こんにちは。ほぼ日の永田泰大です。
オリンピックのたびに、
たくさんの投稿を編集して更新する
「観たぞ、オリンピック」という
コンテンツをつくっていました。
東京オリンピックでそれもひと区切りして、
この北京オリンピックはものすごく久しぶりに
ひとりでのんびり観戦しようと思っていたのですが、
なにもしないのも、なんだかちょっと落ち着かない。
そこで、このオリンピックの期間中、
自由に更新できる場所をつくっておくことにしました。
いつ、なにを、どのくらい書くか、決めてません。
一日に何度も更新するかもしれません。
意外にあんまり書かないかもしれません。
観ながら「 #mitazo 」のハッシュタグで、
あれこれTweetはすると思います。
とりあえず、やっぱりたのしみです、オリンピック。

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02 開会式

開会式は、


なにが起こるかわかっている。

 
開会式は、やっぱり
オリンピックの本編じゃないんだよなあ、と思う。
どんなに度肝を抜かれても、
美しさにため息が漏れても、
浮き浮きして踊りたくなっても、
開会式はオリンピックの本編ではないと思う。
あ、もちろん、大好きですよ、開会式。
閉会式も。
東京オリンピックのときも
開会式のチケットを申込みました。はずれたけど。
いちばん好きな開会式はアテネオリンピック。
あのギリシャ神話の神々を模した、
彫刻なんだかCGなんだかわからない
美しい人たちが次々に現れる夢心地ときたら!
それからやっぱりロンドンオリンピックの、
これでもかというくらい
自国コンテンツのスターが総登場するショウ。
女王陛下のヘリからのダイブも
テムズ川をボートで疾走するベッカムもすごかったけど、
やっぱり最高だったのはMr.ビーンのオーケストラでしょ。
トリノの爆音フェラーリもかっこよかったし、
ソチの悪夢みたいな巨大ぬいぐるみもしびれた。
古くは、バルセロナの弓矢で火を飛ばす聖火点火、
会場の大きな空間を深海にしてしまったシドニー、
そしてなによりロス五輪のジェットマン!
と、いうふうに、気を抜くと延々書き続けてしまうほど
ぼくはオリンピックの開会式が大好きなんですが、
それでもやっぱりそれは本編ではなくて、
オリンピックはまだはじまってないんだよなと思う。
スポーツのいちばんシンプルなおもしろさは、
なにが起こるかわからないことだ。
今日から17日間、ぼくらが熱心に109種目もの
競技を熱心に追い続けるのは、
なにが起こるかわからないからだ。
だって、どんなに世間が認める優勝候補の選手だって、
金メダルをとれるかどうかわからないですからね。
世界ランキング6年連続1位、みたいな人が、
終わってみればやっぱり金メダルだったけれど
準決勝は終盤のぎりぎりまで劣勢で
あれはほんとにやばかった大逆転だった、
みたいなことが余裕であるわけですからね。
なにが起こるかわからないことを、
こういうことが起これと祈りながら観るイベント。
オリンピックのひとつの側面を
そんなふうに言うこともできると思います。
と、いうことでいうと、
オリンピックの開会式というのは、
やっぱりなにが起こるか、わかってるわけですよね。
いや、実際には、ぼくらは知らないわけですが、
それは国際的なカバーがかけられているだけで、
その下にあるものは、ほんとは、わかっている。
とりわけプロジェクションマッピングと
事前に撮影した動画がセレモニーの主軸になって以降、
開会式はますますなにが起こるかわかるようになった。
そのぶん、ものすごく派手になったり
幻想的になったり規模が大きくなったりはするものの、
ぼくのような古いオリンピックファンは
むしろくり返されるお約束を味わうように
オリンピックの開会式をたのしく観ている。
何回観ても同じところで笑っちゃう
新喜劇をたのしむように。
だから、開会式や閉会式は大好きだけど、
オリンピックの本編とは違うと思うんです。
その意味でいえば、
もっともスポーツみたいだった開会式は、
バンクーバーオリンピックで、
ステージからせり上がってくるはずだった
巨大な柱が1本出てこなかったときだと思う。
誰の目にもわかるほど、
4本の柱のうち1本が引っ込んだままだった。
それはまさに、なにが起こるかわからなかった。
そしてその歴史的なアクシデントに際して、
バンクーバーオリンピックの裏方さんたちは、
まさにアスリートのように振る舞った。
取り返しのつかないミスはミスとして切り替えて、
つぎに自分がなにをすればベストかという
最善手を冷静に模索した。
バンクーバーオリンピックの閉会式は、
開会式のときに出てこなかった柱を
シルク・ドゥ・ソレイユのクラウンが
おもしろおかしく引っ張り出すところからはじまった。
世界中のファンはその切替とアイディアに拍手した。
それは、観ている私たちに勇気を与えるプレイだった。
バンクーバーオリンピックの
開会式のアクシデントと閉会式のりカバーは、
なんというか、スポーティーだったなあと思う。
さて、北京2022オリンピックの開会式のなかで、
個人的にスポーティーだなと感じたのは聖火だった。
若いアスリートが手に持っていたトーチを
雪の結晶のオブジェの真ん中にそのまま刺して、
みんなが「あっ」と驚いた瞬間、
オリンピック史上に残る小さな聖火台ができあがった。
それはまるで
ネットスポーツの老獪なベテランアスリートが、
強打の応酬のなかにスッと
絶妙なドロップショットを沈めたみたいだった。
さあ、いよいよ今日から本編がはじまります。

(つづきます)

2022-02-05-SAT

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