こんにちは。ほぼ日の松本です。
大学で受けた授業がきっかけで、
障害を持つ方の生活支援について調べるなか、
作家の安達茉莉子さんによる、
福祉施設で働く人々のインタビュー集を読みました。
これまで、エッセイをとおして
「生活することは、尊厳を守るための意地だ」
と発信してきた安達さんは、福祉の現場で
「生活の最先端の取り組み」を目の当たりにしたといいます。
「門外漢」として福祉の世界に触れた安達さんのお話は、
同じく「福祉は別の世界の話」と感じていた私の、
障害、社会、そして自分自身への見方を
ぐるっと変えてくれました。
福祉にとって生活とはなんなのか、
「人が生活できる社会」とはどんなものか。
安達さんとお話ししながら考えました。

>安達茉莉子さんプロフィール

安達茉莉子(あだち・まりこ)

作家、文筆家。東京外国語大学英語専攻卒業、
防衛省勤務、篠山の限界集落での生活、
イギリスの大学院留学などを経て、
言葉と絵を用いた作品の制作・発表を始める。
『私の生活改善運動 THIS IS MY LIFE』
(三輪舎)、
『毛布 – あなたをくるんでくれるもの』(玄光社)、
『世界に放りこまれた』(twililight)、
『らせんの日々 作家、福祉に出会う』(ぼくみん出版会)、
『とりあえず話そう、お悩み相談の森
解決しようとしないで対話をひらく』
(エムディエヌコーポレーション)などの著書がある。
Instagram: andmariobooks

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【第6回】現実につながる「ユートピア」

安達
南山城学園が運営する保育園は、
「みんな外で遊びなさい」
という世界ではありませんでした。
日陰で絵を描くのが好きな子のために、
日陰や室内のスペースも確保されているし、
めちゃくちゃ遊び回りたい子のために、
走り回れる環境も用意されていて。
びっくりしたのは、保育園の時点で、
給食がビュッフェ形式なんですよ。
そして、目の前に給食をつくっている人たちがいる。
だから、自分たちが食べているものを、
どんな人たちがつくってくれてるのかが
わかる仕組みになっているんです。
万事がそんなふうに、
主体性や自己決定を大事にした環境でした。
──
たぶん、室内で本を読むのが好きな子も、
外で好きなだけ遊びたい子も、
ずっと存在していたと思うんです。
けれど、いままでの一般的な学校や保育園では
「みんな一緒」というか、
「子ども」という枠のなかで同じことをするのが
当たり前だったように感じます。
そのまま学年が上がっていくと、
みんなに馴染めない子は「自分はダメなのかな」と
考えてしまうこともあったり。
でも、安達さんのお話をうかがうと、
それぞれの子のための環境をつくるのは、
不可能なことじゃないような気もしてきました。
安達
南山城学園では「異年齢保育」と
「プロジェクト保育」というものもやっていて。
学年を否定するわけではないのですが、
学年関係なく保育されることによって、
小さい子たちが
年上のお兄さんお姉さんにあこがれて
「自分も頑張ろう」と思ったり、
年上の子たちが年下の子たちを守ろうとしたりと、
互いにいい影響を与え合うようなんです。
プロジェクト保育というのは、
保育士さんたちが
「きょうはこれやるよ」と決めるのではなくて、
園児たちに「きょうはなにをする?」って
問いかけるところから始まる保育です。
「子どもたちのやりたいことを引き出して、
実現するお手伝いをするのが
保育士の腕の見せどころだ」と
おっしゃっていました。

──
それもまた、「利用者の生活を手伝う」ことですね。
安達
はい。サポートを全力でするという感じです。
ただ、保護者の方は、やっぱり心配なさるそうです。
それは、「南山城学園の保育園は
ユートピア的な場所で、
小学校などに上がっていったら
やっていけないんじゃないか」という意味で。
でも、そこは保育士さんたちが背中を押すそうです。
「私たちは『自分はこうしたい』を言ったり、
かつ、ほかの子を助けたりする、
精神力や思いやりを育てています。
それがあれば、小学校でも大丈夫です」と。
そして「子どもたちが認められる機会」を
たくさんつくるそうです。
ふだんから「嫌なことを嫌だって言えたね」
「きのうできなかったことができるようになったね」
と伝えていると、子どもたちが、たとえば
「牛乳は嫌いなんだけど、きょうは頑張ってみる」
と言いやすくなる。
それが、結果的に、小学校などでも自主性をもって
やっていけることにつながるんです。
このことは、たくさん認めてもらったり、
自分に合ったやり方で成長したりした経験が少ない、
「大人」世代の人たちにも、
知ってほしいと思いました。
──
あまりにも、いままで持っていた
保育や福祉へのイメージと違って、
クラクラしてきました。
「ユートピア」と思われてしまうようなことを、
着実に現実のものにしていく取り組みが、
「最先端」と呼ばれるのかもしれませんね。
安達
最先端というと、
最新テクノロジーの話だけだと
思っていたんですけど、
福祉での取り組みにも「新しい」ことが
たくさんありました。
南山城学園さん自体が大きい法人だからこそ
できることもあるのですが、
職員のみなさんは
「南山城学園だけがよくなっても、
あんまり意味ないよね」という意識なんです。
ほかの地域の福祉施設で人手が足りなくなって、
施設がなくなったりしたら、
その地域にいる人たちにとっては
とても大きな困りごとになってしまう。
だから、いろんな研修や提携によって
横のつながりをつくっていらっしゃいます。
『らせんの日々』を書くにあたって
「この取り組みをなさっているのは、
南山城学園だけなんですか」と、よく質問しました。
すると、みなさん
「いや、ほかのところも同じ思いで
やってらっしゃると思いますよ~」と。
当然、どこの法人にも
それぞれの考えや方針、手法がありますが、
根本的な部分で、福祉に携わる人としての
「横のつながり」に対する信頼をすごく感じました。

(明日に続きます)

2026-03-31-TUE

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  • 『らせんの日々
    作家、福祉に出会う』

    安達茉莉子(ぼくみん出版会)

    安達さんが、社会福祉法人「南山城学園」に滞在し、
    職員のみなさまにインタビューをした記録。
    福祉の現場のひとつの例として、
    リアルな希望を示してくれる本です。
    お求めはこちらから。

  • 『大和田慧と安達茉莉子の
    もちよりRadio』

  • 『土門蘭と安達茉莉子の
    生きてみるチャンネル』

    ポッドキャスト
    『大和田慧と安達茉莉子のもちよりRadio』
    『土門蘭と安達茉莉子の
    生きてみるチャンネル』では、
    安達さんのお話を聞くことができます。
    連載と合わせて、ぜひご聴取ください!