──

お話をつくっていくうえでは
さほど苦労はなかったとのことですが、
金城さんとも、
そんなに意見のぶつかりあいもなく？

今日

そうですね、ほとんど。

金城さんは、わたしのネームに対して
要望をしっかり言ってくださるので。

金城

そもそも、ネームを直してほしいって
お願いした箇所も、
すごく少なかったと思います。

今日

はじめは、タマキのキャラデザインが
もう少し「ギャル寄り」でした。
こんどのアニメ版に近い感じというか。

でも、金城さんに
「もう少しお洒落が好きな子の感じがいい」
と言われて、描き直した記憶が。

金城

わたしが覚えているのは、あるときに
今日さんが
「ＳＦっぽくしたい」って言ったこと。
「スマホを持たせるくらいな感じで、
時代もわからないようにしたい」って。
おもしろそうかもって思ったんだけど、
やっぱり、
「沖縄戦とは明言しないまでも、
それとなくわかる物語にはしたいです」
とお願いしました。

今日

わたしとしては、
東京の人の考える「沖縄っぽさ」を
強烈に押し出しすぎると、
感情移入しづらくなる人もいるかな、
と思ったんです。

だから、
物語では「南国」とは言ってますけど、
沖縄方言は
あまり使わない方向でいいでしょうか、
と確認した覚えはありますね。

金城

その塩梅は、すぐに共有できました。

南洋植物が出てきたりはするんだけど、
方言も大事じゃないところで
ちょっと出るくらい‥‥とか。
たしか「ガマ」だけは使ってますよね。
「ウージ」も使ったけど、
「サトウキビ」って振り仮名をつけて。

──

そのあたりって、どうしてですか。

歴史を扱う作品とか教育系の漫画だと、
「正確に、誤解のないように」
気をつけるのが常道だと思うんですが。

今日

沖縄らしさは大切にするべきですし、
方言という文化も
もちろん尊重して、
きちんと残さなきゃいけないけど、
この作品においては、
そこにこだわりすぎることで、
読みにくくなるかもと感じたんです。

それだと、もったいないなあって。

──

なるほど。

どっぷり踏み込みすぎてしまったら、
逆に伝わりにくくなってしまう。
いま思えば、そうじゃないところが
『cocoon』らしさですよね。

金城

毎回毎回がエキサイティングでした、
とにかく。

双子が餓死する場面がありますけど、
人がバタバタ死ぬ展開の中で、
あれだけ静かなシーンを入れてくる。
絶対に思いつかないです。
夢だけの回なんかも挟まるんですが、
そのあたりの緩急のセンスがすごい。

──

そういうシーンを描くにあたっては、
事前に金城さんと
沖縄の各地をめぐったことが、
やはり大きな経験になっていますか。

今日

それは、もう。
あれがなければ描けませんでした。

金城

荒崎海岸なんかも、
行かないとわからないことばかりで。

だってあんなところ、逃げられない。

──

戦争末期、追い詰められた人たちが、
たくさん犠牲になった場所ですね。

自ら命を絶った方も多いと聞きます。

金城

あれだけ開けた場所を逃げるなんて、
絶対に無理だって、
あの場に立てばわかりますよね。

多くの人が、米軍の火炎放射器で
海岸まで追い詰められたそうで、
それが、こんな見渡せる場所で
繰り広げられてたんだって。

──

とにかく足場が悪いし、
しかも、岩が細かく尖っていました。

みんなで
「こんなところ走れないよね」って。
転んだだけで大怪我すると思う。

今日

わたしは体育とかが苦手だったので、
あんな場所を走って‥‥なんて、
絶対に逃げられないなと思いました。

真っ先に死んでいると思います。

金城

ずーっと女子だけの学校で学んできて、
男の人に免疫がなかった
ひめゆりの子たちって、漠然と、
男の人を怖いと感じちゃっていたかも、
だとすれば、
上半身裸で
火炎放射器を振りまわす兵士を見たって
証言があったんですけど、
ひめゆりの子たちがそれを見たら
「もうダメだ、自殺しよう」
とも思うんじゃないだろうかって、
女子校育ちの今日さんが言ってました。

──

ああ、なるほど。

金城

その言葉を聞いて「あ、そうか」って。

自分だけでは、
そこまでの想像はできてなかったので、
「さすが今日さん、最高！」
って思ったことを、いまも覚えてます。

今日

今はもう大人になりましたので（笑）、
上半身裸の男性を見ても
「暑いのかなあ？」くらいにしか
思わないんですけど、
最初の旅の当時はまだ少女時代に近くて、
女子校の記憶が鮮明だったんです。

女子校の子にとって、
異性といえば、
お父さんと男の兄弟だけという世界で
ずっと過ごしているので、
街で見かける男性も、
まるで「白い影」みたいに感じていた、
そういう時期もあったんです。

──

作品の中に出てくる日本の兵士たちも、
みんな「白い影」でした。

今日

女性しかいないという、
ある意味で特殊な環境と年代のせいで
そうなるんだと思うんですけど。

ともあれ、
そんな子たちが戦場に放り出されたら、
追いかけてくるアメリカ兵のことも、
「火を噴く白い影」のようにしか
見えなくなっていたとしても、
ぜんぜん不思議じゃないなと思います。

──

今日、たびたび話に出ていますけど、
沖縄のガマ、
いわゆる自然壕の中に入ったことが、
自分は、いちばん心に残りました。

あんな真っ暗闇の中、
怪我をした兵隊さんたちが収容され、
学徒隊のみなさんが看護して‥‥。

今日

衝撃ですよね。

──

ガイドさんの合図で、
ガマの奥で
全員懐中電灯を消すじゃないですか。

光がまったく入らないその場所には、
助かる見込みのない人が
運び込まれていたと聞きました。
逆に、ガマの出口では外光が差して
「希望の光って、このことか」と。

金城

本当に。

──

ガマには汚れた水しかなかったけど、
それを飲んで生き延びたとか、
想像を絶するようなお話ばっかりで。

今日

わたしは、あれからずっと、
責任感のようなものを感じ続けています。

「わたし、ガマに入っちゃったからなあ」
みたいな。
このことを知ってしまった以上、
逃げることはできない、
知らんぷりすることはできないなあって。

荒崎海岸と金城さん　撮影：今日マチ子