
松原史明先生が憑依して
笹尾光彦さんにおなりになったって思うと、
ちょっとおもしろいです（笑）。
神野
年齢的にも同じくらいでしょうしね（笑）。
でも、書き文字の感じも似ているんです。
笹尾さんみたいに
おしゃれなタイプではなかったんだけど、
おっしゃることが、そっくり。
「わたしがつながっていくのは、
やっぱりこういう人なんだなあ」‥‥って。
──
神野さんにとっての松原史明先生が
そうであったように、
笹尾さんも、ぼくらにとっては
「扉を開ける人、導く人」なんです。
神野
笠置シヅ子さんの舞台「SIZUKO」も、
松原先生の影響なんです。
音楽劇という形式が、
松原先生の頭のなかにはずっとあった。
だから、これまでも
コンサートの中の20分とか30分を使って、
ああいうお芝居的なシーンを
毎年、少しずつ入れたりしていました。
寝転がって歌うとか、
スリップ１枚でステージに立ったりだとか、
およそ「演歌歌手」なら
やらないことを、平気でやってこれたのは、
ぜんぶ松原先生が導いてくれたおかげだと思う。

──
先生に教わったこと、導かれたことが、
神野さんの血肉になっているんですね。
神野
その中のひとつの「シャンソン」を、
今回、この年ではじめてやらせていただく。
いまは、わたしがどこまでそれを‥‥
つまりシャンソンを、
「わたしの歌」という形で表現できるか。
──
その挑戦。
神野
ひとつ、心配なのは「お客さん」のこと。
荒井洸子さんについて行って、
小さなシャンソニエで歌ったときは、
シャンソンが好きで、
シャンソンを聴きたくて来ているファンが
目の前にいらっしゃったんです。
でも、今回は、そうではないですよね。
──
ええ。昔からシャンソンが好きだった方も
いらっしゃると思いますが、
神野さんの演歌のファンのみなさんも、
笹尾さんの絵のファンのみなさんも、
そして「ほぼ日」の読者のみなさんもいる。
いろんな人たちが混じり合う場になります。
当然「はじめてのシャンソン」なので、
ほとんどシャンソンのことを知らない方も、
たくさんいらっしゃると思います。
神野
そういう、さまざまなお客さまに対して、
どんなふうに歌を歌えばいいのか。
あと一ヶ月の間に、突き詰めていきます。
最終的には
「わたし自身がいいと思うように歌う」、
それしかできないんですけど。
　
（明日へ続きます）

「君恋し」 (SKA Arrange Ver.)
Mika Shinno with ASA-CHANG TRIO

フランク永井さんが歌った「君恋し」を、SKAアレンジしたヴァージョンです。バックを務めるのは、こちらも東京スカパラダイスオーケストラの創始者・ASA-CHANGさんのトリオ。2020年11月4日、東京丸の内のコットンクラブにて。カッコいい〜です！（奥野）

（つづきます）

2025-10-28-TUE

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