暮らしの中の小休止のように、
夢中になって没入できる編みものの時間。
ぎゅっと集中して、気がつけば
手の中にうつくしい作品のかけらが
生まれていることを発見すると、
満たされた気持ちになります。
編む理由も、編みたいものも、
編む場所も、人それぞれ。
編むことに夢中になった人たちの、
愛おしい時間とその暮らしぶりをお届けします。

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前編 一期一会の毛糸たち。 ニットデザイナー 伴真太郎さん

 
再生繊維の利用やリサイクルアイテムなど、
地球環境に配慮したサスティナブルな取り組みが
注目されるファッション業界。
ニットデザイナーであり、
みんなのニット共和国代表である伴真太郎さんは、
サスティナブルなニットアイテム製作に挑んでいます。
共に、ものづくりをしてくれるのは障害者施設の方々。
サスティナブル、かつ福祉にも関わり、
唯一無二のニット作品を生み出しています。

 
伴さんが代表をつとめる
アップサイクルのニットブランド
「ukniti(ユニティ)」の作品は色づかいが多様で、
個性的な風合いが魅力的です。
特別な風合いを生み出すのは、特徴的な糸。
「ukniti」の作品は、
アパレルメーカーから引き取った
ニットサンプルの高級糸をほどいた
「リサイクル毛糸」でつくられています。

 
「アップサイクルに本気で取り組みはじめたのは
2017年あたりです。
それまで、アパレルメーカーで
デザイナーの仕事をしていました。
アパレルの分野では廃棄の問題が
よく話題になっていましたし、
その後に勤めたイタリアの糸を輸入している会社でも
廃棄物が出ていたんですね。
 
廃棄を有効活用できないか考えていたときに、
たまたま友人の紹介で福祉施設に行くことになりました。
はじめて福祉施設に行ったんですが、
勝手な思い込みがあったというか
働ける人がこんなにたくさんいることを知り、
せっかくなら一緒に働きたいと思ったんです。
それで、実際に職員として福祉施設で働きながら
彼らの仕事ぶりを観察して、
一緒にものづくりができる方法を考えました」

 
一緒にできる仕事をつくり出すのは、
試行錯誤の連続だったと伴さんは話します。
「福祉施設では最初に編みものを教えました。
アトリエを福祉施設のなかに
つくっちゃえばいいんだ、と思ったんです。
でも、障害者といってもひと括りにはできず、
それぞれできることが違う。
編みものをできる人とできない人がいて、
たとえば10人中2人編みものができたら、
その2人にフォーカスがあたってしまい
他の8人に劣等感が生まれてしまうんです。
それはいけないことだとわかり、
みんなができる仕事を
作らなきゃいけないんだ、と学びました」

 
「みんなができる仕事」はなにか。
模索する中で見つけたのが、
リサイクル毛糸をつくってもらう仕事です。
 
「リサイクル毛糸は、
高級糸を扱っているメーカーから
廃棄予定のサンプル生地を引き取って、
ほどいて紡ぎなおし、毛糸玉にしたもの。
 
リサイクル毛糸なら、
僕が編んだりデザイナーさんに渡して
作品にしてもらったり、
使い道がいろいろあるから
いいんじゃないかと思ったんです。
それに、できたぶんだけ買い取る、という
臨機応変な生産管理になるので施設の負担にならない。
やりはじめてみたら、すごくうまくいきました」
 
今では協業できる福祉施設が、
11まで増えたそう。
買い取られたリサイクル毛糸は、
デザイナーさんたちの手によって
あらたなアイテムに生まれ変わります。

 
「見本帳やサンプルといった
小さな編み地をほどいて毛糸玉にするので、
同じ色でそろえて
一着をつくれるほどの量はないんです。
なので、糸を混ぜるしかない。
絵の具のようにいろいろな毛糸を混ぜて、
一つのモノをつくっていく選択肢になるので、
そういう特性を活かして
なにができるのか考えてデザインしています」

 
作品をいくつか見せていただきました。
まずは、オーダーメイドのニット。
さまざまなテクスチャーの毛糸を組み合わせた、
世界で一点だけの特別なニットです。
 
「僕の展示会にお客さんとして来てくれた職人さんが、
活動自体に興味を持ってくれていて
『一緒になにかやりたいです』
と声をかけてくれたことがはじまりで、
今ではいろんな作品を一緒につくっています。
 
これらは、オーダーするときの見本。
色の好みを聞いたり
背格好に合わせてデザインを変えたり、
オーダーくださった方の要望に合わせて
つくるようにしています。
 
うちは材料が限られているので、
そこを逆手に取ってウリにしようと思っています。
機械編みではできないもので、
手編みでもこれだけいろいろな糸を混ぜて
グラデーションで編むことは難しい。
そういう特性を活かして、
他にもハンドウォーマーやポーチなど、
いろんなデザインを職人さんが提案してくれます」

 
「キラキラとした毛糸や色味が違う糸を
アクセント的に紛れ込ませられるのも、
うちならではだと思います。
最近は、リボン会社さんから素材をいただくことも。
工夫すればいろいろな素材と毛糸を合わせて、
作品をつくれるのではないかなと思っています」

 
一期一会の毛糸たちが集結して
できあがる作品たち。
機械をつかったブランケットにも、
種類のことなる毛糸が組み合わせられ、
とても手が込んでいます。
 
「ものすごくたくさんの種類の毛糸を
2~4本ほど組み合わせて、
ときどき1本だけ短い毛糸を混ぜたりして、
糸の長短を変えて模様をつくりながら
ブランケットをつくっています。
一つとして同じ毛糸はないので、
必然的にブランケットも
唯一無二の作品になりますね」

 
専用の道具を使って布に毛糸を打ち込み、
ラグマットなど布地をつくれる「タフティング」。
まるで絵を描くように糸をつむぐ、
リサイクル毛糸の楽しさを味わってもらえる
大事な機会として、
ワークショップの機会をもうけています。

▲タフティングワークショップの様子(伴さん提供) ▲タフティングワークショップの様子(伴さん提供)

 
「タフティングのラグマットづくりは
4歳の子どもからできる簡単なものなので、
参加のハードルが低い。
一般のお客さんと話せる貴重な機会になっています。

 
「僕自身、あまりアップサイクルや廃棄の話を
堅苦しく話したくないと思っているので、
ワークショップはすごくいい機会なんです。
糸のおもしろさを実感してもらえますし、
2時間くらいかかるので
雑談も含めていろんな話ができます。
そうすると自然な流れで、
『どうしてこういう糸なんですか?』『それは‥‥』と
話し始めることができて、
アップサイクルについて
自然と興味を持ってもらえる気がします」
あくまでも作品の魅力が最優先。
心から欲しいと思えるものをつくり、
結果的にサスティナブルや福祉といった
活動のことも知ってもらえたらいい、
と伴さんは言います。

 
「決して、社会にいいことをしよう、
という精神で会社をやっているわけではなく、
福祉施設の方と話すのが楽しいし
リサイクル毛糸は思いもよらない作品になるから楽しい、
という“楽しさ”から仕事をしています。
その気持ちが大事だと思うんですよね」

(後編では、伴さんの思い出深い作品を見せてもらいました。)

写真・川村恵理

2025-12-22-MON

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