作家の水野敬也さんと岸田奈美さんが
恋愛相談にこたえる番組『LOVE相談』が、
書籍
『すべての悩みは武器になる』として刊行されたことを記念して、
三省堂書店神保町本店で
糸井も交えたトークイベントを行いました。
テーマは、番組に最も寄せられた相談、
離婚と不倫について。
もっと深刻な話になるかと思いましたが、
恋愛の奥深くにある「欲望」をめぐって
話はさまざまな方向に揺れました。
クローズドな会でしたが、
この盛り上がりを伝えたく、
一部編集をして公開できる範囲でお届けします。
*水野敬也さんはご本人の意向で、
この日から顔出しをやめました。
白熱する様子を想像しながらお読みください!
- 糸井
- いつ隕石が落ちてくるかわからないのに、
恋愛相談に答えるっていうのは
実のところ無理なんだと僕は思います。
- 岸田
- 私もそう思いました。
- 水野
- そうですね。
あまりにも人それぞれで先が読めないことですから。
- 糸井
- プラグマティックな解決方法はあって、
法律が案外守ってくれたりします。
ただ、理路整然と語れるところとは違って、
離婚する人は増えてきているけれど
重たさみたいなものは変わっていないと思います。
たとえば子どもの慰謝料を
払い逃げしている人はたくさんいて、
それについて、子どもはずっと覚えている。
別れたんだっていうところで空いた穴を
なにで埋めるのかっていうのが、
その人の人生になっていくわけです。
- 岸田
- 私、3年ほど前から
ニュースのコメンテーターをやっていて、
すごく楽しくしゃべっていました。
でも、言い淀んでしまうのが苦しい時もたまにあって。
たとえば戦争のニュースは、絶対にダメじゃないですか。
世間としても暗黙の共通認識があるし、
私もそう思っています。
でも、戦争はダメだって話をした瞬間に、
自分が思っていることを言えていないような、
自分の魂の話を世間は許してくれないという
もどかしさを感じたんです。
そのことを思い出しました。
- 水野
- 本音ではもちろん戦争反対なんだけれど。
- 岸田
- はい。
- 糸井
- 意外とフィクションだけが
自分の魂の話をできるんですよね。
- 岸田
- ああ。
- 糸井
- 悪いに決まってるやつの後をつけていったら、
実は悪くないところもあった
っていう話を書けるのが小説で。
- 岸田
- 同情できるところがあったりしますよね。
- 糸井
- でも、小説じゃない話としてやりとりをすると、
前提を壊せないじゃないですか。
もちろん壊す気もないんだけれど、
わかりきった石の投げ合いに参加するだけで、
魂のところは見えてこない。
本屋さんでトークショーをしているから
言うわけではないけれど、
どれほどフィクションが大事かっていうことを
常々思います。
- 水野
- なるほど。
- 糸井
- 事実やルールについてどれだけ論争しても、
自分の魂の部分っていうのは関係ないですから。
だけど、もっと考えているし、
そこが大事だったりするよなあって思います。
- 岸田
- 思います。
- 糸井
- ある意味、人生相談はフィクションに近くて、
枠組みそのものがおもしろくなっていますよね。
自分の考えを述べる場所としても
お笑いをする場所としてもいいし、
いよいよ、ポスト人生相談の時代というか。
- 水野
- 僕は『LOVE相談』は、
ポスト人生相談かなって思っています。
- 糸井
- かもしれないね。
- 岸田
- おお。
- 水野
- 僕たち、全然結論を出していないんですよ。
結局どっちなの? みたいなまま放置している。
- 岸田
- 自分たちの話ばっかりしてますね。
- 水野
- でも、ぼくが『LOVE理論』を書いていたころなんて、
結論を出さないなんてあり得なかった。
「この女性を落とすぞ」っていう明確な目標があって、
すべてのゴールだと言い切っていました。
正直、今『LOVE理論』を読むと、ヤバいんですよ。
- 糸井
- 発禁かもしれないね。
- 岸田
- 私の周りで本が発禁になる人、はじめてです。
- 水野
- だから、今日から顔出しNGにしてまして。
ちょうどXも乗っ取られたのでSNSも辞めて、
隠れて生きようかなと。
- 糸井
- そういう理由でNGなんですか(笑)。
- 水野
- 本気で絶版にすべきかなと
自分でも思うくらいアウトなところがあって、
書き直したい部分もあります。
全部の文章に「必ず相手の同意を得ること」って
注釈で書き足したいくらい。
でも、あの本のおかげで、みたいな声もあるんですよ。
- 岸田
- 私もそうですよ。
- 水野
- ありがとうございます。
だからこそ、『LOVE理論』からの『LOVE相談』
っていうのは自分にとってかなり大きな変化で、
僕は令和の人間になれたんだって思いました。
- 岸田
- たしかに、人間だから考えはアップデートされるわけで、
『LOVE相談』は全然違いますよね。
- 水野
- だから、『LOVE相談』を書籍化した
『すべての悩みは武器になる』は
成熟した本だなって思います。
結論を出してないですし、
そもそも恋愛相談というコンテンツって
どうなんだろうみたいな意識をチームが持ってますよね。
僕の中では、恋愛相談をアップデートしていけたら
っていう気持ちはちょっとありました。
- 糸井
- 昨日の夜に『教皇選挙』という映画を見てたんです。
急逝してしまったローマ教皇の
次なる人を決める選挙の様子を追うんですけど、
あの中でいちばん重要だったのは、
「確信は敵である」という台詞で。
- ──
- 「確信は寛容の敵である。
信仰は疑念と手を取りあって歩むからこそ息づくもの」
という台詞が映画にありました。
- 岸田
- なるほど、決めつけることは危ないと。
- 糸井
- でも、宗教の世界って確信がなかったら
成り立たないように思えますよね。
なのに、「確信が我々の敵だと思え」という言葉を
映画の中心に置いていて、
ストーリーが展開されていくんです。
ものすごくおもしろかったです。
- 岸田
- わたしの旦那がお坊さんなんですけど、
彼も褒めていました。
- 糸井
- ただ、確信が争いのもとになるけれど、
迷うことがいいとは言っていない。
どっちがいいのか結論を見つけようとすると、
「確信は絶対持たないほうがいい」みたいな
確信を持ってしまう人もいると思いますし。
- 岸田
- ああ、禅問答ですね。
- 糸井
- その意味で『LOVE相談』は、
揺れのところにあったのかもしれないですね。
そこを大事に聴いてくれて、
読んでくれる人がいるっていうのはいいなと思います。
- 水野
- そうなんですよ。
- 岸田
- 読者の方も成熟してましたよね。
こういう人生相談って、
もっとスカッとしたい気持ちがあるじゃないですか。
電子書籍のマンガの売れ筋を見ていても
逆襲物語ばっかりだし‥‥
例えば、私だと『家族だから愛したんじゃなくて、
愛したのが家族だった』っていう
エッセイ本が一番売れているんですけど、
noteで一番読まれているのは、
「落とした指輪がメルカリで出品されて、
警察沙汰になった」っていう話なんです。
スカッとする終わり方ではないんですけど、
テーマとしてはスカッとするもので。
- 糸井
- 悪を懲らしめてやる、みたいな。
- 岸田
- そうなんです。
でも、勧善懲悪もひとつの確信じゃないですか。
指輪の話は結局最後に、
「出品してしまった人がそこまで悪い人なのか?」
という揺れる気持ちで終わるのは
私の意地なんですけど、
求められているのは短い時間でスカッとする話だよなあ
って思います。みんな忙しいし。
- 糸井
- そうですね。
- 岸田
- はじめ、『すべての悩みは武器になる』を
読者の方は読めるのかなって思っていたんです。
相談してるのにあっちこっちに話が揺れて、
しかも結論がわからないこともある。
そんな話を我慢できるのかなって思っていたら、
意外とみなさん受け入れてくださって、
結構すごいことだなって思いました。希望です。
- 糸井
- なんて言うんだろう‥‥
権威じゃないのが良かったんじゃないですか。
権威が同じことをやっていたら、
「ちゃんと教えてよ」って言われるかもしれない。
- 岸田
- ああ、たしかに。
- 水野
- 答えを求められそうですよね。
- 糸井
- お笑いの人に対する信じ方もそうですけど、
正しいことや、素晴らしいことを言ってくれるのを、
読者は待っていない。
- 岸田
- おもしろければいい、みたいな。
- 糸井
- そうそう。人によっては
「あいつはあいつなりにマジで言ってたよ」って、
思ってくれる人もいる。
そういう感じがありますよね。
- 水野
- きっと、僕も岸田さんも、
確信に対する嫌悪感みたいなものが、
たぶんあるんだと思います。
- 糸井
- 確信があると考えなくて済むじゃないですか。
答えが出ているのなら、
その答えに合わせて解いた問題をやるだけだから楽。
そうすると、やればやるほど
正しさに近づいていくような気がしてきて、
それは怖いところもあるよなあって思います。
(つづきます)
2025-09-29-MON
すべての悩みは武器になる
~水野敬也と岸田奈美のLOVE相談~
「ほぼ日」で配信していた、
作家の水野敬也さんと岸田奈美さんによる
音声番組『LOVE相談』が一冊の本になりました。
思いもよらない脱線やたとえにお腹を抱えて笑い、
ときに感動して胸がじんわりとする、
ふたりの名言と独自の理論を
あますことなく堪能できる8万字です。
好きってなに?、片思いや失恋、婚活など
恋愛にまつわるお悩みを出発点に人生の話へ。
恋の悩みも人生の迷いも、
笑いながら解決できる、恋愛人生問答集です。
水野敬也と岸田奈美のLOVE相談
ポッドキャストはこちらから聴けます。
(C) HOBONICHI