こんにちは。ほぼ日の松本です。
大学で受けた授業がきっかけで、
障害を持つ方の生活支援について調べるなか、
作家の安達茉莉子さんによる、
福祉施設で働く人々のインタビュー集を読みました。
これまで、エッセイをとおして
「生活することは、尊厳を守るための意地だ」
と発信してきた安達さんは、福祉の現場で
「生活の最先端の取り組み」を目の当たりにしたといいます。
「門外漢」として福祉の世界に触れた安達さんのお話は、
同じく「福祉は別の世界の話」と感じていた私の、
障害、社会、そして自分自身への見方を
ぐるっと変えてくれました。
福祉にとって生活とはなんなのか、
「人が生活できる社会」とはどんなものか。
安達さんとお話ししながら考えました。

>安達茉莉子さんプロフィール

安達茉莉子(あだち・まりこ)

作家、文筆家。東京外国語大学英語専攻卒業、
防衛省勤務、篠山の限界集落での生活、
イギリスの大学院留学などを経て、
言葉と絵を用いた作品の制作・発表を始める。
『私の生活改善運動 THIS IS MY LIFE』
(三輪舎)、
『毛布 – あなたをくるんでくれるもの』(玄光社)、
『世界に放りこまれた』(twililight)、
『らせんの日々 作家、福祉に出会う』(ぼくみん出版会)、
『とりあえず話そう、お悩み相談の森
解決しようとしないで対話をひらく』
(エムディエヌコーポレーション)などの著書がある。
Instagram: andmariobooks

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【第9回】「ふだんの暮らしの幸せ」

──
私は今回、障害者福祉というテーマを扱おうとして、
「障害に関することって語るのが難しいな」
という気持ちに突き当たってしまいました。
2026年が、相模原市で起こった
「津久井やまゆり園」の事件(※)から10年という
ひとつの節目だから、
障害に関することをいま扱うべきだ
という思いが最初にあったのですが、
記事のタイトルに、そのまま
「障害」の言葉を入れるべきか否か、などを、
けっこうたくさん相談して。
安達さんは、南山城学園さんを取材なさったときや
『らせんの日々』を書かれたときに、
気を遣ったことや、難しく感じたことって、
ありましたか? 

※2016年、神奈川県相模原市の
知的障害者福祉施設「津久井やまゆり園」で、
元職員が利用者を殺傷する事件が起こりました。
安達
めちゃくちゃ難しいですよね。
この本を書いているあいだ、ずっと考えていました。
自分が社会福祉を専門にしている
ライターさんだったら、
ふだんの仕事の一環としてできたかもしれないと
思います。
でも、私はほんとに門外漢だったし、
もともと本になる予定ではなかったので、
半年や1年など長い期間にわたって取材ができた
わけでもありませんでした。
私が見せていただいたたのは南山城学園さんですが、
もちろんほかの福祉施設もあります。
学園さんも「自分たちがやっていることが
福祉一般だと捉えられるのは申し訳ない」
とおっしゃっていました。
短い期間で、しかもひとつの施設で見たものを
ギュッと詰め込む、
という前提があったことからも、
「すべてわかったようなことを言わないように」
と気をつけました。
障害について書く以前に、
福祉についてはどのような立場で書くのがいいのかも
考えたのですが、
書いているなかで出たひとつの答えは、
「自分含め、全員が福祉の当事者だ」
ということです。
いままで、自分とは違う世界に
「社会福祉」というなにかがある
イメージだったのですが、
社会を福祉的にしていくという意味では、
社会にいる人、全員が当事者なんですよね。
たとえば、建物のバリアフリーにしても、
「このエスカレーター速すぎない? 
これじゃ乗れない人もいるよね」とか、
そういったことをみんなが思うことで
変わっていく部分があると思うんです。
自分がいま障害に直面しているか、
いないかにかかわらず、
誰かにとって障害になりうるものごとについては、
知って、考えていっていいんじゃないでしょうか。

──
そうですね。
きれいごとでは済まない世界ですし、
実際に大変な思いをしている当事者や
介護者の方もいらっしゃいます。
だから、私も、
大学や本で学んだだけの立場で、
このテーマを扱うこと自体が
無責任なのではないかと不安になっていました。
でも、「自分にも関わることだから知りたい」
という自然な気持ちで、
自分なりに知っていけたらいいなと思います。
安達
きっと、それがいいです。
知りたいから知ろうとするというのは、
他者に手を伸ばすことだし、
自分にも手を当てることだから。
南山城学園さんでは、障害者福祉以外にも、
高齢者福祉や引きこもりの方の支援にも
取り組んでいらして、
「福祉ってこんなに広いんだ」ということが、
とくに大きな驚きでした。
保育園も福祉の一部ですし。
自分たちも、人生のどこかでは
必ず福祉のお世話になっているんです。
なにせ、
福祉はふだんの暮らしの幸せなんです。
──
ふだんの暮らし。
安達
「ふくし」は「ふだん」の「くらし」の「しあわせ」
をつくることだ、という、
ひとつの考え方があるんです。
まさにそれは、すべての人の普通の生活を守ること、
そのための「最先端」のやり方を探ることですよね。

(終わります。お読みいただき、ありがとうございました。)

2026-04-03-FRI

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  • 『らせんの日々
    作家、福祉に出会う』

    安達茉莉子(ぼくみん出版会)

    安達さんが、社会福祉法人「南山城学園」に滞在し、
    職員のみなさまにインタビューをした記録。
    福祉の現場のひとつの例として、
    リアルな希望を示してくれる本です。
    お求めはこちらから。

  • 『大和田慧と安達茉莉子の
    もちよりRadio』

  • 『土門蘭と安達茉莉子の
    生きてみるチャンネル』

    ポッドキャスト
    『大和田慧と安達茉莉子のもちよりRadio』
    『土門蘭と安達茉莉子の
    生きてみるチャンネル』では、
    安達さんのお話を聞くことができます。
    連載と合わせて、ぜひご聴取ください!