風は吹くし、隕石は落ちてくるし、波が押し寄せてくる。水野敬也×岸田奈美×糸井重里
作家の水野敬也さんと岸田奈美さんが
恋愛相談にこたえる番組『LOVE相談』が、
書籍『すべての悩みは武器になる』
として刊行されたことを記念して、
三省堂書店神保町本店で
糸井も交えたトークイベントを行いました。
テーマは、番組に最も寄せられた相談、
離婚と不倫について。

もっと深刻な話になるかと思いましたが、
恋愛の奥深くにある「欲望」をめぐって
話はさまざまな方向に揺れました。

クローズドな会でしたが、
この盛り上がりを伝えたく、
一部編集をして公開できる範囲でお届けします。
*水野敬也さんはご本人の意向で、
この日から顔出しをやめました。
白熱する様子を想像しながらお読みください!
第6回 なにが運命を決めるのか。
水野
今日の話を振り返ると、
海の話が比喩なのかそうじゃないのか、
どっちなんだろうと思うところがあったので、
岸田さんが突っ込んでくれてよかったです。
糸井
まあ、絶対的に比喩ですよ、そりゃ。
水野
あれ、比喩じゃないって言ってませんでした?
岸田
比喩じゃないって言ってた!
会場
(笑)。
写真
糸井
一旦比喩じゃない海として考えないと、
ボディで捉えられないじゃないですか。
「海は欲望の比喩です」って言ったら
波がザブザブ来ないでしょう。
だから、一旦比喩じゃなくて波として捉えてもらって、
もう一度欲望に置き換えてもらったんです。
岸田
ジュディ・オングですね。
糸井
ジュディ・オングはね、関係ないよ(笑)。
女じゃなくて、あなたの海について語りたいんです。
岸田
私の海‥‥。
糸井
水野くんはしみじみしちゃってるけど。
水野
なんて言うんでしょうね、
海についていろいろ考えちゃいました。
大きな波がきてもなにもないときもあれば、
足首が浸かった程度で大問題に発展することもあって、
なにが運命を決めるんだろうなって。
岸田
波の大きさは意外と関係ないですもんね。
運とタイミング次第というか。
水野
そうなんですよ。
マイナスのことがプラスになるし、
プラスが別方向に行くこともあって、
結局離婚と不倫だけじゃなくて人生は、
自分ではどうしようもできないことが
起こるんだなっていうのを改めて思いました。
海ばかり浸かっていた人が上手に波に乗ったり、
絶対に海に行かないと決めていた人が
波にスパーンと持っていかれたり、
どうなるかわからないという。
糸井
その通りだと思う。
水野
ですよね。
岸田
不倫も離婚もありえないと思っていて、
社会的にもそうだけれど、
いつ何に持っていかれるかわからないから、
もういっそ運が悪いかそうじゃないか、
みたいな話なのかなって思いました。
確固たる意思って、
実はそんなにないのかもしれない。
糸井
やっぱりそれも確信の問題で、
真ん中に確信を置いちゃうと歪みますよね。
水野
ああー。
岸田
みんながそうじゃないですけど
不倫や離婚の報道に怒ってる人で、
その話題の後に旦那さんの愚痴を言う方がいるんですよ。
それって、自分は我慢しているのにって気持ちと、
自分の選択が合っているのかわからないから
「私は正しいんだ」って思いたいがゆえに、
他人に怒ることってあるなと思いました。
水野
たしかにそうですね。
かといって、怒るなとも思わないし、
やっていいとも思っていないし‥‥
糸井
この話、終わらないね?(笑)
写真
──
ありがとうございます。
まだまだお話は尽きないと思うんですが
時間が来てしまったので、
質疑応答にうつりたいと思います。
男性
本日は楽しませていただきました。
作家のおふたりを前にして聞くのもあれですが、
宮沢賢治さんってすごい作家だと思ってまして、
彼は恋愛に積極的ではなかったということに関して
水野先生のクリエイティブとは
逆の力が発揮されているように思いまして、
どう思われますでしょうか。
水野
いやー、素晴らしい質問ですね。
ミヤケンはね、童貞のまま死んだんですよ。
あー、そうなんだよなー‥‥。
岸田
どういう感情ですか?
水野
恨ましい。
なんて、カッコいいんだろうかと悔しい。
岸田
ああ、なるほど(笑)。
水野
この間、妻がアフタヌーンティーの約束をしていて、
友だちがキャンセルになったから
僕が代わりに一緒に行ったんです。
そしたら、宮沢賢治をテーマにしたアフタヌーンティーで。
岸田
そんなのがあるんですね。
水野
「これは猫の目でして‥‥」とか説明されてたら、
だんだん腹が立ってきて。
ミヤケンはなんでこんなにおしゃれで、
カッコいいんだろうかと。
「絶対なれないじゃん!」って、
ずーっと腹が立ってました。
写真
岸田
めちゃくちゃ怒っている(笑)。
水野
頭の中のフィクションを生きることによって、
宮沢賢治の美しさが生まれたのかもしれないと思うと、
「お前は『LOVE理論』を書いている場合か!」と。
そういうことですよね?
男性
『LOVE理論』、かなり読んでます。
水野
ありがとうございます!
岸田
水野さんもミヤケン時代があったわけじゃないですか。
水野
はい。
岸田
でも、そこで文章を書こうとは思わなかったんですか?
ミヤケンを目指して。
水野
だって、文章書いててもモテないですから。
女の子と手もつなげないですよ。
岸田
そのコースは、そうですよね。
水野
僕が初めてきちんと読んだ本って、
恋愛マニュアル本なんです。
いまだに覚えていますよ。
大学1年の時に読んだ恋愛マニュアル本に、
「男は顔じゃない」ってひたすら書いてあって、
もう号泣しました。
あの時の感動を、
僕は伝え続けてるのかもしれないです。
会場
(笑)。
写真
岸田
私、ミヤケンはある意味欲望に忠実だったと思っていて、
信じられないことをやっているんです。
宮沢賢治は熱心な法華経信者なんですけど、
家は浄土真宗大谷派を信仰している、
しかも檀家総代という大事な立場だったんですね。
糸井
子どもの頃からだと思っていました。
岸田
親は浄土真宗を信仰していたんです。
しかも、檀家総代という、
檀家さんを取りまとめる一番えらい立場の人。
なのに、宮沢賢治は法華経に恋をして、
絶対の教えとして法華経を信じて、家出するんです。
水野
すごい‥‥。
岸田
当時の宮沢賢治は法華経が好きすぎて、
勝手に法華経の同人誌をつくって、
学校で配るほどだったんですよ。
水野
有名な話ですよね。
「雨ニモ負ケズ」は法華経で学んだことが
書かれているという。
岸田
結構怖いことをしていると思います。
女にコロッと行っちゃうみたいに、
美しいお経に彼は心を奪われた。
生まれ育った家のルールを踏み越えてまで
自分の欲望を貫き通した人という意味では、
波にのまれていたんだなって思います。
糸井
法華経という荒海があったわけだ。
岸田
そうです、法華経の波にザブンとのまれた。
水野
波はお経もありなんですね。
糸井
そういうことですね。
水野
そうか、僕は限定的な話をしてたかもしれない。
LOVEといっても別に男女の話じゃなくて、
愛にまつわる話ですもんね。
岸田
そうですね。
水野
いやー、子育てをしていて思うんですよ。
親がああなったらいいな、こうなったらいいなって
いろいろ与えたとしても、
整備された環境で親に与えられたものではなくて、
荒波のなかで掴み取っていく瞬間に生まれるものが
大事なんじゃないかって思うんです。
それって、子育てと真逆で。
岸田
ああー、たしかに。
水野
僕の場合は、まさに恋愛マニュアル本が荒波で、
もともとエロ本コーナーにありましたから。
そこで本を手にとって、号泣して、
「この不遇な本を日の当たる場所に!」
という思いでがんばってきたんです。

初めて恋愛本をドラマ化してもらって、
ある種みんなからバカにされる
「マニュアル」という分野で登って登って、
「LOVE相談」でほぼ日という
素敵な船に乗せてもらいました。
いやー、何の話かわからないんですけど、
本当に頑張ってきたなと思います。
岸田
若いころの水野さんが泣いている(笑)。
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水野
僕が勝手にシメてしまいましたけど、
今日はありがとうございました。
岸田
ありがとうございました。
糸井
ありがとうございました。
(終わります)
2025-09-30-TUE
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すべての悩みは武器になる

~水野敬也と岸田奈美のLOVE相談~
「ほぼ日」で配信していた、
作家の水野敬也さんと岸田奈美さんによる
音声番組『LOVE相談』が一冊の本になりました。
思いもよらない脱線やたとえにお腹を抱えて笑い、
ときに感動して胸がじんわりとする、
ふたりの名言と独自の理論を
あますことなく堪能できる8万字です。

好きってなに?、片思いや失恋、婚活など
恋愛にまつわるお悩みを出発点に人生の話へ。
恋の悩みも人生の迷いも、
笑いながら解決できる、恋愛人生問答集です。
水野敬也と岸田奈美のLOVE相談
ポッドキャストはこちらから聴けます。
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