こんにちは、ほぼ日の奥野です。
あばれる君のエッセイ集を読んだら、とてもよくて。
テーマは「家族」なんですけどね、
あばれる君のこと好きになっちゃうお話ばかりで。
で、その「よさ」のなかには、
ラヂヲ先生の挿し絵のよさがたっぷり含まれていて。
そこで、ふたりに、語り合っていただきました。
あんまり決めずに集まりましたが、
やっぱり「何だか『家族』の話」になりました。

>あばれる君プロフィール

あばれる君(あばれるくん)

ワタナベコメディスクールに9期生として入学し、2009年にデビュー。子どものころから目立ちたがり屋で、当時はクラスのムードメーカー的存在。2010年に『めちゃ×2イケてるッ!』(フジテレビ系)の新メンバーオーディションで3次選考まで進み、その暑苦しいキャラクターで注目を集める。2015年2月には『R-1ぐらんぷり2015』決勝に進出。趣味はキャンプ。特技は即興ラップ。高校時代に所属していた山岳部ではインターハイにも出場。テレビゲームも好き。中学(社会)・高校(世界史)の教員免許、さらには世界遺産検定1級を持っている。2024年に、あばれる君の人柄があふれる、はじめての書き下ろしエッセイ『自分は、家族なしでは生きていけません。』を刊行。

>和田ラヂヲ先生プロフィール

和田ラヂヲ(わだらぢを)

漫画家。1991年、集英社『週刊ヤングジャンプ』にて「イキナリどうだ」でデビュー。その後 『ロッキン・ラヂヲ』(ロッキング・オン)、『ハロー!和田ラヂヲ』(集英社)、『和田ラヂヲの嫁に来ないか?』(集英社)など快作多数。手塚治虫先生へのオマージュ作品『和田ラヂヲの火の鳥』(マイクロマガジン社)も記憶に新しい。2020 年、「大和田ラヂヲ展」(渋谷パルコ)と「小和田ラヂヲ展」(TOBICHI東京)を同時開催。漫画にとどまらず、大喜利大会・似顔絵・梅干のタネ飛ばし選手権・書籍の挿画・ラジオパーソナリティ‥‥など多方面で活躍中。

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第4回 怒らない星からきた父。

ラヂヲ先生
けっこう、涙もろいほうなんですか。
あばれる君って。
あばれる君
正直、めちゃくちゃ涙もろいですね。
海馬がユルユルなのかなと思います。
──
海馬が? ユルユル?
ラヂヲ先生
海馬のせいなの?
あばれる君
海馬と前頭葉が、もう、ユルユルで。
ラヂヲ先生
じゃあ俺の海馬、死んでるのかもな。
ぜんぜん泣かないから。
あばれる君
えっ、泣かないんですか、先生。
ぼくは、夏の甲子園大会を見てたら、
ぜんぶの試合で泣いてますよ。
とくに、スタンドの保護者が映ると、
グーッときちゃうんですよ。

ラヂヲ先生
お父さんの遺影を持ってるお母さん、
とか映ったら、もうヤバい?
あばれる君
ヤーバいっスね。
ラヂヲ先生
最近はアルプスの応援もすごいよね。
みんなでダンスしたりして。
あばれる君
ああいうダンスを見るだけで、
ぼくなんかドゥアー泣いちゃいます。
みんな練習がんばったんだなあって。
──
あばれる君‥‥すでに
孫に目を細めるおじいちゃんの素質がある。
あばれる君
スポーツ見ると泣いちゃうんですよ。
オリンピックのときとかひどいです。
パリのときも、柔道とか。
ラヂヲ先生
「いい畳だな」と。
あばれる君
さすがに「畳」では泣かないですよ。
「いい畳だな」で泣けるのは、
その畳をつくった畳職人だけですよ。

──
俺の畳が、
オリンピックの舞台で使われて、涙。
お子さんがうまれてから、
涙もろくなったみたいな感じですか。
あばれる君
ああ、それは、そうかもしれません。
子どもがうまれると、
自分の親の思いがわかりますもんね。
ラヂヲ先生
たしかに。
あばれる君
放課後、学校から帰ってきたときに
夕暮れの家の中、
お母さんが
ひとりぽつんと座ってたことがあって。
あの姿を思い出したりして‥‥。
ラヂヲ先生
泣いちゃうんだ。
あばれる君
泣いちゃいます。
──
先生にもありますか、そういうこと。
人生の郷愁にかられるみたいなこと。
ラヂヲ先生
ありますよ。泣きはしないけどね。
うちの父は会社員だったんだけど、
毎日、会社に行くじゃない。
それだけで、すごいなと思ってる。
ぼくらの親の世代って、
高度成長期の勤め人だったからね。
──
いわゆるモーレツ社員的な時代の。
ラヂヲ先生
父は、ほとんど家にいなかった。
だから、あんまり
遊んでもらった記憶もないんだけど、
たまに親父と公園へ行ったときに
手つなぐのが、
ものすごい恥ずかしかったんだよね。
──
へええ。そんな思い出が、
ラヂヲ先生
ふだん、手なんかつながないからね。
いまでも、すごく鮮明に覚えてます。
幼稚園くらいのころの、あの気持ち。
──
あばれる君が泣きそうになってる。
ラヂヲ先生
ぼくね、じつは、
親父から怒られたことないんですよ。
──
あ、わかんないけど、うなずけます。
先生のおだやかさを知ってると。
怒られて育ってないような気がする。
ラヂヲ先生
そのことを、
大人になってから不意に思い出した。
うちの親父ぜんぜん怒んなかったな、
そういえば‥‥みたいな。
ただ、やさしいともちがうんだよね。
だから、宇宙人だったのかなあ。

あばれる君
宇宙人!
ラヂヲ先生
怒らない星人だったのかもしれない。
──
怒らない星から来た、怒らない星人。
あばれる君
本当に、怒ったことがないんですか。
ただの一回も?
ラヂヲ先生
子どもだからいたずらなんかすると、
「渋い顔」はするんだよね。
「うーん‥‥」みたいなにうなって。
でも、怒りはしなかった。
あばれる君
いいお父さんですね。
ラヂヲ先生
手も上げないし。
──
ご健在ですか。
ラヂヲ先生
いえ、亡くなりました。
──
そうですか。
ラヂヲ先生
怒らないまんま、亡くなりました。

(つづきます)

撮影:伊藤大作(The VOICE)

2024-12-26-THU

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  • あばれる君の初書き下ろしエッセイが、
    とてもよかった。


    あばれる君の、はじめての書き下ろしエッセイ、
    『自分は、家族なしでは生きていけません』。
    偶然、あの世界的スター選手と遭遇した
    息子さんとのアメリカ旅行、
    厳格なお父さんとの、ミニ四駆大会での思い出。
    あばれる君の人となりがしのばれます。
    和田ラヂヲ先生の筆による「家族の肖像」が、
    またすばらしい。
    気がるに読めて心に残る、おすすめの一冊です。
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