暮らしの中の小休止のように、
夢中になって没入できる編みものの時間。
ぎゅっと集中して、気がつけば
手の中にうつくしい作品のかけらが
生まれていることを発見すると、
満たされた気持ちになります。
編む理由も、編みたいものも、
編む場所も、人それぞれ。
編むことに夢中になった人たちの、
愛おしい時間とその暮らしぶりをお届けします。

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前編 ひとり遊びが大好き。 女優 安田成美さん

 
日頃から、ものづくりに勤しむ
女優の安田成美さん。
Instagramにアップされる
お似合いのハンドメイド作品は、
手編みのものもたくさんあります。
かぎ針編みのベストやストール、バッグ‥‥
どれも完成度が高く、センス抜群です。
安田さんが編みものをはじめたのは、中学生のころ。
「手を動かしてつくることが
とにかく好きだったので、
安い材料を買って見よう見まねでつくっていました。
雑誌でみたものや、自分で考えたものを、
手を動かすことが好きだった叔母に教えてもらったり、
手芸好きの友だちと試行錯誤したり。
オカダヤのセールのワゴンで、
よく毛糸をあさっていました」。

 
安田さんが編みものに惹かれるのは、
「毛糸」という素材そのものの魅力。
かわいい糸を見つけたらつい買ってしまうそうで、
「見ないようにしているんです」と笑います。
「糸がとにかく好きなんです。
丸々と、玉になっている姿がかわいらしくて、
海外に行くと手芸屋さんには必ず寄ります。
イギリスに行ったときだったかな。
糸の色合いや風合いが日本とは全然違って、
それもまた楽しくて。
お店の2階にあがっていったら、
編み会をされてたんですよ。
おばさんだけじゃなくて、おじさんも。
『いいな、ここに混ざって長居したいな』と
思えるような素敵な時間が流れていました」。
シンプルな一本の糸なのに、
編んでいくと自分の好きな形になる。
編む時間も、編みものの楽しみのひとつです。

 
「私はかぎ針で編むことがほとんどなんですが、
かぎ針編みの場合はとくに
一筆書きみたいに形ができあがっていきます。
その過程も、好きなんですよね。
なので、経過を楽しんだら満足してしまって、
できあがったものはポイポイっと
人にあげてしまうんです。
今日は探し出すのが大変でした」。
手元に残っている大事なニットたちを、
ひとつずつ見せていただきました。

 
「海外の雑誌で、とても素敵な
花模様のショールを巻いているモデルさんの
画像を見つけたんです。
お花に包まれているみたいで、
私もこうなりたいと思って。

 
そのころ、基礎から勉強したいと思って
編みもの教室に通っていたので、
先生に編み方を教えてほしいと相談したら、
『これは機械編みだから難しい』と言われてしまって。
『くそー!』って悔しくて(笑)。
なので、画像を拡大しながら、
花びらの数を数えて、大きさを考えて、
自分でつくってみたんです。
花の形を決めてからは早かったかな、
3週間くらいでできました」。

 
「私、とにかく早いんです。
お手洗いも我慢しちゃうくらい、
編みものを始めたら止まらなくなっちゃう。
やりたくてしょうがなくなっちゃうので、
編みかけのものをかごに入れて持ち歩いて、
仕事の合間でも隙を見つけては編んでます。
編みものって、頭をからっぽにできるので、
ちょうどいいんですよね」。
ベストやニットも、
たまたまネットで見つけて「かわいい」と
心動いたデザインからインスピレーションを膨らませて
編んでいきました。

 
「YouTubeで編み図を見つけたときに、
なんてかわいい柄なんだろうと思ったんです。
ちょうど似たような形のベストを持っていたので、
それを広げながら、いくつ模様を編めば
自分に合うサイズになるのか考えて、
目分量で編んでいきました」。

 
「長袖のニットは、
この四角い花柄をどうしても編んでみたくって。
いくつも四角を編んでいるうちに、
なにかつくれないかなと考えていて、
『6枚編めば袖になるかも』って閃いて。
かなりいい加減なんですけどね、
かわいいなと思う柄に出会うと編みたくなって、
編みながら『なににしようかな』って考えています。
その時間が楽しいんです」。

 
「ポーチも、この花柄をつくってみたくて、
いくつもつくっているうちに、
つなげたらポーチになるかもと思いました。
持っていたキルトとの色合いも良かったので、
貼り付けてみました。

 
ネックウォーマーも好きな柄を見つけて、
組み合わせてみたもの。
できあがったサイズが大きかったので、
紐にビーズをつけて
サイズ調整できるようにしました」。
好みに合わせて形を変えたり、
うまくいかなかったら調整したり。
見せていただいた作品は、
ほとんどが安田さんのオリジナルです。
「ある本を読んで、
すごくかわいいからほしいものがあったんですが、
即完でなかなか買えなかったんです。
それならもう、つくるしかないやと思って。
ジーッと見ながら、自分の好みに変えてつくりました。

 
夏用のバッグは編み図を参考にしながら、
自分の好みに少し形を変えました。
気に入ったので、ショルダーとハンドバッグとふたつ。
つくるのが苦じゃないので、なんでもつくります。
今日着ているワンピースも自分でリメイクしたんですよ」。

 
着なくなったワンピースを、
今の気分にあったデザインに変更。
いいシルク素材だからこそ、
長く愛用できるように手を入れます。
「ひとり遊びなの」と軽やかに笑う安田さん、
つくることが楽しくてしょうがない、
という気持ちが伝わってきます。

(後編では、小物や編みもの道具、今夢中な朗読劇のお話をうかがいました。)

写真・川村恵理

2025-06-11-WED

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