暮らしの中の小休止のように、
夢中になって没入できる編みものの時間。
ぎゅっと集中して、気がつけば
手の中にうつくしい作品のかけらが
生まれていることを発見すると、
満たされた気持ちになります。
編む理由も、編みたいものも、
編む場所も、人それぞれ。
編むことに夢中になった人たちの、
愛おしい時間とその暮らしぶりをお届けします。

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後編 ものづくりが好きなことを再認識した。 TEMBEA 白石美久さん

 
Miknits2025の新作として発表した、
TEMBEAのプリント柄のトートバッグ編み針ケース
ニットから連想して、イエティと羊の柄を選びました。
こちらのプリントは、
白石さんが描いたオリジナルデザインになります。

 
「TEMBEAでは主に代表でデザイナーもつとめる
早崎(篤史)が立体造形、
私は平面のものや、プリント、色、素材などを選び、
デザインすることが多いです。
 
もともと、TEMBEAの直営店で働いていて、
そこから企画する側になりました。
デザイナーは早崎と2名体制です。
接客も好きだったので、
自分で作ったものを自分で売っていた時期もあります。
お客さんの反応を直接見れたのは、
とてもいい経験になりました。
良し悪しが手に取るようにわかるというか、
製作の参考になるんですよね。
あとは、売ることを覚えないと作れない、と
早崎に教わりました。
まだまだ勉強中ですが、
そこがわかってくると、ものづくりもしやすいです」
 
プリント柄は白石さんがはじめたもの。
思い入れがある柄は、
最初に描いた犬のプリント柄です。
TEMBEAのロングセラーアイテムの一つです。

 
「スタッフが少なかった頃で、
他の仕事をしながら数週間かけて、
コツコツ描きました。
まずは、犬に関する資料をたくさん集めました。
そこから、どの犬を描こうか選ぶのに時間がかかって、
最終的には好みと色のバランスで決めています。

 
TEMBEAは大人向けのブランドなので、
プリント柄のものを買ってもらえるかどうか
初めは感触がわからず緊張しました。
でも、蓋を開けてみたら反響があって、
一気にプレッシャーから解放されました。
お客さんは正直なので、
興味がないものは視界にも入らない。
お客さんからの反応が、
続けられる原動力になっています」
人気の犬柄は、色や犬種のバランスなど、
デザイン違いでも発表しています。

 
「ディティールにも手を抜かず、
思いを込めることで、
ほかで見たことがないような柄に
したいと思っています。
 
たとえば、複数色使った犬柄をつくったとき、
柴犬は絶対に入れようと思っていました。
柴犬に愛着のある方は多いだろうし、
和犬と幼犬が入り交ざったプリント柄は
めずらしいかなと思ったんです」
 
Miknits2025で発表したイエティと羊も、
TEMBEAで人気の柄。
雪山を登りながらアイデアがふくらんだイエティ、
図鑑の挿絵をイメージして描いた羊、
どちらもキュートな存在感があります。
 
「羊は、2019年F/Wで発表したものです。
冬なので羊がいいかな、とひらめいて
本や資料をたくさん探しながら形にしました。
わたしは犬がすごく好きなんですけど、
じつは羊に牧羊犬が紛れ込んでいるんです。
 
イエティは山に登ったときに思いついたもの。
雪山にイエティがいたらおもしろいなと
思ったのが絵を描いたはじまりです」

 
イラストのインスピレーションは、生活の中から。
自転車や登山など、日々の暮らしのなかで見つけた
インスピレーションをもとに資料を集め、
アイデアがふくらんでいきます。
 
「自転車をこいだり、山に登ったり、
体を動かしていると
アイデアが生まれる瞬間があります。
ふだんと違う環境に身を置くことで、
使っていなかった感覚が
研ぎ澄まされるのかもしれません。
あとは、歩くしかないので(笑)、
頭の中ではぼーっといろんなことを
考えられるのもいいのかもしれない。
 
そうやって生まれたアイデアを
いくつかストックしておいて、
最終的には『これでやりたいです』と
ひとつに絞って早崎さんに提案します。
 
ボツになったら悲しいので(笑)、
時間をかけて考えて、
『これだ!』というものがみえてきたら
全力で説得しにいきます」

 
編みものをはじめて、
ものづくりが好きなことを再認識したという白石さん。
「ぼーっとしているときも
手を動かしたいタイプだと、
編みものが生活に入ってきて思いました。
ものづくりが好きで、
それを仕事にできてありがたいです。
編みものだと模様編みが好きです。
じわじわと絵柄が浮き上がる感じが
イラストを描く行為に似ている気がします」
白石さんのものづくりは、
家族の影響もあるのかもしれません。
お母さまは編みものが上手、
お祖母さまも仕立て屋をやっていました。
「母は編みものをする人で、とても上手。
この白いニットは母が父に編んだもので、
重たいという理由であまり着ていなかったのですが、
私が譲り受けました。
デザインがとてもかわいいですよね。

 
母に影響されて、
中学の頃に編みものをしていました。
ガーター編みやメリヤス編みなど
とてもシンプルなものですが、
当時は根気がなくて続かなかった。
編みものを再開して、
わからないことがあると母に聞いています。
何回もやり直しているうちに
だんだんと手が覚えてきて、
急にできる瞬間が増えてきました。
最後に減らし目をしながら
輪に近づいている感じもとても楽しくて、
最後に糸を引っ張りますよね?
あれが、気持ちいいなと思って。
登山でも、小屋が見えてくると
急に元気になる感じと似ています(笑)」

 
編みもの道具は母から受け継いだもの。
「まだ、この棒針で編んだものはないんですが、
使いこなせるようになりたいなと思っています」

 
他にも必要なものを少しずつ揃えているところ。
TEMBEAのスキー柄のポーチに入れて、
アメリカで購入したカラフルなゴムで留める。
一つひとつのセレクトに
白石さんらしさが感じられます。

 
「私は編み針ケースよりも、
こうやって大雑把に入れられる方が
性格的にあっているかもしれません(笑)」
編みもののお供はレイ・ハラカミの音楽。
集中力が増すので編みものだけでなく、
プリント柄のアイデアを考えるときも
よく聴いているそうです。

 
これから編んでみたいものを聞くと、
『うれしいセーター』に載っている
石川直樹さんのセーターが編みたい、と白石さん。
「石川直樹さんがヒマラヤに持っていった、
と本に書かれていたのを読んで、
私も自分で編んだニットで山に登りたいと思いました。
山に登ると、圧倒的な自然を前に孤独を感じることがあり、
ふだんの生活が恋しくなる瞬間があります。
なので、いつも使っている、
TEMBEAのサコッシュやポーチ、
透明ポーチをお財布代わりに持っていくのですが、
自分で編んだニットを持っていくのが憧れです」

(白石美久さん、ありがとうございました!)

写真・川村恵理

2025-11-26-WED

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