
友人の有田浩介くんが「国際映画祭」をやる。
移住先の石垣島で、たったひとりでだ。
日本、アメリカ、イラン、中国、リトアニア、
ウクライナからの作品を上映する。
それらは映画館のない石垣島の市民会館ほか、
仲間のライブハウスや
かつて映画館だったスペースで上映される。
参加作品の監督が国内外から来島、
トークセッションや交流プログラムを通じて、
参加者との対話がなされる。
食を中心にしたイベントも考えているようだ。
そんなことを、やろうとしてる。ひとりで!
おもしろそうだから取材してきました。
担当は、「ほぼ日」奥野です。
撮影:水野暁子
島んちゅぬ映画祭に対しては、その構想段階から「実行委員会をつくりましょう。広告を担当します」と申し出てくれた企業も何社かあったという。映画祭に将来性や可能性を見出したのだ。でも、有田くんはやっぱり「ひとり」を選んだ。その理由として、まずは「映画祭って、そう簡単にはもうかんないからさ」。実際、有田くんの取り組みには金のニオイがしないらしい。前出の竹富在住フォトグラファー水野暁子さんが言っていた。「八重山には支配され奪われ続けてきた歴史がある。だから『うまくお金もうけしてやろう』という目論見には敏感なんです。でも、そういう感じがしないから、こうしてみんな集まってくるんじゃないかな」
それに「島人(しまんちゅ)の、と冠した地域コミュニティの映画祭なのに、組織や看板だけ大きくするのはピンとこなかったんだ」とも。どうやら実行委員会方式はやり方として「好きじゃない」らしい。それより志を同じくする仲間が集まって、瞬間的な一体感のもとに力を合わせ、ことが終わればそれぞれの持ち場へと帰っていく‥‥そんな映画祭をつくりたいのだろう。今回の挑戦について語るとき、有田くんは、たびたびディセントラライズドという言葉を口にする。辞書的な意味は「分散化」だ。石垣で開催する映画祭がローカルつまり非中央であるなら、分散型のアプローチこそ相応しい方法論なのだ。「映画祭については10年15年のタームで考えているから、そんなに急がなくてもいいしね」。
長い目で見ているもんだなと感心する。実際、若木を育てるような活動にも取り組んでいる。毎週木曜日、地元の八重山高校へ通ってワークショップを開いているのだ。東京大学の学生団体Diligent(ディリジェント)のサポートを得ながら、生徒たちが、映画祭で上映する作品のパンフレットをつくる企画だ。映画祭に付属する中高生向け教育プログラム「Impact from the Ishigaki Island ―離島から世界を考える―」である。参加する3年生の西原智章くんとクイン芽里奈エマさん、2年生の黄偉倫(えいる)くんと、少し話した。
若き編集者たち。黄偉倫くん、クイン芽里奈エマさん、西原智章くん
彼らがつくろうとしているのは、アフガニスタン難民の少女が自らのスマホで撮ったドキュメンタリー『少女は月夜に夢をみる』のパンフレット。内容や構成を決めるところから、自分たちで考えているそうだ。楽しいらしい。映画を撮った難民の少女ソラヤさんにもインタビューしてみたいとキラキラしながら語る。いいぞ、高校生諸君。やりたいことがあふれちゃう編集者は、よい編集者だ。それらを上手にまとめる編集者が、もっとよい編集者である。映画のパンフレットは、キミたち若き編集者の手腕にかかっているのだ!
映画配給人としての有田くんは、過去10年間に30作品を配給してきた。この先の10年15年で同じくらい映画を配給するとして、その中から人生最大のヒット作をうみたいという。継続を期している映画祭も、いずれは「若い人たちに手渡したい」と。彼の人生は15年くらいの周期で変化してきた。「だから、また15年後、まったく知らないところで、新しい人たちと何かはじめるのもいいよね。自分の手を離れた何かが、勝手に大きくなっていく。そんな人生を送りたいと思ってるよ」
『少女は月夜に夢をみる』監督:メヘルダード・オスコウイ、ソラヤ|イラン|2025|76分
あらためて「映画祭」とは、ただ映画を集めて上映するだけではないのだと知る。中心にあるのは映画だが、島の内外ひいては国の内外から人が集まってくる「リアルな交流の場」だ。遠い国から来た人同士が知り合い、同じ時空で混じり合い、上映作品を通じてダイアローグが生まれる。喫緊の社会問題が提起されたりもする。つまり、そこは「フィジカルなプラットフォームであり、継続していければ、やがてひとつのカルチャーとなっていく」。映画祭とはそういうものだと、有田くんに教わった。将来的にはバイヤーとセラーが商談できるような場もつくりたいらしい。なんとまあ、ひとりでいろいろ大変だ。
石垣のカルチャーの発信地のひとつ、フリースペース「辻の家」にも立ち寄る。このときは写真家・星川慶さんの写真展を開催していました。有田くんの映画祭を応援している、辻の家の吉田宗一郎さんと橋爪千花さん。 (撮影:奥野)
「うん、大変だよ。夢の中でも考えてる(笑)。でも楽しいよ。楽しくなきゃね。英語に『sense of togetherness』って言葉があって。日本語の『連帯』とは違うんだけど、そんな映画祭にしたい。ディセントラライズドな『個』が集まってつくる、映画のための場所。立派な実行委員会を組織して、これだけの助成金をもらって‥‥じゃなく、全員がインディペンデントでありながら、ほうぼうからこの島へ集まってきて、ひとつの映画祭をつくる。そういう感じがいい。『sense of togetherness』のつながりこそが、ぼくの映画祭の中心になると思う」
上映会場のひとつ、ライブハウス「CITY JACK」の根間タダシさん。通称たーしーさん。バンドのギタリストとしてメジャーデビューしていた過去を持つ。お店が素敵すぎて、お店の方にピントが合ってしまいました! もちろん、たーしーさんもとっても素敵だったのですが。(撮影:奥野)
たとえば、その「sense of togetherness」を感じられる映画祭として、有田くんは、ミズーリ州コロンビアの「True/False Film Fest」を挙げた。アメリカ中西部、アクセスの悪い田舎町で開かれる、たった4日間の映画祭。そこへ、世界中から映画好きが集まってくるのだという。「細かいことを言えば、イベントが充実してるだとかパーティが楽しいとか、いろいろあると思うんだけど、ぼくは、やっぱり『sense of togetherness』じゃないかと思う。主催者、参加者、そこに集う人たちの間の見えないつながりのようなものを感じることができるんだ」
有田くんと石垣の仲間たち(+奥野)
映画を通じて、自分は何を受け取り、何を感じて、何を考えるか。そもそも映画ってそういうものなのかもしれない。けど、ふだん自宅のパソコンで映画を観ているときは、正直そこまで意識的にはなれない。でも、東京から2000キロを移動し、人によってはそれ以上のエネルギーを費やしてやってきて、知らない誰かの隣に座り、一緒に「映画を観る」。そうしたら自分も、その知らない誰かと言葉をかわしたくなるかもしれない。なんだか、そんな予感がある。
「人生だからね。派手なことをやりたいとは思わないんだけど、挑戦はしたくなるよね。だって、人生だからさ。新しいことをやってみたくなる。それで誰に驚いてほしいかって言ったら、やっぱり家族と仲間なんだ。まずは、彼らに驚いてほしい。その驚きが連鎖して、最終的にオーディエンスへ届いていくのが理想。はじめから組織や看板を大きくするんじゃなく、映画祭そのもののイメージを最大化させる。でも、関わっている仲間は、最小限。みんな、個人。たぶん、そこに何かがあると思う。驚きとか、おもしろさとか、そういう何かが」
ちなみに‥‥いま、この文章を書いているのは「2026年3月13日(金)の10時28分」なんだけど。つまり、あなたがここまで読んできてくれた記事が更新される、30分前。ちょっとした確認事項があって、石垣の有田くんに電話をかけた。そしたら、映画祭の会場に立てる「のぼり」を各所へ借りに回っているところだった。そして、昨今の世界情勢の悪化で中東からの航空便がキャンセルされるなど、ゲストトークに出演予定だったイラン出身のメヘルダード・オスコウイ監督の来島が危ぶまれていると言っていた。航空便の変更やホルムズ海峡閉鎖による燃油価格の高騰
ともあれ、有田くんの映画祭は、2026年3月20日(金・祝)から22日(日)の3日間。もう、すぐそこだ。

東京で役者をやっていた映画好きのお母さん・智子さんが「いしがき起業ガレッジ」で有田さんと知り合ったところから、一家の映画祭へのコミットメントがはじまった。まず、中学生の娘・音和(とわ)さんが、映画祭の教育プログラム「Impact from the Ishigaki Island ―離島から世界を考える―」に、唯一の中学生として参加。八重山高校の生徒やDiligentの東大生といっしょにパンフレット制作に携わっている。お父さんの守卓さんは、有田くんちの息子さんが通う石垣小学校の先生。有田くんの挑戦に感銘を受け、小学校を映画祭の会場のひとつとして使えるよう奔走・尽力。ロッテ・ライニガーによる切り絵アニメーション短編3作品を無料上映する手筈を整えた。「映画祭が経験させてくれるものは、きっと学校では教えられないことばかり。海外とか、映像とか、子どもたちの興味の幅が広がればいいなと思います」。今回、石垣で知り合った人たちの多くが、映画祭を「もっと広い世界へ開かれていく」契機になったらいいと捉えていることが、とても印象に残った。

ロッテ・ライニガー 切り絵アニメーションの世界 ドリトル先生とその動物たち編 第1冒険 アフリカへの旅(1928年)
(次回は3月20日、映画祭初日のようすをテキスト中継します)
2026-03-13-FRI
-

映画館のない石垣島で国際映画祭を立ち上げる。
そのために、
釜山国際映画祭、東京国際映画祭、
山形国際ドキュメンタリー映画祭、
アムステルダム国際ドキュメンタリー映画祭、
東京フィルメックス、
そしてベルリン国際映画祭をめぐり、
約250人の映画人と対話してきた有田くん。奇しくも中東における戦闘がはじまったいま、
琉球弧に位置する石垣島で、
戦争の悲しみを伝える作品を含む
世界17カ国からの25作品が上映されます。
何名かの監督も海外から来島、
トークセッションなどのイベントに参加予定。詳しくは、映画祭の公式サイトで。
なお、昨今の世界情勢の急激な悪化により、
中東やヨーロッパ方面から招聘予定だった
海外監督やゲストの渡航費が高騰。
開幕目前のラストスパート支援を募る
クラウドファンディングがスタートしました。
上映作品の鑑賞券とセットになった支援も
あるようなので、チェックしてみてください。

