──

まずは、おふたりが今回、
あらためて沖縄をめぐろうと思った経緯から
聞かせていただけますか。

今日

わたしから金城さんに持ちかけました。

これまで『cocoon』の舞台化などにあたって、
ふたりで作品に立ち返り、
そのつど「沖縄」に向き合ってきました。
作品を描いてから15年以上が経った
このタイミングで、
NHKでアニメ化されることになったので、
15年前に『cocoon』を描いたときと
同じ場所をめぐって、
何が変わって、何が変わらなかったのか‥‥を
確認したいなと思ったんです。

──

『cocoon』以降も、
いっしょに沖縄には来ていたんですね。

今日

はい、ピンポイントで訪れたりしていました。
でも全体をめぐり直したのは、はじめて。

金城

これまで『cocoon』って、
劇団の「マームとジプシー」が３回、
舞台にしてくれているんです。

そのたびに、みんなで一緒に沖縄を訪れたり。
でも、漫画制作の「最小単位」つまり
漫画家と編集者だけで
戦争の資料館や戦争遺構を訪問し直したのは、
最初のとき以来ですね。

──

そもそも『cocoon』って、
金城さんが、
自身のルーツである沖縄の漫画をつくりたい、
という気持ちから、うまれたんですよね。

金城

2008年に、
平和祈念公園にある戦争犠牲者の慰霊碑
「平和の礎（いしじ）」に、
親戚‥‥父の姉の名が刻まれたんです。
そのことをきっかけに、
「自分も関わらなきゃ」と思うように
なりました。
それまでのわたしは、
沖縄に対して距離をとっていたんです。
沖縄って「問題」が多すぎて、
直視することが辛かったのかもしれない。

──

沖縄戦やひめゆり学徒隊などの
歴史だけでなく、
現在でも米軍基地の問題があったりとか。

金城

学生時代は、とくにそんな感じでした。
でも「礎」で父のお姉さんの名前を見て、
あらためて
ひめゆり平和祈念資料館を訪れたら、
痛みがダイレクトに感じられたというか。

で、そのときに、
「こういう感覚を描いた漫画はないかも」
と思ったんです。

──

戦争を描いた漫画はたくさんあれども。

金城

もちろん『はだしのゲン』などをはじめ、
すごい戦争漫画はたくさんあります。

でも、それまでのわたしには、
読んでいて怖かったりして、
自分と地続きの作品だとは思えなかった。
遠くにあるものだと感じていました。

──

でも、叔母さんの名前が刻まれたことで。

金城

はい。それと、
ひめゆり平和祈念館で見た遺影のなかに、
沖縄出身の自分と
どこか似たような顔だちの子がいました。
他にも、
静かに本を読むのが好きだった子だとか、
妹がいる子だとか、
「あ、自分と一緒だ」って思ったんです。

そこで、戦争や沖縄の話ではあるけれど、
同時に「女子高生の物語」を、
誰かに描いてほしいと思ったんです。

──

で、今日さんにお声がけしたわけですね。
その依頼を受けて、今日さんは？

今日

はい。最初は「戦争の漫画」と言われて、
やりますと即答はできませんした。

そこで、いちど沖縄を訪問して、
戦争の遺構や
資料館の展示などを見てから判断したい、
と伝えたんです。

──

それが2009年の、ふたりの最初の旅。

今日

沖縄では、旅の間じゅう
ずっと「どうしよう、どうしよう」って
ぐるぐるしていました。

でも、ひめゆり平和祈念資料館の
女の子たちの写真を見たら、
自分の高校時代の友だちみたいに思えて。

──

おお。

今日

「友だちのことだったら描けるかも」と
なぜか、そう感じたんです。

──

なるほど。

今日

さっき金城さんもおっしゃってましたが、
資料館には、
一人ひとりの女学生を説明した文章に、
顔写真を添えて紹介する展示があります。
そこには、
何となく目立つタイプっぽい子もいれば、
地味な感じの子もいた。
そもそも顔写真のない子もいたんです。

その感じが、すごくリアルで。

──

リアル。

今日

はい。「ああ、こんな子たちだったんだ」
と思えたとき、
自分の高校時代と重ねることができた。

帰りのタクシーの中で、
『cocoon』のサンとマユの関係みたいな、
登場人物たちがわーっと浮かんできて、
その場で金城さんに
「描けるかもしれない」って伝えたんです。

──

金城さんは「自分と一緒だ」と思って、
今日さんは「友だちみたい」と思った。

ひめゆり学徒隊の女の子たちのことを。

今日

そうなんです。

──

それまでも、ひめゆりの資料館はじめ
戦争遺構は訪れてたんですよね。

金城さんなんかは、とくに。

金城

はい。もちろん。
でも、親に連れて行かれただけというか、
「戦争はダメ」「基地もダメ」
というメッセージばっかりを強く感じて、
素直に向き合えなかった。

むしろ、当時は
「そんなことより、沖縄を楽しみたいよ」
なんて思っていました。
迷彩の服が流行っていて着たかったのに、
母親に、米兵による
レイプ事件のことを思い出すからやめて、
と言われたりしたときにも。
「そんなことファッションに関係ある？」
とか。

──

中学、高校くらいのころですかね。

金城

そのころは、どこか反発心もあったので、
「沖縄の人は、ずっと差別されてきた」
みたいな親の発言も、
「被害妄想じゃない？」なんて思ったり。

でも、大人になるにつれて、
過去の歴史を少しずつ知っていくうちに、
「沖縄の怒りや涙は本当だったんだ」
というふうに、思うようになったんです。

──

なるほど。

金城

テレビなんかの「報道で見る沖縄」って、
泣いたり叫んだりする人も多いし、
どこか
パフォーマンスのように見えていたけど、
毎年6月23日に開かれる慰霊祭で
涙を流している人たちの姿を見たら、
ああ、本当に大切な人を失ったんだ、
娘を亡くした親御さんが、
お姉ちゃんを亡くした妹さんが、
友だちを亡くしたひめゆりの学生たちが、
心から悼んでいるんだとわかった。

彼らの姿を目の当たりにして、
自分も
「もう、沖縄と向き合わなきゃダメだ」
と思うようになっていったんです。

残波岬　撮影：今日マチ子