暮らしの中の小休止のように、
夢中になって没入できる編みものの時間。
ぎゅっと集中して、気がつけば
手の中にうつくしい作品のかけらが
生まれていることを発見すると、
満たされた気持ちになります。
編む理由も、編みたいものも、
編む場所も、人それぞれ。
編むことに夢中になった人たちの、
愛おしい時間とその暮らしぶりをお届けします。

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後編 つくることが日常。 女優 安田成美さん

 
「かわいい糸や布を見つけちゃうと、
つくりたいって思っちゃうんです」と安田さん。
材料ありきでものづくりが始まることもしばしばです。
手芸屋さんでかわいい素材を見つけると、
そこからインスピレーションがまた膨らんでいきます。

 
「これは、がま口部分があまりにもかわいかったので、
なにかつくりたいなと思って、つくり始めました。
考える時間も楽しいですよね。

 
ブローチは、
ロンドンで見つけたお気に入りの毛糸から生まれたもの。
無機質なセーターやトレーナーが多いので、
ブローチはアクセントになるかなって思ったんです。
顔からつくっていって、
編みながら羽の形を考えました。

 
お人形さんはネットで見つけた海外のもの。
裸んぼうで家にやってきたので、
つくるしかないと思ってワンピースを縫って、
頭の形に合わせてボンネットを編みました。
最近つくったNICOBO用のヘッドアクセサリーも
想像に任せてつくったんですけどお気に入りです」。

 
編みもの道具はとてもコンパクト。
厳選されたお気に入りの道具が
ひとつの編み針収納ケースにまとまっています。

 
「かぎ針編みしかしないので、
数はとっても少ないんです。
昔は、いろんなブランドのものを
必要になったら買ってたんですけど、
揃っていたほうが便利だなと思って買い直しました。
編んでいるものは、このかごに入れて。

 
今はたくさんいただいたレース糸を使って、
お花を編んでいます。
一歩間違えるとダサくなってしまうから(笑)、
色の組み合わせを慎重に考えてます」。

 
自由に、ひとり遊びを楽しんできた安田さんですが、
今年は棒針編みで、模様編みにもトライしたい気持ちが
出てきたと話します。
きっかけは、三國万里子さんでした。
「三國さんのことを知ったのは、最近なんです。
『三國寮の人形たち』という本を買ってから、
すっかり魅了されてしまって。
あんな高度なお人形の洋服はつくれないから、
今人形からつくり始めているんです。
もともとアンティークドールが好きなので、
いつか人形をつくってみたい気持ちはありました。
なので、粘土で人形をつくっているところ。
顔と手と足ができあがったので、乾かしてます(笑)。

 
それから三國さんの本を読むようになって、
初期の本を見ていたら棒針編みもやりたくなって。
難しそうでなかなか踏み込めないんですけど、
今は部屋に飾って、ジーッと見ています」。
編むこと以外にも、
縫いものも日常的にされています。
まさに、安田さんの暮らしはつくることが日常です。
「パッチワークでクッションカバーをつくったり、
お洋服も着なくなると
しょっちゅう変形させています。
ザクザク切ってスカートをつくりなおしたり
ワンピースをブラウスにしたり。
つくることは日常ですね。
うちは(木梨)憲武さんも3人の子どもたちも、
全員つくるのがあたり前。
この間なんか、次男が『財布がほしい』って
買い物に出かけたんですけど、
帰ってきて『やっぱりつくることにした』って。
東急ハンズで革と道具を買って帰ってきました(笑)。
ほしいものが見つからないならつくることにする、
という人しかいない家なんです。
だから『オーブンで使える粘土があったよ』とか
そんな情報交換は常にしています」。
日常会話も、ものづくりの話がほとんど。
それは、編みものや手芸を楽しむうえで
いい刺激になっています。

 
「集中してつくりはじめると、
息も止めて編んでいるみたいで、娘から
『ねえママ、楽しい?』って聞かれたことも(笑)。
あまりにも夢中になり過ぎちゃうので、
もっと優雅にやりたい、息をしよう、と思って、
音楽を聴くようになりました。
一度、舞台でご一緒した阿部海太郎さんの音楽が
編みものにぴったりで、
頻繁に聴くようになったんです。
ますます海太郎さんの曲が好きになって、
そこで朗読劇のラブコールをしたんです」。
今、安田成美さんが夢中になってつくっているもの、
それは朗読劇「星の王子さま」です。
構成から入り、製作にたずさわっています。
そんな朗読劇の音楽を担当するのが、
作曲家の阿部海太郎さん。
「出会いは舞台でした。
最後に海太郎さんセレクトのCDを
プレゼントしてくれたんですが、とても気持ちよくて。
舞台での音楽の記憶も鮮明に残っていましたし、
朗読劇の考案が出たときに
海太郎さんしかいないと思いました。
蜷川幸雄さんの舞台も手がけていて、
舞台音楽もよくされているんです。
あうんの呼吸ではないけれど、
海太郎さんは私が書いた脚本を読んで
音楽をつくってきてくれて、
思った通り素晴らしいものでした。
朗読劇は一度だけ、
「ラヴ・レターズ」に出させていただいたとき、
とても楽しかったんです。
観客のみなさんの集中力や、
それぞれがイマジネーションしながら
空間を共有しているのがおもしろくて。
『星の王子さま』は私自身とても大切な作品で、
星の王子さまのバラに対する真っ直ぐな思いが
とても素敵だなと思っていました。
なので、星の王子さまの“愛するもの”にだけ
クローズアップして脚本を書き直したんです。
大人の方も楽しめると思います」。

 
初演は、昨年の八ヶ岳。
家族や友人総出で公演をつくりあげたのが
「とても楽しかった」と語ります。
「自分で手づくりしたような公演でした。
チケットのもぎりや車の誘導は子どもたち、
友だちが宣伝をたくさんしてくれて、
根本からつくる楽しさを知ってしまったんです。
特別な会場でやらせてもらったんですが、
朗読劇を聞くのは初めての人も多かったから
『どうかな』と心配に思っていたら、
泣いている音が聞こえてきて。
よかったと、たくさんの方に褒めてもらいました。
今回も東京の自由学園明日館という、
素敵な場所でやらせてもらいます。
海太郎さんが次男(木梨銀士)の作品がとても好きで、
美術として参加してもらい、
エピローグをあらたにつくりました。
実は、息子との初めての共演なんです」。
朗読劇は7月。
すっかり劇に心を傾けているのかと思いきや、
「でも今は、かるたをつくってるの(笑)」と安田さん。
思わずこちらも「どうしてかるたですか!?」と、
驚きの反応をしてしまいました。
「長男も絵を描く人なんですけど、
彼の絵を見ていると変な言葉が浮かぶんですよ。
彼はたくさん絵を描くから、
それなら「あいうえお」をつけて
かるたをつくったらいいんじゃないかと思って。
私が文を書いて、彼が絵を描く。
おばさんのダジャレって寒いじゃないですか?
その寒さを、味わってもらおうと思って(笑)。
私があんまりくだらないことを書くから
長男は苦笑いしていたけれど、
展示も決まったので頑張ってくれています」。

 
ひとり遊びから、ふたり遊びへ。
安田さんのものづくりは、
すこしずつ形ややり方を変えながら
自由に広がっていっています。
「日々を暮らすことと編みものって、
似ていると思うんです。
毎日編み続けていると自分の形になって、彩られる。
同じようなことを繰り返しているつもりでも、
できあがってみると、そうじゃないんですよね。
日常だから、編みものがない暮らしなんて考えられないし、
つまんなすぎますよね。
編むことも、ものづくりも日常だなって思います」。
(安田成美さん、ありがとうございました!)

安田成美さんによる朗読劇『星の王子さま』が、 東京・自由学園明日館で上演されます。

 
安田成美さんが構成、朗読をつとめる
朗読劇「星の王子さま」が
7月1日、2日に東京自由学園明日館で上演されます。
原作は、アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリの
『星の王子さま』。
「物語に描かれている、王子さまの星と
星に残してきたバラの花を愛する思いが、
初めての地球を旅する孤立感と重なって、何度読んでも
切ない愛おしい気持ちになります」と安田さん。
ご自身で書いた脚本を阿部海太郎さんに手渡し、
曲をつくってもらった特別な上演です。
また、自分自身をつくってくれたものについて、
『星の王子さま』から印象的な一節とともに綴られた
エッセイ『星の王子さま 
私をつくっている大切なものたち』(きずな出版)

合わせてお楽しみください。
チケットは、各種プレイガイドより購入いただけます。

写真・川村恵理

2025-06-12-THU

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