コピーライターの谷山雅計さんは
料理人の稲田俊輔さんの全著作を読んで
次々にレシピを再現するほど夢中になっています。
ふたりとも「ほぼ日の學校」に出演されているし、
しゃべったらきっと盛り上がるはず！
広告の世界と料理の世界、
異なるジャンルにいるふたりですが
クリエイティブに対する考え方はそっくり。
わかるわかる、とふたりの話が深まっていきます。
谷山雅計（たにやままさかず）
コピーライター・クリエイティブディレクター。
大阪府生まれ。
東京大学卒業後、博報堂を経て1997年谷山広告を設立。
主な仕事:東京ガス「ガス・パッ・チョ！」
資生堂「TSUBAKI」 新潮文庫「Yonda?」
東洋水産「マルちゃん正麺」
ACジャパン「気づきを、動きへ。」など。
著作:「広告コピーってこう書くんだ！ 読本」
「広告コピーってこう書くんだ！ 相談室」
2019年から東京コピーライターズクラブ会長。
稲田俊輔（いなだしゅんすけ）
料理人・飲食店プロデューサー。
南インド料理店「エリックサウス」総料理長。
鹿児島県生まれ。
京都大学卒業後、酒類メーカーを経て飲食業界へ。
南インド料理ブームの火付け役であり、
近年はレシピ本をはじめ、旺盛な執筆活動で知られている。
近著に『食いしん坊のお悩み相談』（リトルモア）
『ミニマル料理』『ミニマル料理「和」』（ともに柴田書店）
『食の本 ある料理人の読書録』（集英社新書）
『ベジ道楽 野菜をおいしく楽しむための偏愛ガイド』
（西東社）などがある。
- 谷山
- 今でこそ稲田さんの本がいろいろ出ていますけど、
最初は主にカレーについて紹介していて、
その後にシチューなどの本を出していましたよね。 - あの時点から、とにかくすべての料理を
稲田さんのレシピで作りたいから、
すべてのレシピを作ってくれないかなあって
ひとりで勝手に言ってたんですけど、
だんだんだんだん、本当に増えていきました。
- 稲田
- そういう部分を評価していただけるのは嬉しいです。
今になって思うと、自分が本当に必要なものだけで
構築したいという考えが、わりに一貫してるんですよね。
「なぜ、それが必要なのか」は説明もしたいし、
作ればわかるようにしたい、みたいなことは
結局、ずっと変わっていないなあと。
- 谷山
- でも、これだけいろいろな本を出されていると、
ぼくみたいな外の人間じゃなくて、
料理界でもどんどん評価されているのでしょうか。
- 稲田
- どうなんでしょうね。
あんまりそんな実感はないですけど。
- 谷山
- それとも意外にあれですか、
「あんなに続けて本を出しやがって」とか、
カチンときている人もいるとか。
- 稲田
- いないはずはないでしょうねえ。
- 谷山
- この４、５年ぐらいだけで、
稲田さんは十何冊ぐらい本を出してますよね。
- 稲田
- でも、レシピ本ばっかりじゃなくて、
ジャンルが散ってるじゃないですか。
- 谷山
- 小説もあるし、エッセイもあるし。
あ、この小説もなかなかいいんですよ。
ほんと、ちょっとキューンとくるんです。
- 稲田
- それも、ちゃんとロジックで書いてます（笑）。
- 谷山
- ぼくもロジックでコピーは書けるけど、
作詞がまったくできなくて、
もちろん小説もまったく書けません。
先ほど、物作りがしたいっていう思いが、
最初にあったとおっしゃっていましたよね。
- 稲田
- そうですね。
- 谷山
- 稲田さんにとっては料理や音楽だったんでしょうけど、
ぼくも小さい頃から
「物作りがしたい」とは思っていたんですよ。
ところが、ぼくは手先がスーパー不器用だから、
図工でもちゃんとした物を作れないし、
絵もぜんぜん描けないしっていう人間でした。
ただ、他の算数・国語・理科・社会とかの成績は
むちゃくちゃ良かったんですよ。
で、姉はその逆で絵がすごく上手だった。
親から見たら、姉は何か物作りとかができる人間で、
ぼくは成績がいいから役人にでもなってくれたら、
みたいに、ずーっと思ってたみたいです。 - でも、ぼくはその頃から自分の心の中で、
実際に物を作るだけじゃなくて、
概念とかアイデアを作るっていう
物作りがあるはずだって思っていたんです。
そう思っていたら、コピーライターっていう、
言葉でいろんな構造を作るっていう仕事に出合って、
「あ、これだったら俺も物作りできる」と思って。
いまだにうちの母親は、
「お前はそんなことをしてお金を稼げているのか？
本当にちゃんとやっているのか？」って、
疑問に思っているみたいです。
一応、東京コピーライターズクラブの
会長っていうのになってるんですけど‥‥（笑）。
- 稲田
- コピーライターという仕事は、
「何を生産しているのか」っていうことが
伝わりづらいですよね。
- 谷山
- 言葉や企画ですとか、
それ以前に、物を売るため、手に取ってもらうために、
どういうコミュニケーションの構造を作るかっていう、
コミュニケーションデザイン的な設計図を
頭の中で作る仕事なんですよね。 - 逆にいうと、言葉っていうのは、
その最後にポーンと表札を付けるぐらいの
ものなのかもしれません。
それは、手先が不器用な人間にもできる
物作りだと思うんですよね。
でも、87歳になる母親はいまだに理解してません。
それもあるのかな、
料理を作れて、その料理で人に喜んでもらえたり、
音楽ができる稲田さんにはすごく憧れます。
- 稲田
- ぼくも、自分が料理人になれるなんて
思ってなかったですからね。
最初のうちは、料理人というのは特別な存在であって、
特別な存在の人がなるものだ、と思っていたのは確かです。
特に、自分は料理人になるスタートが遅かったから、
お店に修行に入ると年下の先輩たちがいるんです。
- 谷山
- ああ、それは大変そうですね。
- 稲田
- 年下の元ヤンキーの先輩たちは、
料理の理屈や知識は何も知らないわけなんです。
中学を出てすぐの頃から、
現場でどつかれながら体で覚えてきた人たちなので。
理屈として覚えているわけではないけれど、
その辺にあるものを組み合わせて料理して、
最後にバッ！って塩を振ったら味が決まっちゃう。
「ああ、これはヤバい！」と思いまして、
この時点から彼らに追いつくには
理屈と数字しかないなって考えて、
すべてのものをこっそり計るようになりました。
「なぜ、これはこうやってやるんだ」という
ロジックで理解しようとしたんです。
- 谷山
- なるほどねえ。
- 稲田
- 手先が不器用ではなかったかもしれないけれど、
先輩たちの魔法のような手に比べれば、
自分の手なんて使いものになりません。
だから、ロジックで何とか追いつこうとしました。
回り道には見えますが、それがいちばん早かったし、
今にもつながっているっていう感覚はありますね。
- 谷山
- 先ほどから、広告との共通点を感じながらも、
そういうところは違うところですね。
料理の世界では、理が無くて経験だけでも
その力がつくっていうのはすごいです。
- 稲田
- それはそれですごいことですよ。
たぶん、言語化されていないロジックが
体に備わってくるんだと思います。
- 谷山
- 言語化されないから、誰かに伝えられないのかな。
- 稲田
- まさに、そうだと思います。
- 谷山
- 昔の飲食業界のイメージでは、
「殴る蹴るは当たり前で」という話がありますが、
稲田さんの時代ではどうでしたか。
- 稲田
- 自分たちの世代は、そういうひどい状況が
終わった直後ぐらいという感覚ですね。
上の世代の人たちからはやっぱり聞きましたよ。
けっこうリアルな話として‥‥。
- 谷山
- 広告もそこまでじゃないけど、
ぼくよりもうちょっと上だと、
打ち合わせ中につかみ合いのケンカをしたとか、
そういう話は聞きましたね。
- 稲田
- あ、今はないんですか。
- 谷山
- 今は、ないです（笑）。
- 稲田
- あ、すいません。
ぼくはまだ、そういうことがあるという
イメージをしてました（笑）。
- 谷山
- いやいや、広告はないです。
いまの広告会社はどんどん優しくなっていて、
むしろ若手の部下からすると
「厳しい指導をしてもらえない」って聞きますね。
たくさん案を考えていったら、
「こんなに考えなくてもいいよ」って言われたり。
厳しい環境で育ちたいと思っていたのに
不安になった若いコピーライターが、
ぼくの講座に来るんですよ。
「会社ではぜんぜん厳しくしてくれないから、
自分はこのままでいいんだろうか不安で」
と言うから、じゃあ俺が厳しく言うよって（笑）。
- 稲田
- はあー。
- 谷山
- 生徒のみんなに最初に言っておくことがあって、
「私はあなたの人格を否定しないことは約束するが、
あなたのコピーやあなたの企画については、
ダメなものはきちんと否定して、
なぜダメかの理由はきちんと説明する。
もちろん、なぜいいかの理由もきちんと説明する」と。
同じ会社で上下関係があると厳しくできないんです。
ただ、厳しさを求めている若手はいるので、
そういう人には、ぼくはガンガン言います。
- 稲田
- 飲食業界でもそうですよ。
ちゃんと育てたいという一方で、
厳しく指導できないというジレンマはあります。
- 谷山
- 日本の社会全体がそうかもしれませんね。
ぼくよりひと世代上だったら、
料理にしろ、広告にしろ、
社会全体がもっと荒っぽかったんでしょうね。
2025-09-09-TUE
