いまなお、多くの人の心をとらえて離さない
『MOTHER』シリーズの音楽。
その音を紡いだのが鈴木慶一さんと田中宏和さん。
開発者の糸井重里を交えて
たっぷりとひもといてもらいましょう。
その経緯を。とっておきの秘密を。込めた情熱を。
一見のほほんとした「おじさん」たちは、あのとき、
あきらかにムキになって戦っていた!鬼だった!
なお、ときたま登場する「ムケてない」ということばは
「大人になりきれていない」という意味で使います。
あまり余計なことなど想像せぬように。

第3回

『ホテル・カリフォルニア』とヘロヘロ

田中さんが参加する際、
糸井さんから説明というか、
「こうしたいんだ」というようなものは
伝えられたのでしょうか?

田中
ああ、なんとなく最初に
糸井さんと話したの覚えてます。
で、説明というより雑談の中で出てきた
バンドがいくつかあって。
その中の一つが
「イーグルスの『ホテル・カリフォルニア』!」

端的ですねえ(笑)。伝わりました?

田中
伝わりました‥‥というか
勝手にイメージつくっちゃったんですが(笑)。
アルバム『ホテル・カリフォルニア』の最後に
『ラスト・リゾート』って曲があるんだけど
ぼく、それが大好きだったんですね。
なんだろ‥‥ひとつの曲が
どうのこうのって、言うよりも
アルバム聞き終えたあとの余韻‥‥
その余韻の質感みたいなものが
なんとなく自分がマザーの音楽にかかわるうえで
根底にあるかも‥‥。

へええ~、そうなんですか。

田中
糸井さんは
「New Kid in Town、はいいよねえ」とか
話してくれて、
僕はアルバムのB面の最後の
2、3曲の流れが好きで。
で「ラスト リゾート」の最後の歌詞が
「You call some place paradise - kiss it goodbye.」
なんか、その「キス イット グッバイ」を聞いて
終わる‥‥のが意味なく好きで(笑)。
糸井
うんうんうん。いい歌だよね~。
田中
あと、これはじめて言うんですけど、
糸井さんと共感できる既存の曲より
もっと『MOTHER』の音楽の根底には
もうひとつ大事な音楽があるんです。
それはまだ『MOTHER』の開発が
始まりかけた頃
糸井さんが弾いていたメロディなんですよ。

メロディ? 糸井さんが弾いたんですか?

糸井
は?????
田中
そう、そうなんです、
当時ね、糸井さんの事務所へ
おじゃましたとき、
たぶん糸井さん忙しくて、
もうヘロヘロの時があったんですよ。
で事務所に、こんなちっちゃなキーボードがあって
それを糸井さんが、ヘロヘロ‥‥って感じで
弾かれてたんですよ‥‥
なんかビブラートが
ヒョロヒョローってかかってて‥‥。
で そん時の音の印象が なんか強烈で
その時の音色が、もう、ゲームの奥の方を
ぜんぶ支配してるんですよ。
一同
へーーーーーーっっっ!!!
鈴木
はははっ! たまげたなあ、こりゃ、
初めて聴く話が多いねぇ!
糸井
‥‥口にゲンコツが入りそうだ。
田中
あの、読者からのメールに、
「『マジカント』の音楽が
~♪やさしいね、やさしいね♪~
って聞こえました」
っていうのがあったでしょ?

ああ、ありましたありました。

マジカントをプレイしていると、不意に祖母が
「これ、♪やさしいね、ほらやさしいね♪って、
言っているの?」
と、私に聞いてきました。
当時のファミコンゲームの音楽に歌詞なんてついていません。
私は
「音だけで、何も言ってないよ」
と冷たく言い放ちました。祖母は、
「何だか、♪やさしいね、やさしいね、♪って
言っているみたいに聞こえたんだよ」
といいましたが、私はその時祖母に対して、
老人だから耳が遠くて、変に聞こえてるんだ、位の事を思い、
心の中で「けっ」とか思っていました。
普段、母が涙を流す位いじめるくせに、
やさしい、とかを口にして、
半端な感受性を見せている彼女に、
子供ながら腹を立てたのかもしれません。
その二年後、私が6年生のとき、祖母は亡くなりました。
口には出さなくとも、絶対言ってはいけないような
悪態を心に呟く事もあった、そんな祖母だったのに、
私は、いっぱいいっぱい泣きました。
全然マザーとは関係のない話をメールしてごめんなさい。
楽しみにしてます。
(やっち)

田中
ああゆう、なんか一言では言えない音程が
微妙に揺れて、ポヨーンポヨーンってした音色、
鳴り方は、全部糸井さんのあの夜弾いてた
キーボードの音色、
「ヘロヘロ」感を引き伸ばしてるんですよ。
『MOTHER2』だと
パワースポット、あといちばん原型に近いのが
エデンの海とか‥‥あの辺りはモロって感じで。

‥‥疲れた糸井重里の「ヘロヘロ」を。

糸井
‥‥つまり、どせいさんの絵と
同じ作りかただったんだ。
あのゲームのなかに、
いかに「オレ成分」が濃いかが、
自分で、いま、わかった。
田中
うん。たぶん、
糸井さんがボソッと言ったことなんかが
ザーッと引き伸ばされている。
それが『MOTHER』の音楽なんだよ。
糸井
そういう、オレのなんでもないようなことを
ちゃんと聞いてくれていたんだよ。
みんな生意気な人なんだけど、
「なんかつくりたい!」っていうときになると、
生意気なヤツが、急にいいヤツになるんだよね。
鈴木
うん、そうだね。うん。
糸井
『MOTHER』の音楽チームは、
バンドマンなんですよね。

ひとつが『ホテル・カリフォルニア』で、
もうひとつが糸井さんの弾く「ヘロヘロ」で。

田中
まあ、もっといろんな影響があるのは
当然なんですが、
ほんと最初の切っ掛けになったのは
そういう事かも、ですね。

‥‥いや、驚きました。

そういえばゲームには全く無関心だった母が
唯一関心を寄せたのもMOTHER2でした。
後ろで洗いものをしていた母から突然
「やさしい感じの音楽やな。なんていうゲーム?」
って言われたとは驚きました。
(ヒラカワ ユウゾウ)

田中
もちろん、それは僕の中の話で。
いままで言ったような音のイメージは、
マザーの世界の中にある
「自然の音」を演出するような部分にのみ
影響してるんだけど‥‥。
慶一さんはやっぱ映画として
「サントラ」を考えた時、
全体を貫くメロディとして、
ビーチボーイズとか
ビートルズとか‥‥
そういう人たちのイメージが‥‥。
糸井
うんうんうん。
田中
当時、実は糸井さんから資料として
ビーチボーイズのCDを
いただいた記憶があります。
「ビーチボーイズ、いいんだよね!」
って(笑)
糸井
おぼえてない(笑)。
でもね、『MOTHER』の世界を描くためには、
アメリカのいいところを出したいなって思ってた。
アメリカのイヤなところはいっぱいあるんだけど、
「おかげで助かったぜ!」っていうアメリカ、
サンキューを言いたいアメリカっていうのも、
いっぱいあるんだよ、俺たちのなかに。
鈴木
うん。アメリカはイヤな国だけど、
音楽や、その周りはいい。
糸井
そう。こないだも、
夜中にベット・ミドラー聞きながら
あらためて思ったんだよ。
オレはけっこうアメリカと接してるんだって。
だから、貧乏とか大臣とか関係なく、
なんかみんながなにかを、
目の前のなにかをつかめそうな気がするっていう、
そういう「いいアメリカ」の気分が、
ビーチ・ボーイズにはつまってるんだよ。
鈴木
うん。だからこそ、ビーチ・ボーイズって、
明るさを装っていて、
明るくいなくちゃいけない、
そこが悲劇なんだな。
まさにアメリカ。
ホテル・カリフォルニアもね。
ほんとはさ、暗いんだよね。
糸井
暗い。で、そういうのはやっぱり
オレの性格にも合ってるんだよ。
にしても‥‥田中さん、えげつないなあ(笑)。
田中
(笑)

MOTHERをプレイしてからもう十年以上たっているのに、
「サボテンは歌う・・・せつせつと歌い続けた」
と、歌うサボテンと、暗い地下で鳴り響くピアノの音が
昨日見た夢のように繰り返し甦ります。
(ひかげのかずら)

(続きます!)

2003-06-02-MON