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読者のみなさんから届いたお便り #104

 
祖父は、日中戦争が始まって間もなく応召し、
中国を奥へ奥へと転戦、
生涯忘れることのできない戦争体験をしてきたそうです。
川柳を愛し、音楽を愛し、山を愛し、スキーの名手で、
センスのいい冗談を飛ばすおじいちゃんでしたが、
戦争の話を直接聞いたことはありませんでした。
復員後はお酒をよく飲み、
眠ると苦し気にうなされることが
何年経ってもよくあったと、祖母から聞きました。
30年前、祖父の十三回忌を機に、
祖母と叔父が、祖父の従軍中の陣中日記や
内地との往復書簡などを
「前進千里」として小冊子にまとめました。
毎年夏に読んでいます。
長くなりますが、一部を少し転記させていただきます。
「今日我は第一線、銃声活発なり。
此の日を記憶せよ。永久に忘れる事なかれ。
午後三時、我の前方二米を前進セル大里軍曹、南出軍曹、
二口一等兵、中島上等兵が○○の為に倒れたる日なり。
城門攻撃の命を受けたる我等は、
陣地に就くべく軍公路を前進中なりし。
○○橋梁にかかる時、突如敵砲弾来たりて、
百米左に落下す。我等を狙いたるなり。
橋梁の通過危険なりと、急ぎ通過を促して、
我は隊長と共に急ぎ渡らんとする刹那、
天地も砕くる爆音目前に起こる。
すわ、砲弾落下して、我は最早此の世の者ならずと思い、
或いは全身弾創を負いたるものと思い、
頭を撫で、胸をさすり、腕を振り動かすも異常なし。
只何処から出たるか、我の全身血に塗れ、
肉片また全身に付着す。只呆然たり。
ふと我に返れば目前の地は裂かれ、四つの大穴あり。
その前方十米には、ああ何たる事ぞ。
大里軍曹、血にまみれて倒れあり。
駈けよりて「軍曹!… 軍曹!…」と呼べども既に意識なく、
ただかすかに呻く声と共に、咽喉に込み上げる血潮を吐きたり。
振り向けば堤防の大柳の木の下に俯向きて、
腰に汚き手拭をぶら下げたるまま、倒れたる兵あり。
見覚えのある南出軍曹の手拭なり。
揺り動かして名を呼べども答えなし。
更に対岸に瞳を移せば、一人川中に半身を入れて倒れる者あり。
二口一等兵なり。ああ、其の対岸には森井一等兵
又同じく川中に半身を入れて倒る。橋梁には中島一等兵……。
何処ともなく人の呻く声聞こゆ。見れば大里軍曹最後の時なり。
涙無闇に出でて泣くより外に術なし。
顔は血に蔽われ、足も手も砕け、血を吐く咽喉より
かすかに洩るる息と共に、尚も唸り続く。
心を取り直して水筒の水を口に注げば、
咽喉は血と共にゴロゴロと鳴る。
神となれ軍曹!…。再び我は彼に取り縋りたり。
横には常に朗らかなりし南出軍曹。
彼はいつもの居眠りの姿にて、こと切れたり。
高田軍曹は何処! 高田軍曹!と呼べども答えなく、何処にも姿無し。
身体砕け散って川中に落ちたるに違い無し。
二口よ!森井よ!可愛い部下なりし。
君等の仇はきっと取ってやるよ。
耳がガンガン鳴るばかりにて何も聞こえざる如し。
空虚の様な此の日、露営なり。
終夜寒さの為、まんじりともせず。
霊火しきりに走る。敵砲弾しきりなり。」
「昨日山を越えて、
三日振りに飯にありついた時の感激は、忘れられない。
兵隊が見つけてきた菜葉の漬物で食った飯の味、
あの時には大里軍曹も南出軍曹も居た。高田軍曹も居た。
それに今日の此の身の辺りの淋しさはどうだろう。
今日は第一線陣地へ、大行李から握り飯が届いた。
いつも大行李を、引き連れてニコニコしながらやってくる
南出軍曹のいないのが、不思議でならない。
死んだのだ。そうだ死んだから居ないのだ。
昨日まであんなに元気でも死んでしまうのだ。
自分も死ぬのだ。
死と云うものがあんなに簡単なものなら、少しも恐ろしくない。
然し此の淋しさはどうだ。
再び此の瞳であらゆるものが見えなくなるのだ。
地上から消えてしまうのだ。
旗に埋もれた故郷の港が、瞳に浮かんできた。
小学校の時分、父母に離れて暮らした時の淋しかった思い出や、
アルプスの雲の色や、苦い思い出、甘い思い出が、
走馬灯の様に流れて行った。
(中略)  俺も死のう。いつか死ぬんだ。
冷たい握り飯にポロポロと涙がこぼれた。」
(なお)

2025-11-30-SUN

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  • ヴェトナム戦争/太平洋戦争にまつわる
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    特集 50/80 ヴェトナム戦争と太平洋戦争の記憶