暮らしの中の小休止のように、
夢中になって没入できる編みものの時間。
ぎゅっと集中して、気がつけば
手の中にうつくしい作品のかけらが
生まれていることを発見すると、
満たされた気持ちになります。
編む理由も、編みたいものも、
編む場所も、人それぞれ。
編むことに夢中になった人たちの、
愛おしい時間とその暮らしぶりをお届けします。

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前編 登山と編みものは似ている。 TEMBEA 白石美久さん

 
帆布を使った丈夫なバッグや、
繊細なイラストがデザインされたもの。
バックブランド「TEMBEA(テンベア)」
手がけるアイテムは
スタンダードなデザインで、
日常使いとしてタフに使えるものばかりです。
デザイナーの白石美久さんは、
TEMBEAのバッグや小物など
幅広いデザインを手がけていて、
Miknitsのデザインにも携わってくださっています。

 
編みものをはじめたのは、
Miknitsを担当したことがきっかけ。
編み針ケースを製作するなかで
「編んでみたい」という気持ちがふつふつと湧き、
昨年の秋から編みはじめたばかりです。

 
「デジタルデトックスをしたいな、
とぼんやり思っていたときに、
編みものがいいんじゃないかなって思ったんです。
今は、眠る1時間前くらいに布団に入って、
編みものをすることが多いです。
だんだんと眠くなってきて、
『これ以上進めたら間違えそう』っていう
タイミングで編む手を止めます」
 
はじめて編んだものは、
『Miknits to go』のキット。
オーロラミトンのネイビーです。

 
「はじめてなら『Miknits to go』が
編み針もついているしいいですよ、
とミクニッツチームの山川さんに教えていただきました。
自転車に乗るので、
手袋が欲しいなと思っていたんです」

 
白石さんは登山も趣味。
巾着型のバッグに編みかけのものをしのばせて、
登山バッグに入れて持っていきます。
肩から斜め掛けをすれば、
サッと編みものができるのでとても便利。

 
「荷物を少なくして歩きたいので、
小物なら軽くて持ち運びやすいと思いました。
テントもかついで登ることもあるので、
山に泊まるってなると
目的地に到着後は暇な時間ができてしまいます。
そこで、編みものをするのですが、
すごく気持ちのいい時間です。

この写真は「北アルプス」に登ったときのもの。(白石さん提供) この写真は「北アルプス」に登ったときのもの。(白石さん提供)

 
そのときは小川が近くにあったので、
水が流れる音を聴きながら編みました。
あたたかいものを編むと、
肌寒い環境も相まって
家よりも集中できた気がします」
バラクラバも、
自転車や登山で活躍するシーンを想像して
編むことを決めました。

 
「途中で間違っていることに気づいて、
一度全部ほどいて編み直しました。
三國さんが打ち合わせのときに、
『間違えたらほどけばいいんです』と
仰っていたことがすごく印象に残っていて。
なんて軽やかなんだろう、と思いました。
まだ、編みはじめたばかりなので、
練習も兼ねて何度もほどいて
やり直せばいいかなと思えるようになりました」
 
「山と編みものは似ていると思います」
と白石さん。

 
「山も編みものも、地道。
一歩ずつ進まなければいけないですし、
道を間違えたら折り返すこともあります。
山を歩いていると、
こんな一歩で頂上に辿り着くのだろうかと
不安になることもあるんですが、
いざ登り始めると夢中になってしまい
あっという間に終わる感覚です。
そういう地道さや、夢中になる感じが、
似ている気がします」
編み途中のマフラーを見せていただくと、
とてもきれいな出来栄え。
「編みものは向いている方だと思います」と、
楽しさを実感しているところです。

 
「コツコツやれるものが好きなので、
編みものの時間の流れ方は
自分に合っている気がします。
三國さんが『手袋なら午前中で編めちゃう』と仰っていて、
まったく想像できないスピードだと思いました。
でも、私の場合はまだまだ経験が足りなくて、
急いで編むと間違えてしまう。
私の場合はゆっくり、
ひと目ひと目あっているか確認しながら
編むのがいいかなと思ってじっくり楽しんでいます」

(後編では、白石さんのお仕事の話をうかがいます。)

写真・川村恵理

2025-11-25-TUE

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