高橋宗正さんについてはこちら 高橋宗正さんと、6名の写真家に訊く。

スマホで撮って、SNSで共有して。
「写真」って、いま、
とても身近なものになってますよね。
でも、写真集を買ったり
写真展に行ったりすることとの間には
隔たりがあるのも事実。
ふつうの人にはハードルが高いというか、
何だか、むつかしそう‥‥というか。
同じ「写真」なのに、なぜだろう?
でも、ほんとうは、ぜんぶの「写真」は
つながっているんだよねーって
写真家の高橋宗正さんが、言ってます。
写真家の作品、写真集、写真展。
家族写真、Facebookやインスタグラム。
それらは、みんな「つながっている」。
そう思えば
「写真はもっとおもしろがれる」かも。
そこで、宗正さんが
「心からリスペクトしてる」6名の写真家に、
いろいろ話を聞きました。
ご一緒するのは「ほぼ日」奥野です。

http://tha.jp/358

高橋宗正(たかはし・むねまさ)


1980年生まれ。
2002年「キヤノン写真新世紀」優秀賞を
写真ユニットSABAにて受賞。
2008年「littlemoreBCCKS第1回写真集公募展」リトルモア賞受賞。
2010年 写真集『スカイフィッシュ』(赤々舎)を出版。
同年、AKAAKAにて個展「スカイフィッシュ」を開催。
2014年 LOST & FOUND PROJECTをまとめたドキュメンタリー
『津波、写真、それから』(赤々舎)を出版。
2015年5月、写真集『石をつむ』(VERO)を出版予定。
 山本昌男さんと「写真家で食う」。
 前編 「お散歩写真」から「作品」へ。
──
こういう切り出しかたも何なのですが
山本さんは、日本では
さほど有名ではないとのことですが‥‥。
山本
ええ、まったくの無名です。
──
でも、海外では
たびたびジャーナリズムに取り上げられ、
各国のギャラリーで
もう何年も作品を販売してこられ、
世界中の美術館に
作品が収蔵されているとうかがいました。
山本
アメリカ、イギリス、イタリア、
フランス、ベルギー、スイス‥‥とかね。

もちろん、日本にもありますけど。
──
たしかに「山本昌男」とネット検索したら
日本語のウィキペディアはないのに
英語のウィキペディアはありました。
山本
ははは。
──
でも、大学の先生などの教える仕事や
雑誌・広告の仕事をせず、
「作品を売ること」だけで食べていくのって
「けっこう難しいことですよね?」
というイメージが、
一般的には、あると思うんです。
山本
そうでしょうね。

とくに、ふつうの人がアートを買う習慣が
ほとんど根付いていない、日本では。
高橋
でも、山本さんはやれているんです。

山本さんに出ていただこうと思ったのは
「写真家」という職業でも、
「ちゃんと食っていけてる人がいる」
「その可能性だってアリなんだ」
という話が、聞きたかったからなんです。
──
はい、すごくおもしろそうです。
高橋
しかも、山本さんの場合、
現在の「作品」が
「お散歩写真」の延長にあるってことが
おもしろいなあと思っていて。
──
どういうことですか?
お散歩写真‥‥をやってらした?
山本
ええ、若いころはね。

荒木経惟さんから、森山大道さんから、
昔は、そのスタイルが主流でしたから。
──
つまりは、はじめから
「作品を売って生計を立てる写真家」
だったわけじゃなかったと。
山本
うん、結婚式の写真を撮ったりもして、
それで、ずいぶん生き延びましたよ。

まだ若いころのことですけど、
友だちの結婚式で
「なあ、山本、3万円で一式たのむわ」
みたいな感じで。
──
なんと、そんな過去が。
山本
でも、あるときに
甥っ子の結婚式に呼ばれて行ったら
「叔父さんは、プロのカメラマンなんだよ」
と言って、みんなの携帯を渡すの。俺に。
──
撮ってくれ、と。
山本
そう、そのとき、
次々とシャッターボタンを押しながら
「これはもう
 プロとして差別化しなきゃダメだな」
と猛烈に感じて、
八ヶ岳の森の中に入っていって
そこに、でかいスタジオを建てました。
──
それは、作品を撮るために?
山本
そうです。

これが、アメリカの出版社から
初期の本のうちの1冊『中空』です。
けっこう評判になりました。
──
わ、すごい装丁というか、
巻物みたいで、まさしく「作品」です。
山本
長さが6メートルもあって、
ぜんぶ見るのも、大変なんですけどね。
高橋
今は「十数万円」とかしますよ。
──
え、そんなプレミア価格!
山本
こんなの、本屋さんに並ばないでしょ?

当時、日本人の写真家に注目していた
ナツラエリ(Nazraeli Press)って
出版社なんだけど
「本屋になんか、並ばなくてもいい。
 画廊で売るんだ」と。

もともとは「80ドル」だったかなあ。
──
それがいまや数十万円ものお値段に。
山本
そう。こっちの『オオミズアオ』だって
サンタモニカの本屋にプラっと入ったら、
定価で売ってたんで
あわてて、自分で買ったんだもん。
──
「これは安い!」と(笑)。
山本
本屋が「サイン入りだよ」って言うから
「ほんとだ。
 たしかに俺のサインだなあ」って。
高橋
まさかの本人登場(笑)。
山本
その本屋もびっくりして
「え、なんでお前が買うんだ?」
って言うから
「もう家に在庫がないんだよね」
みたいな。
──
はー‥‥。

ちなみに、ふだん八ヶ岳のスタジオでは
どういったものを撮影されてるんですか?
山本
今、凝って撮ってるのは、木の根っこ。
──
根っこ。
山本
スタジオの周辺に
広葉樹の木の根が埋まってるんですよ。

それまで大木を支えてきたわけですが、
その役目を終え、重力から解放され、
土に還ろうとしているところを
ちょっと失礼と言ってほじくり返して、
ライティングして、
もういちど、別の命を吹き込む感じで。
──
おお‥‥それが、こちらですか。
山本
魔除けの「メデューサ」みたいでしょう?
こっちのは「猿」です。石ですが。

光で彫刻しているようなイメージですね。
──
つまり「ライティング」によって
この陰影というか、かたちを出している。
山本
こっちのは、見る角度を少し変えると
「1塁ランナーが
 セカンドに滑り込んでる」んですよ。

だから「熱闘甲子園」ってタイトルに
したかったんですけど
よくよく考えてやめときました(笑)。
──
海外の人には、通じにくいですもんね(笑)。

でも、撮ってらっしゃるのは、
どれも
八ヶ岳のスタジオ周辺で「いいな」と思った、
木の根っこや石や風景、なんですね。
山本
うん、わざわざ流氷を撮るために
グリーンランドに行くとかってことは
しないなあ、俺は。
──
そういう意味で、さっき宗正さんは
山本さんのお仕事のことを
「お散歩写真の延長なのが、おもしろい」
とおっしゃってたんですね。
山本
自分の中では、連続性はありますね。

昔と今で「見てるもの」って
そうそう、変わりゃあしないですし。
──
そうか、そうなんでしょうね。

「写真で食う方法」は変わったとしても
「撮りたい」と思うものが
ガラッと変わったわけではない‥‥と。
高橋
この間、八ヶ岳に遊びに行ったんですが、
実際、
ブラブラ歩きながら撮ってましたよ。
──
つまり、何でもない道っ端で「作品」を。
高橋
そうそう、
「あの作品は、このあたりで撮ったんだ」
とか教えてくれるんですが、
どこも「誰にでも行ける場所」だし、
どれも「誰にでも撮れるもの」なんです。

それが、いったん山本さんを通すと
「作品」になって、出てくるんですよね。
──
そう聞くと、
まるでマジックみたいに聞こえますが‥‥。
高橋
マジックでは、ないんです。

もちろん、
画廊で値段がつくような「作品」にまで
磨き込む「技術」や「見せ方」は
超一流なんですけど
「どこにでもあるものを撮って、見せる」
という行為自体は、
みんながやってることと、一緒なんです。
──
FacebookやInstagramと。たしかに。

山本さんの「作品」は
みんなの撮ってる写真とつながっていて、
みんなの撮ってる写真の
「すごい先」にあるってことですね。
山本
ま、大元は変わらないんでしょうね。

プロとして長く続けるには
オリジナリティがもっとも重要だってのは
言うまでもないことだけど。
高橋
そう、そういう「ふつうに撮れる写真」を
海外で高い値段で買ってもらえて、
世界中の美術館が入れてくれるくらいまで
徹底的に磨き上げてるんです。

それが「写真の可能性」ってことだし、
単純に、すごくおもしろいことだなあって。
山本
俺、黒い作品を撮ったとき
印画紙をカッターでカットするんだけど、
1ミリ以下の紙の厚みの白い部分、
いわゆる「小口」を
チマチマ、黒く塗ってたりしてるしね。
高橋
すげー!(笑)。
山本
たしかに、そこまでやるやつは、
まあ‥‥あんまり聞いたことないですね。

<つづきます>
(2015-05-18-Mon)

LOST&FOUND PROJECT

被災地の写真を集めて洗って展示した
「LOST&FOUND PROJECT」を再現します。

高橋宗正さんはじめ有志の人たちは
東北の震災以降、
被災した「写真」をきれいに洗って複写して
持ち主のもとへ返却し続けています。

これまで75万枚もの写真を一枚一枚
泥を落として、データ化していきました。

この写真を、たくさんの人に見てもらうために
展示を始めたのが
「LOST&FOUND PROJECT」です。

日本だけでなく、海外まで巡回した展示を
もういちど見られる場を
「ほぼ日のTOBICHI」につくります。

・関連コンテンツ
高橋宗正+糸井重里対談
「写真に何ができるんだろう?」


はじめて買う人のための
写真集のお店。

「TOBICHI」の2階では、
期間限定のお店がオープン。

写真家の人たちや、出版社のひとが
「はじめて買うなら、この写真集はどうですか?」
という、おすすめ写真集が集まったお店です。

高橋宗正さんのほか、これまで
いろんな写真集をつくってこられた
出版社のかたがたも、入れ替わり立ちかわり
お店番をしていますので
どうぞ、いろいろ話しかけてみてください。
作品をつくった思いや
制作エピソードなんかも、聞けるかもしれません。

また、会期中は、ワークショップや
トークイベントなども予定しています。
ぜひ、遊びにいらしてください。
2015年5月18日(月)~5月24日(日)
5月18日~22日:14時~21時
5月23日    :11時~21時
5月24日    :11時~19時
場所:ほぼ日のTOBICHI

写真家のみなさん、出版社のみなさんの
在廊予定日について、おしらせします。

◯5月20日(水)
出版社:青幻舎 新庄さん(19時〜)

◯5月21日(木)
写真家:濱田祐史さん(17時〜)、高橋宗正さん
出版社:Photo Gallery International
    秋山さん(17時〜)

◯5月22日(金)
写真家:松岡一哲さん、高橋宗正さん
出版社:テルメブックス 阿部さん

◯5月23日(土)
写真家:黑田菜月さん、仲田絵美さん、高橋宗正さん
出版社:赤々舎 棚橋さん(16時〜)

◯5月24日(日)
写真家:高橋宗正さん
出版社:Photo Gallery International
    秋山さん(14時〜)、
    赤々舎 柏崎さん(17時〜)

※当日、やむなくスケジュールの変更が
 ある場合がございます。なにとぞご了承ください。
「ビブリオバトル」ということばを
聞いたことはありますか?

これは、おすすめの本を登壇者が紹介していき、
読んでみたいなと思った1冊を
参加者みんなで投票して決めるというものです。
知らなかった本を知ることができたり、
その本を紹介してくれた方の、人となりが分かったり。
本を通して、みんなで遊んでみようと思います。
ふだんは、どんなジャンルの本も登場するそうなのですが
今回は、「写真集」をテーマにやってみます。

登壇されるのは、高橋宗正さんや
写真集を作っている出版社の方々、
それに対するは、ふだんから
ビブリオバトルを開催している精鋭のチーム。
ちょっと敷居の高く感じられる写真集も、
楽しみ方のコツさえ分かれば
きっと今の自分にぴったりの一冊が見えてくるはずです。
日程:5月17日(日)
会場:TOBICHI
開場:16時
開演:17時(18時30分終了予定)
参加費:1000円(税込)

※お申し込みは、tobichi@1101.com までどうぞ。
・ご応募のしめきりは
 「5月15日(金)午前11時」です。
・メールの件名は「TOBICHIイベント参加希望」で
 お願いします。
・メールの本文には、参加されたいイベントの日程、
 お名前、電話番号をご記入ください。
・当選のかたには、5月15日(金)中に
 メールをお送りします。

多くの人にとって
「家族写真」や「記念写真」というのは
じぶんが生まれて初めて関わる写真だと思います。

これまで「家族写真」をテーマにした作品を
発表していらっしゃる、写真家の浅田政志さんに
お越しいただいて「家族写真」の面白さや
写真を撮る際の「ひと味加えるコツ」を
お話いただきます。
聞き手は、写真家の高橋宗正さんです。

また後半では、「実践編」として
具体的にどうすれば面白く写真が撮れるのか、
会場で実演していきます。
「記念写真」を撮るうえで大事なことを
ぜひ学んでいってくださいね。

なお、この日に会場で撮った写真は
参加のみなさんに
後日メールでお送りします。
どうぞおたのしみに!
日程:5月22日(金)
会場:TOBICHI2(2階)
開場:19時
開演:19時30分(21時終了予定)
参加費:1000円(税込)

※ご応募多数の場合は、抽選とさせていただきます。
 あらかじめ、ご了承ください。
※お申し込みは、tobichi@1101.com までどうぞ。
・ご応募のしめきりは
 「5月15日(金)午前11時」です。
・メールの件名は「TOBICHIイベント参加希望」で
 お願いします。
・メールの本文には、参加されたいイベントの日程、
 お名前、電話番号をご記入ください。
・当選のかたには、5月15日(金)中に
 ご連絡いたします。
・参加費は、当日受付でお支払いいただきます。

この日のトークイベントに登場されるのは
写真家の高橋宗正さんと、日本の写真集を
世界中に広める仕事をしている、
ディストリビューターの松本知己さん。

高橋宗正さんから
「ほぼ日」読者のみなさんへ
コメントをいただきましたので、紹介いたしますね。


こんにちは、高橋宗正です。
ぼくはカメラマンとして写真を仕事にしたり、
作品をつくって写真集にしたりしながら生きています。

5月23日のトークイベントは
「写真」と「写真集」という
ふたつのものを、前半と後半、
それぞれにスポットを当ててお話したいと思います。

震災のあと、多くのものを失った人が
まず探すものとして過去の写真がありました。
そこには、ぼくが普段プロとして
期待されている写真の価値とは違った意味がありました。

当時はその意味をよく理解できずに、
津波に流された写真を洗浄しデータ化して
持ち主に返す活動をやっていたのですが、
その後世界中の人と関わりながら
コミュニケーションをとるうちに
だんだんと写真のもつ役割のようなものを知りました。

ぼくらが普段何気なく撮る写真にも、
ちゃんと意味も価値も内包されているんです。
写真は一生付き合っていくメディアなので、
今より少し理解を深めると人生が
ちょっとおもしろくなります。

じぶんの経験をふまえつつ、
そんな話ができればと思っています。

そして、「写真集」について。

日本の写真集を
世界中に広める仕事をしている人がいます。

ディストリビューターと呼ばれる仕事をしている
松本知己さんは、若手ながら
ニューヨーク近代美術館や
メトロポリタン美術館などとも取引もあり
少しずつ確実に仕事の幅を広げている人です。

そんな松本さんをお招きして、
日本の写真集の魅力や、海外の写真集コレクター、
値段が跳ね上がるプレミアム写真集の仕組みなどについて
聞いていきたいと思っています。

実はぼくは、ここ数年
松本さんと一緒にパリ、ロンドン、
ベルリン、ニューヨーク
と海外のブックフェアなどに行き、
多くのハプニングに見舞われつつ
写真集の広まる現場を見てきました。
松本さんとともに、
そんな珍道中のエピソードもしながら、
「写真集入門・中級編」のような
お話をしたいと思っています。
日程:5月23日(土)
会場:TOBICHI2
開場:16時
開演:16時30分(18時終了予定)
参加費:1000円(税込)

※お申し込みは、tobichi@1101.com までどうぞ。
・ご応募のしめきりは
 「5月19日(火)午前11時」です。
・メールの件名は「TOBICHIイベント参加希望」で
 お願いします。
・メールの本文には、参加されたいイベントの日程、
 お名前、電話番号をご記入ください。
・当選のかたには、5月19日(火)中に
 ご連絡いたします。

松本さんプロフィール

松本知己(まつもと・ともき)


出版社「赤々舎」を経て、
2014年「T&M Projects」を東京にて設立。
赤々舎を中心に写真集の海外流通を手掛けるほか、
様々な媒体で書籍のセレクトやベストブックの選出、
執筆活動、イベン トプロデュース、
展覧会のコーディネートなど多方面で活躍。
2015年3月、香港でのブックフェア「HK Photobook Fair」開催。
2015年、書籍の出版を予定。