東京コピーライターズクラブ(通称TCC)の会員の皆さんが、
リレー形式で授業をやってくださることになりました。
第一回目は、会長をつとめる谷山雅計さんが登場。
東京ガス「ガスパッチョ!」、
新潮文庫「Yonda?キャンペーン」など、
数々の名コピーを生み出してきた谷山さんが、
「基本のコピー講座」を開いてくれました。
動画で配信中の「ほぼ日の學校」の授業の一部を
読みものでご覧ください。

>谷山雅計さんプロフィール

谷山雅計

谷山広告 クリエイティブディレクター/コピーライター、
東京コピーライターズクラブ会長。
1961年大阪府生まれ。
84年東京大学教養学部教養学科アメリカ科卒業、
同年博報堂入社。
97年(有)谷山広告設立。
資生堂「TSUBAKI」、東京ガス「ガスパッチョ!」、
新潮文庫「Yonda?キャンペーン」、
東洋水産「マルちゃん正麺」などを手がける。
著作に「広告コピーってこう書くんだ!読本」
「広告コピーってこう書くんだ!相談室」宣伝会議刊。
TCC賞、ACC賞、朝日広告賞、毎日広告賞、日経広告賞、
新聞協会広告賞、アドフェストグランプリ、
カンヌシルバー、クリオゴールド他多数受賞。

東京コピーライターズクラブ
著書『広告コピーってこう書くんだ! 読本』
著書『広告コピーってこう書くんだ! 相談室』

  • コピーライターって何だ?

    コピーライター谷山雅計による
    広告コピーの講義を始めたいと思います。

    「コピーライターって何だ?」と考えたとき、
    「そりゃ、広告の言葉を考える人でしょ」とか、
    「ポスターとか新聞にちょこちょこって書いてある
    言葉を考える人で、大概の人ができる仕事なんじゃない?」
    って思われてるのかな、という気がしています。

    「コピーライター = 広告の言葉を考える人」
    って言われると、ちょっと違うところがあります。

    ぼくが思うのは、コピーライターとは、
    「広告の仕組みや戦略を考え、『モノを売る知恵』を
    360度考える人間」です。

    もちろん、言葉やコピーも考えますけれども、
    CM全体についても考えます。
    商品開発をゼロから手掛けることもあります。

    つまり、広告のすべてを考える。
    で、その広告全体を考えるときに、
    「『言葉=コピー』を最大の武器にしている人」
    っていうのが、コピーライターなんです。

    双眼鏡をもっと売るためのコピーとは?

    ここから、コピーの作り方について話していきます。

    「双眼鏡をもっと売るコピーと作るとしたら?」
    というお題があったとき、どう考えますか。

    双眼鏡の場合に限らず、
    広告屋だったらまず、対象の商品について
    「この商品が今どういう状況にあるか」
    ってことを最初に考えるんです。

    複雑なマーケティング分析じゃなくても、
    この商品が今すごく売れてて人気がある商品なのか、
    それとも、あんまり使われていない不人気な商品なのか、
    それをちゃんと考えることで広告が変わってくるわけです。

    ちなみに今、ここ(収録している教室スタジオ)に
    20人ぐらいいるのかな?
    「普段から私、双眼鏡を持っていて、よく使ってます」
    って人は手をあげてください。

    ……ゼロだね 。1人もいないね 。

    そうなんですよ。いつも講座で質問するんですが、
    20~30歳代が中心の受講者が100人程度いても、
    使っている人が1人っていうのが一番多いパターンです。

    でもね、昔はちょっと違ったんですよ。

    ぼくが小学校の低学年の頃なんだけど。
    今、59歳だから50年前かよ!ってことに気づいて
    愕然とするんですけども(笑)。
    当時は、双眼鏡をかなり多くの人が使っていたんです。

    50年前とはいえ、ある時代にはよく使われていたものが、
    今はほとんど使われていないのは、なぜでしょう?

    それは、今の世の中に双眼鏡が売れなくなる理由になった
    強力なライバルが存在しているからです。

    今、ライブ会場や野球場、スタジアムに行くと
    オーロラビジョンみたいな巨大なスクリーンが
    どこにでもあるじゃないですか。
    双眼鏡のライバルは、アレなんですよ。

    みんなが使っていない、売れていない状況の中で、
    使ってない人たちをどう変えていくか。
    どうやったら、もっとたくさんの人が使ってくれるか。
    それを考えていくのが、
    広告コピーの基本だと思っています。

    よくないコピーとは?

    これから「いいコピー」の話をするんだけど、
    その前に「よくないコピー」の例っていうのを
    3つお見せしたいと思います。

    『視力8.0の世界を あなたに』

    『のぞけば、どこでも最前列』

    『ステージの上の、あの人に近づく方法』

    これ全部、全然ダメです。
    でもさ、一応商品の説明してるし、
    いいことを言ってるような気もするよね。

    「これって本当によくないコピーの代表例なの?」
    って思う人もいるような気がするんです。

    では、なんでこれがよくないコピーの代表例なのか
    というと、この3つのコピーはすべて、
    「双眼鏡は遠くがよく見えますよ」ということを
    言葉を変えて言ってるんです。

    ここで注意して欲しいんです。

    今のこの世の中に、
    「双眼鏡は遠くのものがよく見える道具だ」
    ということを知らない人って、いるんでしょうか?
    ということなんです。いないと思うんです。

    誰もが「双眼鏡は遠くのものがよく見える道具だ」
    ということは知っているはずなんです。
    でも、それを知ってるのに100人に1人しか使ってくれない。

    ここで言いたいのは、
    「コピーは『描写』ではない。コピーは『解決』である。」
    ってことなんです。

    コピーを書き始めたばかりの時期なんて、大概の人が
    コピーとは「上手に描写すること」だと思ってるんですよ。

    コピーというものは、今ある状況を
    何かかっこいい言葉で言い換えたり、
    何か面白い言葉で言い換えたり、
    何か気の利いた言葉のいい方にして、
    「上手に描写する」ことだって思われているけど、
    そうではない!と。

    「双眼鏡なんか全然自分には関係ないよ」って思ってる人が
    ある言葉を見たら、
    「あれ?そういう意味だったらこの双眼鏡は、
    ぼくにも関係あるかもしれない」と。

    そんなふうに気持ちを変化させる。
    「気付き」や「発見」を与えるコピーっていうのが、
    「解決」のコピーなんです。

    じゃあ、いいコピーとは?

    たとえば、こんなコピーならいいんじゃないかな、
    っていう例をあげていきますね。

    『地震のそなえに双眼鏡』

    これでぼくが連想したのは、こんな状況です。

    東京みたいな巨大都市に、かつてない直下型の
    スーパー巨大地震がくる可能性ってありますよね?

    そんな大災害において電源が遮断されると、
    皆さんが使ってるハイテクなものは、
    ほとんど使えなくなっちゃいます。
    iPhoneも充電切れちゃいます。

    でも、双眼鏡ってのは、電気がなくても
    すごく遠くまで見えるというモノです。

    災害時に双眼鏡があれば、
    「あっちに逃げようかと思ったけど、
    ビルが倒れて道が遮断されるからこっちに行こう」
    というふうに、身を守ることができる可能性がある。

    地震のそなえに双眼鏡、
    防災袋の中に双眼鏡入れておきませんか?

    こうなると「防災グッズっていう考え方もあるのか!」
    というふうに、何人かの気持ちの中で
    双眼鏡の見え方が変わってくる。

    「自分と双眼鏡にも接点がある」って思わせるコピーに
    なってるんじゃないかなって思います。

    さっきの「遠くがよく見える」の言い換えをしている
    3つのコピーよりも、
    ちゃんと広告コピーになっているなと思います。

    単純に「使われるシーンを広げたい」と考えて
    「防災グッズとしての双眼鏡」を提案しているんです。

    では、もうひとつ例をご紹介します。

    『せっかくの世界遺産ツアーだから』

    特にリタイアした年配の方々に多いんですが、
    「世界遺産を見たい」っていう動機で旅する人たちが
    コロナ前まではたくさんいたんです。

    「世界遺産見るんだったら、
    双眼鏡持ってった方がいいですよ」と言って、
    何人かの人が納得したら、
    それは新しい使用シーンを作ってることになるわけです。

    ミケランジェロの天井画、
    ぼくもイタリアで見たことがあります。
    天井画の下に立って、見上げるんですが、
    けっこう遠いんです。

    テレビの『美の巨人たち』で美しく映るようには、
    見えないんです。近場は見えるんですけど。

    そこで、このコピーでは、
    「ちょっと遠いところは、双眼鏡で見るのはどうですか?」
    という提案をしているってことになります。

    『車イスには双眼鏡を』

    これからの時代には、
    これもあるんじゃないかと思うんですよ。

    障害をもっている方に優しい社会を作ろう
    ということでバリアフリーも増えてきて、
    車イスで外出されてる方、どんどん増えてますよね。

    たとえば、車イスで「あっちに何かがあるぞ」
    って移動していって、それが見間違えだったりしたら
    心理的・肉体的なダメージが大きいと思うんです。

    だったら、車イスには常に双眼鏡を常備しておいて、
    行く場所に近づく前にこれで確認してみたらどうでしょう?
    その方が、車イスライフがもっと楽になりますよって。
    十分提案になっていると思うんです。

    『高層マンションに住む人に』

    これは、マンションの46階に住んでいる知り合いから
    ぼくが実際に聞いた話です。

    「高層階に住んでると、双眼鏡って結構使えるよ」
    って言うんです。

    さっきの車イスの話にちょっと近いんですけど、
    近所の居酒屋に行こうと思って、
    わざわざ46階から1階まで降りて行ってみたら
    臨時休業だったりすると、精神的ダメージをけっこうくらう。

    「だから俺は、双眼鏡で見える範囲は上から見て、
    空いてるなって確認してから行く」って言ってたんです 。

    これに関しては、
    高層マンションに住んでいる人に新しいシーンを提供する、
    というのとはちょっと違う役割もある。

    「100人に1人しか使われていない」
    「アナログで古臭い」って思われてる双眼鏡が、
    先進的といっても過言ではない
    都会のタワーマンション46階暮らしにおいて
    「けっこう役立つんだよ」っていう情報を伝えることで、
    みんなの心の中の双眼鏡に積もっていた古臭いイメージの
    ホコリがちょっと払われる。

    そして、これからの新しい時代においても、
    双眼鏡ってそういう使い勝手があるんだなって思えてくる。
    そういう意味があるんだと思います。

    『サバゲーやるなら、もってなきゃ』

    サバイバルゲームっていうのは、
    いろんな新しいマニアが出てきていますね。
    もちろんまだ、みんながやってるものじゃないけど、
    だんだん少しずつ愛好者が増えている。

    サバゲーやってる人に対して、
    「サバゲーやるからには、参加者全員が双眼鏡持ってないと、
    なんか緊張感が出なくてダメだと思うんだよね」
    みたいなメッセージを送っている。

    そういう意見をどんどん広げていって、
    バードウォッチャーが
    全員双眼鏡を持ってるのと同じように、
    サバゲーやるやつ全員が
    双眼鏡を持ってる状況までもっていくってのも
    使用シーンを広げることになるんじゃないかと思います。

    他にもいろんなマニアがでてきてる。
    『工場萌え』とかあるじゃない?

    川崎とか尼崎とかに
    わざわざ駆動している工場を見に行きたい、
    なんていうマニアもいて。
    そういう人たちには、
    もっともっと双眼鏡を使ってもらいたいよね、とか。

    歴史マニアの人たちもさ、
    城の石垣の積み方とか、そういうことまで
    すごく好きだったりするわけだから、
    双眼鏡を使ってもらいたよね、とか。

    今、双眼鏡は使われてないシーンで
    「こういうふうに使ってみたら」
    っていうコピーをお見せしました。

    シーンを広げる「解決」のコピー

    ちなみにコピー書き始めの人って、
    「双眼鏡が今何に使われてるか?」ばっかりを考えて、
    バードウォッチングだとか天体観測だって、
    そこを推すのよ。

    「バードウォッチング、素晴らしいですよ」
    「星空を眺めなくて、どうするんですか」
    みたいな感じで。

    今、すでに双眼鏡があるところばかり、
    使われてるところばかり推すんですよ。
    これは、「描写」と「解決」で言うと
    描写的な考え方なんです。

    そうじゃなくって、解決的な考え方っていうのは、
    「今はそこでは使われていないけれど、
    実は双眼鏡とは相性がいいはずだ」
    っていうことを見つけてきて、そこを結びつける。
    それによって、少しずつ『シーン』を広げていく。

    それが「描写」じゃなくって
    「解決」っていうことじゃないか、とぼくは思ってます。


    谷山雅計さんの授業のすべては、
    「ほぼ日の學校」で映像でご覧いただけます。


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