こんにちは。ほぼ日の松本です。
大学で受けた授業がきっかけで、
障害を持つ方の生活支援について調べるなか、
作家の安達茉莉子さんによる、
福祉施設で働く人々のインタビュー集を読みました。
これまで、エッセイをとおして
「生活することは、尊厳を守るための意地だ」
と発信してきた安達さんは、福祉の現場で
「生活の最先端の取り組み」を目の当たりにしたといいます。
「門外漢」として福祉の世界に触れた安達さんのお話は、
同じく「福祉は別の世界の話」と感じていた私の、
障害、社会、そして自分自身への見方を
ぐるっと変えてくれました。
福祉にとって生活とはなんなのか、
「人が生活できる社会」とはどんなものか。
安達さんとお話ししながら考えました。

>安達茉莉子さんプロフィール

安達茉莉子(あだち・まりこ)

作家、文筆家。東京外国語大学英語専攻卒業、
防衛省勤務、篠山の限界集落での生活、
イギリスの大学院留学などを経て、
言葉と絵を用いた作品の制作・発表を始める。
『私の生活改善運動 THIS IS MY LIFE』
(三輪舎)、
『毛布 – あなたをくるんでくれるもの』(玄光社)、
『世界に放りこまれた』(twililight)、
『らせんの日々 作家、福祉に出会う』(ぼくみん出版会)、
『とりあえず話そう、お悩み相談の森
解決しようとしないで対話をひらく』
(エムディエヌコーポレーション)などの著書がある。
Instagram: andmariobooks

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【第5回】健康で文化的で最高な生活

──
きょうのお話のなかでも、
安達さんは、「生きられる」という言葉を
よく使われていますね。
安達
あぁ、そうかもしれません。
──
安達さんのおっしゃる「生きられる」は、
ただ「生存できる」という意味とはまた違うような
気がするのですが‥‥。
安達
はい、「『肉体が生きているから文句言うな』
というわけではない状態」って感じです。
──
「生きてるだけの状態」じゃなくて、
尊厳が守られたうえで、生きている。
安達
そうですね。憲法第25条で
「すべて国民は、健康で文化的で最低限の生活を
営む権利を有する」
っていうじゃないですか。
でも、ほんとによく思うんですけど、
「最低限な生活」が、どんどん
「最高」なものになっていくといいんじゃないかな? って。
──
健康で文化的で最高。
安達
健康で文化的で最高な生活。
それが一番じゃないですか。

──
たしかに。最高になりたいです。
安達
みんなで最高の生活を目指している社会のほうが、
結果的に、文化や技術も進化するでしょうし、
いろんな人が幸せになれるのではと思っています。
「最低限」を大前提にして。
「あいつ、自分より努力してないのに
いい暮らしをしてずるい」みたいなことは
よく耳にします。
やっぱり、自分が奪われてると感じているときに、
人を妬まないで優しくするって、
相当無理なことだと思うんです。
──
自分が疲れてるときって、満員電車なんかで、
絶対ふだんはしないのに、
舌打ちとかしそうになっちゃいます。
「なんで詰めてくれないんだよ!」って。
安達
そういうときありますよね。
自分が普通の車両で
ぎゅうぎゅう詰めになっているとき、
グリーン車を見ると
ちょっと険悪な気持ちになったり(笑)。
それが人間だと思うんですよ。
──
その人にどういう特性があるかは関係なく、
「人間、だいたいみんな、自分が不快なときは
余裕がなくなるんだな」という前提のうえで、
みんながそうならないで済む環境を
なるべくつくっていけたらいいですね。
安達
それが「ノーマライゼーション(※)」
という理念にも通じますね。
初めてこの言葉を聞いたときは
「みんな同じになりなさいってこと?」と、
ちょっと怖く感じたのですが、
よく知っていくと、真逆の発想でした。
むしろ「変わるべきは個人ではなく社会の側である」
という考え方がノーマライゼーションなんです。
障害をもつ人も自分自身の生活を送れるようにする、
そのための動き。
そして、結局それを進めていくと、
「自分は障害がない」という人にとっても、
より生きやすい社会になるんです。
困難に遭っている人も生きやすい社会は、
自分を含め、すべての人に優しいわけですから。

※ノーマライゼーションとは、
障害をもつ人や高齢の人を「特別」として
分け隔てるのではなく、
社会の側がいろいろな人に対応できるよう変化し、
ともに生きられるようにする
という考え方です。
当然、その社会福祉のコストを、
どうやって、誰がとるのかといった議論は
必ず出てきます。
「福祉より、もっと生産性の高いことに
コストを回したほうがいい」
という意見もあると思います。
でも、「その『生産』を支えてるのは誰なんだろう」
と考えてみると、
生産をしている人も、誰かのケアがあってこそ、
働けているんだと思うんです。
社会福祉があるからこそ、安心して働ける。
とはいえ、こういった話は
「そんなユートピアみたいなこと言っちゃって」
と捉えられることも多いです。
でも、実際に、「働くことの土台に、
まず個人が安心できる環境をつくる」という発想を、
南山城学園では実践なさっていて、
「本当に可能なんだ」と驚きました。
だから、話したり書いたりするだけでなく、
具体的な実践がすごく大事だなと思っています。
その実践って、ひとつひとつは
すっごく細かい、小さなことなんですよ。
知的障害や発達障害のある方の就労支援では、
手が震える方には
大きめの部品を担当してもらうとか、
ひとりで集中して作業するのが得意な方には
ひとりで作業してもらう、
みんなでいたほうが安心する方には
みんなで作業してもらう、みたいなことで。
特性をよく見て、その人が居心地よく
自分の力を発揮できる場所を見つけているんです。

(明日に続きます)

2026-03-30-MON

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  • 『らせんの日々
    作家、福祉に出会う』

    安達茉莉子(ぼくみん出版会)

    安達さんが、社会福祉法人「南山城学園」に滞在し、
    職員のみなさまにインタビューをした記録。
    福祉の現場のひとつの例として、
    リアルな希望を示してくれる本です。
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  • 『大和田慧と安達茉莉子の
    もちよりRadio』

  • 『土門蘭と安達茉莉子の
    生きてみるチャンネル』

    ポッドキャスト
    『大和田慧と安達茉莉子のもちよりRadio』
    『土門蘭と安達茉莉子の
    生きてみるチャンネル』では、
    安達さんのお話を聞くことができます。
    連載と合わせて、ぜひご聴取ください!