こんにちは。ほぼ日の永田泰大です。
オリンピックのたびに、
たくさんの投稿を編集して更新する
「観たぞ、オリンピック」という
コンテンツをつくっていました。
東京オリンピックでそれもひと区切りして、
この北京オリンピックはものすごく久しぶりに
ひとりでのんびり観戦しようと思っていたのですが、
なにもしないのも、なんだかちょっと落ち着かない。
そこで、このオリンピックの期間中、
自由に更新できる場所をつくっておくことにしました。
いつ、なにを、どのくらい書くか、決めてません。
一日に何度も更新するかもしれません。
意外にあんまり書かないかもしれません。
観ながら「 #mitazo 」のハッシュタグで、
あれこれTweetはすると思います。
とりあえず、やっぱりたのしみです、オリンピック。

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6スノーボードパラレル大回転

オリンピックの幸福な観方

 
自国の選手も代表チームも出場していなくて、
とくに誰もどちらも応援してないオリンピックの競技を、
ただ目の前で展開しているスポーツとして
静かに観戦している時間というのは最高である。
もう、これこそが純粋にスポーツ観戦だ、という気がする。
春はあけぼの的に言うなら、
夏と冬はオリンピック観戦。
応援なきは、さらなり。
たとえばなにかの競技を観たあとに、
BSかなんかをつけっぱなしにしていたら
いつのまにか普段あまり観ない競技がはじまっていて、
国名をみたらカザフスタン対ブルガリアとかで、
なんだか会場がワーワー盛り上がってるなと思ったら
なるほど実力伯仲のいい試合で、
そのまま観るともなく観ていたら観ているうちに
ハイハイこういうルールなのねとわかってきて、
わかってくるとわからないこともわかってくるので
そのわからないことをネットで検索したら
ズバリの要点がピタリと書いてあって腑に落ちて、
まるでテトリスの縦棒がスッと入ったみたいに
競技のおもしろがり方みたいなものまで含めて
ぜんぶがなるほどなるほどとわかってきて、
ああ、この競技はおもしろいなと感じた瞬間に
たまたま素人目にもわかるすばらしいプレーが生まれて
スローを観ながら思わずすげぇななどと声に出して、
テレビのボリュームをすこし上げて座り直すころには、
競技の展開に一喜一憂するほどではないんだけど
でもなんとなくこっちが勝ったらいいな
くらいの贔屓は自然に生じていて、
若干とはいえ気持ちの重みが一方へ偏ったら
それはそれでおもしろさにまた一層拍車がかかって、
しだいにこうなればいいと願いはじめて
あたかも数年前からその競技を観ているような感じで、
よし行けとかオッケーオッケーとか攻めろとか
いくつも短く口から飛び出るとき試合はすでに終盤で、
どうやらこれは明らかに名勝負なんなら伝説、
というほどに展開が二転三転四転五転し、
うわっとかのにゃッとか奇妙な声が漏れ出すうちに
気まぐれなオリンピックの女神が
どちらかにチュッとキスをして、
一方が拳を突き上げ一方が頭を抱えて
でもぼくはどちらが勝とうとたいへん清々しくて、
勝者と敗者がたたえ合う場面では
スタンディングしながらオベーションし、
うわあ、この競技はおもしろいなと、しみじみ思う。
そういう人に、私はなりたい。
そういうオリンピック観戦を、私はしたい。
昨日の昼に行われていた
スノーボードパラレル大回転などは
まさにそういう競技の典型で、
正直、ふだんはまったく意識してないスポーツだけれど、
観れば観るほどわかっておもしろい。
見晴らしのいいコースをスノーボードに乗った選手が
蛇行しながらふたり並んで降りてくる。
ルールを知らなくても旗のあるところを曲がりながら
速さを競うのだなとすぐわかる。
しかも予選は純粋にタイムを競うが、
16人で行う決勝はトーナメント形式で
同時に滑る相手よりちょっとでも先にゴールすれば
勝ち上がっていくシステムだから、
まあ、どんどん気持ちが入っていく。
おまけに展開が早くてどんどん滑る。
スノーボード、人呼んで、
のびたのパラレル大回転とはこのことである。
さらに、女子のパラレルには王者がいて、
ぼくは平昌のときにすっかり魅了されたのだけれど、
なぜというにチェコのエステル・レデツカは、
アルペンスキーとスノーボードの
両方で金メダルをとったのである。
二刀流、と流行りのことばで片付けることなかれ、
アルペンスキーとスノーボードですよ?
そりゃぁ大谷翔平はたしかにすごい。
ルックスもいいし人間性も素敵だ。
メジャーリーグで9勝してホームラン46本打って
MVPなんて漫画もいいとこだ。
花巻東高校に在籍していたころ、
ともに身長2メートル弱のエースどうしで
当時はライバルといわれていた
藤浪晋太郎のいる大阪桐蔭と
春の甲子園で一回戦で当たったときには
甲子園にやはり魔物はいるとぼくは思ったものだ。
違う、語りたいのは野球のことじゃない。
のびたのパラレル大回転の話である。
大谷翔平が二刀流といってもそれは
野球という競技のなかの投手と野手という、
役割上での二刀流ということである。
むろん、それだってとんでもなくすごいのだが、
そっちの話は今回の主軸ではないので、
文脈上、彼にはなんと噛ませ犬になっていただく。
おお、なんと贅沢なキャスティング。
ドン・キング永田とはこのことである。
一方、エステル・レデツカの二刀流は
スノーボードとアルペンスキーで、
そもそも違うスポーツだし、
雪で滑るはみな同じといえども、
片方はスキーで片方はスノーボードで
道具からなにからまったく違うんですよお客さん。
そういう特徴的な選手であるから、
競技中、一度はかならず
アナウンサーが解説者に聞く。
「スノーボードとスキーは
まったく違うものなんですか?」と。
すると問われた解説者の方は、
刈屋富士雄アナウンサーに
「フィギュアスケーターは
エキシビジョンで滑るときは
競技のときとは違うものなんですか?」
と質問された五十嵐文男さんが
「こういうスポットライトのなかで跳ぶのは
すごく難しいんですよ」とかならず返すように、
「スノーボードとスキーは、競技として
もう、まったく違います!」と断言する。
それほどレベルの異なるふたつの競技で
両方金メダルをとるってものすごいじゃないですか。
って、まさにペラペラと
コアなファンみたいに語ってますけど、
ぼく、平昌でたまたま観て知って、
へーーすげーーと思ってたらそのまま金メダルとって
うわああと思っただけですからね。
そのまま4年間すっかり思い出すこともなく、
昨日観て、うわあレデツカだレデツカだ
まだスキーもスノボもやってるんだ、と驚いただけで、
ほんと、にわかファンもいいとこなんです。
でも、ほんとはそうやって、
なんとなく観ているのに
一流どうしの本気の競い合いだから
どんどん惹きつけられていって、
つけっぱなしのBSでなんとなく観ていた
エストニア対アゼルバイジャンだったのに、
俺はすっかり彼のファンになっちゃったよ、
というのがオリンピックの幸福な観方だと思う。
いちいち朝からその時間に備えて
テレビの前にすわって飲み物準備してドキドキして、
っていうのばっかりだとしんどいでしょう。
でもね、こんだけ長く書いてきて、
ぜんぶ台無しにするようだけど、
そのドキドキして吐きそうな瞬間のない
オリンピックなんて
オリンピックじゃないと思うんだよなあ。

(つづきます)

2022-02-09-WED

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