──

ひめゆり学徒隊を描いた作品というのは、
映画や文学作品などで
いろいろ発表されていると思うんですが、
漫画では、どうだったんですか。

今日

戦争ものの漫画はあったと思うんですが、
ひめゆりを描いたものは‥‥
少なくとも『はだしのゲン』みたいに、
たくさんの人に読まれた有名な作品は、
なかったかもしれないです。

金城

そのなかで、ひとつ画期的な作品が、
こうの史代先生の『この世界の片隅に』です。
戦争の話だけど、
個人的な物語に焦点を当てていて、
漫画としてもおもしろかった。

でも、学生から20代前半くらいの、
今日さんの漫画に胸をキュンとさせるような、
若い読者層に向けた「戦争もの」は、
当時は、なかったと思う。
だからこそ、わたしは
今日さんとつくりたいなあって思ったんです。

──

でも、金城さんは、その時点ではまだ、
今日さんとは
一回もお仕事したこともなかったんですよね。

たくさんの漫画家さんがいらっしゃるなかで、
どうして
今日さんにお願いしたいって思ったんですか。

金城

じつは、それまでも
「この先生なら」って思う先生に会うたびに、
「ひめゆりの話、どうですか」って
持ちかけてはいたんです。
いつも、ひめゆりの図録を持ち歩いていたし。

でも「戦争ものは‥‥」って、
ずっと、お断りされてばっかりだったんです。

──

ああ、そうなんですか。

金城

わたし、森見登美彦先生が好きなんですけど、
あるとき書店で
森見さんの帯のついた漫画を見つけたんです。

それが今日さんの『センネン画報』で、
森見さんの帯に惹かれて手に取ったんだけど、
中身が、もう、衝撃的によかった。

──

いいですよね‥‥１ページの読み切りなのに、
というか、
１ページ読み切りだからなのか、あの余韻が。

金城

言い方が難しいんですけど、
ここまでみずみずしく描かれた女の子たちの、
そのみずみずしさが、確実に失われていく。

この人なら、そんな話が描けるんじゃないか。
で、描けるとしたら、
新しい戦争の漫画がつくれるんじゃないかと。

──

今日さんの作風とひめゆりの漫画の構想とが、
つながったわけですね。

金城

ひめゆり平和記念資料館の展示室で見た、
目立つ子、地味な子、美人な子、
写真のない子‥‥あの子たちの話が描ける。

そこで「もう、今日さんしかいない！」って。
すぐに連絡をしたんです。

──

それで、いっしょに沖縄へ行き‥‥。

金城

はい。沖縄をめぐるうちに
「女の子の目線だったら描けるかも」って。

今日さんは、最初は「妄想」レベルだった
わたしの企画を、
素晴らしい作品にしてくださいました。

──

それまでって、今日さんの「長編」というか、
ストーリーものってあったんですか。

今日

まだ、ありませんでしたね。

金城

そう、『センネン画報』がとっても素敵で、
１ページの作品でも
十分に物語を感じられたので、
漫画編集者としては、
きっといけるだろうと思ってはいたんです。

たしかにストーリーは未知数だったけど、
でも、やっぱり１話目のネームから
「すごい、こんなに描けるんだ！」って。

──

おお～。

今日

いや、わたしとしては自信がなかったので、
描けてよかったです（笑）。

金城

ふわっとした感じになる可能性も
もしかしたら、あるかもしれないなあって
思っていたんですけど、
「戦争、沖縄の漫画」のシビアなネームが、
ビシバシ上がってきました。

──

金城さんは、誰とやるにしても、
まず沖縄に行こうとは思っていたんですか。

金城

ずっと誰も「いいね」って
賛同してくれた人がいなかった企画なので、
そこまで考えることもなかったです。

でも、今日さんがやっていた
藝大のフィールドワークの話とかも聞いて、
「あ、この人は、実際に現地へ行ったら
何か感じ取ってくれる人だ」と思いました。

──

今日さんは、それまでに
沖縄のことをどれくらい知ってたんですか。

今日

太平洋戦争の末期に沖縄戦があったことや、
ひめゆり学徒隊が
悲劇的な最期を迎えたことは
もちろん知ってましたけど、
逆に言えば、それくらいの知識しかなくて。

簡単に、足を踏み入れられなかったんです。
ひとつのことに関わったら、
どんどん別のいろんな問題が出てきそうで、
怖かったというか。

──

若き日の金城さんみたいに。

最初の訪問のときも、
ガマ‥‥つまり自然壕には入ったんですか。

今日

入りました。

それ以外にも、さまざまな沖縄をめぐって、
「ああ、あったんだ、本当に」って。
「この地で、戦争があった」という事実が、
身体の感覚として押し寄せてきたんです。

──

今回、ぼくもおふたりと一緒に
糸数にあるアブチラガマに入りましたけど、
身体の感覚って、わかります。

あそこに入れば「身体でわかる」気がする。

今日

それまで戦争ってどこか遠くにあるもので、
自分が巻き込まれるなんて、
まったく想像できていませんでした。

でも、沖縄の戦争の痕跡をめぐってみたら、
「この時代、この場に自分がいたら、
あっさり死ぬな」ってリアルに感じました。

──

ヴェトナム戦争って、歴史上はじめて
戦場のようすがテレビ放映された戦争だと
言われていて、
「リビングルーム・ウォー」という異名が
つけられているんですけど。

金城

そうなんですか。

──

そうやって、自分の家のリビングという
絶対的な安全圏から
メディアを通して戦争を眺めていたら、
そこに巻き込まれることが
想像できないのは、
ある意味で、当然かも知れないな‥‥と。

金城

うん。そうだと思う。

──

沖縄では、戦争が、身体に迫ってきたと。

漫画を描きはじめてからは、
じゃあ、どういうご苦労がありましたか。

今日

お話をつくること自体には、
そこまで苦しんだ記憶はないんですけど、
「戦争の物語」というだけで、
「描くことの責任」が生じるんだな、と。

亡くなった人たちに対して失礼ではないか、
ということはもちろんですが、
東京の人間がなぜ沖縄の話を描くのかとか、
何も知らないくせに‥‥と言われたら、
やっぱり、何も言えないなと思っていたので。

──

なるほど。

今日

でも、仮にこの作品が批判されたとしても、
そのことがきっかけで
「じゃあ、沖縄戦って何だったんだろう？」
と考える人が出てくるなら、
それはきっと、
描く意味があるんだと思って、描きました。

夜中に描いていると辛くなるので、
途中からは、昼間だけにしようって決めて
描いている時期もありました。

みんなでポーたまを食べた「健児之塔」の先の浜への道すがら　撮影：ほぼ日・奥野