
暮らしの中の小休止のように、
夢中になって没入できる編みものの時間。
ぎゅっと集中して、気がつけば
手の中にうつくしい作品のかけらが
生まれていることを発見すると、
満たされた気持ちになります。
編む理由も、編みたいものも、
編む場所も、人それぞれ。
編むことに夢中になった人たちの、
愛おしい時間とその暮らしぶりをお届けします。
- 「TEMBEAでは主に代表でデザイナーもつとめる
早崎(篤史)が立体造形、
私は平面のものや、プリント、色、素材などを選び、
デザインすることが多いです。
- もともと、TEMBEAの直営店で働いていて、
そこから企画する側になりました。
デザイナーは早崎と2名体制です。
接客も好きだったので、
自分で作ったものを自分で売っていた時期もあります。
お客さんの反応を直接見れたのは、
とてもいい経験になりました。
良し悪しが手に取るようにわかるというか、
製作の参考になるんですよね。
あとは、売ることを覚えないと作れない、と
早崎に教わりました。
まだまだ勉強中ですが、
そこがわかってくると、ものづくりもしやすいです」
- プリント柄は白石さんがはじめたもの。
思い入れがある柄は、
最初に描いた犬のプリント柄です。
TEMBEAのロングセラーアイテムの一つです。
- 「スタッフが少なかった頃で、
他の仕事をしながら数週間かけて、
コツコツ描きました。
まずは、犬に関する資料をたくさん集めました。
そこから、どの犬を描こうか選ぶのに時間がかかって、
最終的には好みと色のバランスで決めています。
- TEMBEAは大人向けのブランドなので、
プリント柄のものを買ってもらえるかどうか
初めは感触がわからず緊張しました。
でも、蓋を開けてみたら反響があって、
一気にプレッシャーから解放されました。
お客さんは正直なので、
興味がないものは視界にも入らない。
お客さんからの反応が、
続けられる原動力になっています」 - 人気の犬柄は、色や犬種のバランスなど、
デザイン違いでも発表しています。
- 「ディティールにも手を抜かず、
思いを込めることで、
ほかで見たことがないような柄に
したいと思っています。
- たとえば、複数色使った犬柄をつくったとき、
柴犬は絶対に入れようと思っていました。
柴犬に愛着のある方は多いだろうし、
和犬と幼犬が入り交ざったプリント柄は
めずらしいかなと思ったんです」
- Miknits2025で発表したイエティと羊も、
TEMBEAで人気の柄。
雪山を登りながらアイデアがふくらんだイエティ、
図鑑の挿絵をイメージして描いた羊、
どちらもキュートな存在感があります。
- 「羊は、2019年F/Wで発表したものです。
冬なので羊がいいかな、とひらめいて
本や資料をたくさん探しながら形にしました。
わたしは犬がすごく好きなんですけど、
じつは羊に牧羊犬が紛れ込んでいるんです。
- イエティは山に登ったときに思いついたもの。
雪山にイエティがいたらおもしろいなと
思ったのが絵を描いたはじまりです」
- イラストのインスピレーションは、生活の中から。
自転車や登山など、日々の暮らしのなかで見つけた
インスピレーションをもとに資料を集め、
アイデアがふくらんでいきます。
- 「自転車をこいだり、山に登ったり、
体を動かしていると
アイデアが生まれる瞬間があります。
ふだんと違う環境に身を置くことで、
使っていなかった感覚が
研ぎ澄まされるのかもしれません。
あとは、歩くしかないので(笑)、
頭の中ではぼーっといろんなことを
考えられるのもいいのかもしれない。
- そうやって生まれたアイデアを
いくつかストックしておいて、
最終的には『これでやりたいです』と
ひとつに絞って早崎さんに提案します。
- ボツになったら悲しいので(笑)、
時間をかけて考えて、
『これだ!』というものがみえてきたら
全力で説得しにいきます」
- 編みものをはじめて、
ものづくりが好きなことを再認識したという白石さん。 - 「ぼーっとしているときも
手を動かしたいタイプだと、
編みものが生活に入ってきて思いました。
ものづくりが好きで、
それを仕事にできてありがたいです。 - 編みものだと模様編みが好きです。
じわじわと絵柄が浮き上がる感じが
イラストを描く行為に似ている気がします」 - 白石さんのものづくりは、
家族の影響もあるのかもしれません。
お母さまは編みものが上手、
お祖母さまも仕立て屋をやっていました。 - 「母は編みものをする人で、とても上手。
この白いニットは母が父に編んだもので、
重たいという理由であまり着ていなかったのですが、
私が譲り受けました。
デザインがとてもかわいいですよね。
- 母に影響されて、
中学の頃に編みものをしていました。
ガーター編みやメリヤス編みなど
とてもシンプルなものですが、
当時は根気がなくて続かなかった。
編みものを再開して、
わからないことがあると母に聞いています。
何回もやり直しているうちに
だんだんと手が覚えてきて、
急にできる瞬間が増えてきました。
最後に減らし目をしながら
輪に近づいている感じもとても楽しくて、
最後に糸を引っ張りますよね?
あれが、気持ちいいなと思って。
登山でも、小屋が見えてくると
急に元気になる感じと似ています(笑)」
- 編みもの道具は母から受け継いだもの。
「まだ、この棒針で編んだものはないんですが、
使いこなせるようになりたいなと思っています」
- 他にも必要なものを少しずつ揃えているところ。
TEMBEAのスキー柄のポーチに入れて、
アメリカで購入したカラフルなゴムで留める。
一つひとつのセレクトに
白石さんらしさが感じられます。
- 「私は編み針ケースよりも、
こうやって大雑把に入れられる方が
性格的にあっているかもしれません(笑)」 - 編みもののお供はレイ・ハラカミの音楽。
集中力が増すので編みものだけでなく、
プリント柄のアイデアを考えるときも
よく聴いているそうです。
- これから編んでみたいものを聞くと、
『うれしいセーター』に載っている
石川直樹さんのセーターが編みたい、と白石さん。
「石川直樹さんがヒマラヤに持っていった、
と本に書かれていたのを読んで、
私も自分で編んだニットで山に登りたいと思いました。
山に登ると、圧倒的な自然を前に孤独を感じることがあり、
ふだんの生活が恋しくなる瞬間があります。
なので、いつも使っている、
TEMBEAのサコッシュやポーチ、
透明ポーチをお財布代わりに持っていくのですが、
自分で編んだニットを持っていくのが憧れです」
(白石美久さん、ありがとうございました!)
写真・川村恵理
2025-11-26-WED
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キットのような編みものの本、
『Miknits TO GO』販売中です。おうちで、バスの中で、公園で。
どこでも、だれでも、気軽に編みものを楽しんでほしい。
そんな思いがつまったムック本「Miknits TO GO」。
三國さん監修の編み図と編み針、
オリジナルのアラン糸がセットになっているため、
この一冊で作品を編みはじめることができます。
no.3は葉っぱ柄のベレー帽「木の葉のタム・オシャンター」、
no.4は編み込み柄が素敵な「オーロラミトン」を編めます。

