こんにちは。ほぼ日の松本です。
大学で受けた授業がきっかけで、
障害を持つ方の生活支援について調べるなか、
作家の安達茉莉子さんによる、
福祉施設で働く人々のインタビュー集を読みました。
これまで、エッセイをとおして
「生活することは、尊厳を守るための意地だ」
と発信してきた安達さんは、福祉の現場で
「生活の最先端の取り組み」を目の当たりにしたといいます。
「門外漢」として福祉の世界に触れた安達さんのお話は、
同じく「福祉は別の世界の話」と感じていた私の、
障害、社会、そして自分自身への見方を
ぐるっと変えてくれました。
福祉にとって生活とはなんなのか、
「人が生活できる社会」とはどんなものか。
安達さんとお話ししながら考えました。

>安達茉莉子さんプロフィール

安達茉莉子(あだち・まりこ)

作家、文筆家。東京外国語大学英語専攻卒業、
防衛省勤務、篠山の限界集落での生活、
イギリスの大学院留学などを経て、
言葉と絵を用いた作品の制作・発表を始める。
『私の生活改善運動 THIS IS MY LIFE』
(三輪舎)、
『毛布 – あなたをくるんでくれるもの』(玄光社)、
『世界に放りこまれた』(twililight)、
『らせんの日々 作家、福祉に出会う』(ぼくみん出版会)、
『とりあえず話そう、お悩み相談の森
解決しようとしないで対話をひらく』
(エムディエヌコーポレーション)などの著書がある。
Instagram: andmariobooks

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【第8回】花火はただ上がる

──
「自分が能力主義の考え方に寄っていってるな」
なんてことには、なかなか気づきづらいですよね。
社会のなかで生きてると、
わりと「能力主義が当たり前」だから、
気づかないというか。
気付いたとしても、ひとりで
「私はこの競争から降ります」と言うのも
怖いですし。
安達
私も、作家の仕事について
「売れない本には意味がない」
とは一切思わないですが、
「じゃあ、安達さんは本の売り上げとか、
気にしないんですか」と訊かれたら、
「いや、それはそれです」としか答えられないです。
もちろん、売れたほうが、
関わってくれるみんなにとっていいですし、
できることの可能性も広がるので、
結果を出すことにも貪欲でありたい。
ただ、売り上げと、その本の持つ意味は、
まったく切り離されるべきだと思います。
ある意味では、自分自身も
すごく能力主義的に生きてきたところがあります。
「もっと能力を高めて認められたい」みたいな
気持ちがあったからできたこともあるので、
功罪なんですよね。
「絶対にいいもの」「悪いもの」と、
片方に決めてしまうのではなくて、
多角的に見ていく視点は
必要だなと思っています。
否定するのは簡単なんだけど、
自分もやっぱり
資本主義や能力主義の構造のなかにいる、
でも、別の方向の世界もつくっていきたい。
そういう気持ちは持っていていい。
自分も、社会も、矛盾を含むものですから。

──
「売り上げを出して、
周囲にとってもいい循環を生む」という
モチベーションも大事ですよね。
ちょっと自分の話になってしまうんですけど、
私は会社のなかで読みもののチームにいて、
ときどき「商品事業部のように、
直接、利益を出す働きをしていないのに、
ここにいていいのかな」
と感じてしまうことがあるんです。
自分の仕事に意味がないとは思わないので、
どうにか折り合いをつけてやっていくんだろうな、
と考えているんですけど‥‥。
安達
私はむしろ、逆の場合もあると思いますよ。
──
逆ですか。
安達
まず、意味があってもなくてもいいという
前提のうえで、読みものがあるからこそ、
ほかの部の方のモチベーションが
生まれることもあると思います。
今年、近所の花火大会が
中止になっちゃったんですけど、
中止を知ってから、なんだかちょっと元気が出なくて。
でも、ドライに考えたら、
花火が上がったところで、目に見えるなにかが
生まれるわけじゃないですよね。
花火はただ上がるじゃないですか。
だけど毎年、みんな花火が見たくてお金を出して、
屋台やイベントを企画して盛り上げる。
それって、花火大会があることで、
みんなが「よし、やったるぜ!」っていう力を
発揮できているんだと思うんです。
そんなふうに「自分たちがやってることが
あの花火になるんだ」と思うと、
ちょっと心意気が高まるんじゃないでしょうか。
──
‥‥そうか。
安達
売り上げに直結していなくても、
「これがあるからやるんだ」と思わせてくれる、
形にならないものの効果は絶対あると思います。
──
そうか、すごい、ありがとうございます。
なんだか、悩み相談にのってもらってしまい‥‥。

安達
いやいや(笑)。
「◯◯がある/いるから私は頑張れる」
というものって、多くの人にあると思うのですが、
「◯◯」のほうは
「自分は別になにもしてないですけど」と
思っている場合もありますよね。
ネコとか、たぶんそう。
──
たしかに。
安達
ネコ自身は「みんなの役に立とう」とは
思っていなくても、たくさんの人が
「ネコがいるから頑張れる」と感じている。
だから、いてくれるだけで、結果的に
周囲の人の力を発揮させてしまうものって、
あると思うんです。
──
じゃあ、私も、花火を目指して。
安達
そうです、最高の花火。最高のスターマイン。
──
すごい、いま自己肯定感が上がってます。
安達さんご自身も、利益とはまた別のところで、
お仕事の喜びを感じますか。
安達
そうですね。喜びというか、
「むなしくなさ」は私にとってすごく大事なんです。
──
むなしくなさ。
安達
「自分の仕事が、
一体なんのためになってるんだろう」
というむなしさは、ずっと感じてきたので。
本は書いているあいだが一番楽しいんですが、
この本が行く先々で誰かに読まれて、かつ、
読んでくださった方から無限に広がっていくと
考えると、自分がなにか大きなものに
つながった感覚があるんです。
その感覚だけで、
自分はじゅうぶん報われているなと思います。
私は普通にお買いものは好きですし、
セールも大好きです。
資本主義といっても、現場では
誰かが一所懸命つくったものが
流通しているわけですから、
それをちゃんと受けとめたい。
ものがあふれる社会にいるからこそ、
大事にしたいなと思うんです。
自分という存在は自分ひとりではあるけど、
自分ではないいろんな人の記憶が混ざったものだと
思っていて。
その、自分が受けとってきたものを
なにかの形で社会にお返しできていると思えるから、
やっぱり本を書くことは好きです。
私の出身地は田舎の、山のほうで、
亡くなった人の慰霊の盆踊りがあったりしました。
だから、誰かを弔うとか、
死んでいった人たちの尊厳を考えるといったことは、
自分にとって近しいものなんです。
「魂を慰める」とか「慰霊する」とかって、
お寺や教会に行かないとできないのかというと、
私はそんなことはないと思っています。
誰でも、日々の生活のなかで実践していけること
なんじゃないかなと。
南山城学園の職員さんたちが、
これまで学園で過ごされた方の慰霊碑を
日常的に視界に入れて、
亡くなった方のことも受け継いで
日々の仕事をなさっているように。

(明日に続きます)

2026-04-02-THU

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  • 『らせんの日々
    作家、福祉に出会う』

    安達茉莉子(ぼくみん出版会)

    安達さんが、社会福祉法人「南山城学園」に滞在し、
    職員のみなさまにインタビューをした記録。
    福祉の現場のひとつの例として、
    リアルな希望を示してくれる本です。
    お求めはこちらから。

  • 『大和田慧と安達茉莉子の
    もちよりRadio』

  • 『土門蘭と安達茉莉子の
    生きてみるチャンネル』

    ポッドキャスト
    『大和田慧と安達茉莉子のもちよりRadio』
    『土門蘭と安達茉莉子の
    生きてみるチャンネル』では、
    安達さんのお話を聞くことができます。
    連載と合わせて、ぜひご聴取ください!