作家の水野敬也さんと岸田奈美さんが
恋愛相談にこたえる番組『LOVE相談』が、
書籍
『すべての悩みは武器になる』として刊行されたことを記念して、
三省堂書店神保町本店で
糸井も交えたトークイベントを行いました。
テーマは、番組に最も寄せられた相談、
離婚と不倫について。
もっと深刻な話になるかと思いましたが、
恋愛の奥深くにある「欲望」をめぐって
話はさまざまな方向に揺れました。
クローズドな会でしたが、
この盛り上がりを伝えたく、
一部編集をして公開できる範囲でお届けします。
*水野敬也さんはご本人の意向で、
この日から顔出しをやめました。
白熱する様子を想像しながらお読みください!
- 水野
- 今日の話を振り返ると、
海の話が比喩なのかそうじゃないのか、
どっちなんだろうと思うところがあったので、
岸田さんが突っ込んでくれてよかったです。
- 糸井
- まあ、絶対的に比喩ですよ、そりゃ。
- 水野
- あれ、比喩じゃないって言ってませんでした?
- 岸田
- 比喩じゃないって言ってた!
- 会場
- (笑)。
- 糸井
- 一旦比喩じゃない海として考えないと、
ボディで捉えられないじゃないですか。
「海は欲望の比喩です」って言ったら
波がザブザブ来ないでしょう。
だから、一旦比喩じゃなくて波として捉えてもらって、
もう一度欲望に置き換えてもらったんです。
- 岸田
- ジュディ・オングですね。
- 糸井
- ジュディ・オングはね、関係ないよ(笑)。
女じゃなくて、あなたの海について語りたいんです。
- 岸田
- 私の海‥‥。
- 糸井
- 水野くんはしみじみしちゃってるけど。
- 水野
- なんて言うんでしょうね、
海についていろいろ考えちゃいました。
大きな波がきてもなにもないときもあれば、
足首が浸かった程度で大問題に発展することもあって、
なにが運命を決めるんだろうなって。
- 岸田
- 波の大きさは意外と関係ないですもんね。
運とタイミング次第というか。
- 水野
- そうなんですよ。
マイナスのことがプラスになるし、
プラスが別方向に行くこともあって、
結局離婚と不倫だけじゃなくて人生は、
自分ではどうしようもできないことが
起こるんだなっていうのを改めて思いました。
海ばかり浸かっていた人が上手に波に乗ったり、
絶対に海に行かないと決めていた人が
波にスパーンと持っていかれたり、
どうなるかわからないという。
- 糸井
- その通りだと思う。
- 水野
- ですよね。
- 岸田
- 不倫も離婚もありえないと思っていて、
社会的にもそうだけれど、
いつ何に持っていかれるかわからないから、
もういっそ運が悪いかそうじゃないか、
みたいな話なのかなって思いました。
確固たる意思って、
実はそんなにないのかもしれない。
- 糸井
- やっぱりそれも確信の問題で、
真ん中に確信を置いちゃうと歪みますよね。
- 水野
- ああー。
- 岸田
- みんながそうじゃないですけど
不倫や離婚の報道に怒ってる人で、
その話題の後に旦那さんの愚痴を言う方がいるんですよ。
それって、自分は我慢しているのにって気持ちと、
自分の選択が合っているのかわからないから
「私は正しいんだ」って思いたいがゆえに、
他人に怒ることってあるなと思いました。
- 水野
- たしかにそうですね。
かといって、怒るなとも思わないし、
やっていいとも思っていないし‥‥
- 糸井
- この話、終わらないね?(笑)
- ──
- ありがとうございます。
まだまだお話は尽きないと思うんですが
時間が来てしまったので、
質疑応答にうつりたいと思います。
- 男性
- 本日は楽しませていただきました。
作家のおふたりを前にして聞くのもあれですが、
宮沢賢治さんってすごい作家だと思ってまして、
彼は恋愛に積極的ではなかったということに関して
水野先生のクリエイティブとは
逆の力が発揮されているように思いまして、
どう思われますでしょうか。
- 水野
- いやー、素晴らしい質問ですね。
ミヤケンはね、童貞のまま死んだんですよ。
あー、そうなんだよなー‥‥。
- 岸田
- どういう感情ですか?
- 水野
- 恨ましい。
なんて、カッコいいんだろうかと悔しい。
- 岸田
- ああ、なるほど(笑)。
- 水野
- この間、妻がアフタヌーンティーの約束をしていて、
友だちがキャンセルになったから
僕が代わりに一緒に行ったんです。
そしたら、宮沢賢治をテーマにしたアフタヌーンティーで。
- 岸田
- そんなのがあるんですね。
- 水野
- 「これは猫の目でして‥‥」とか説明されてたら、
だんだん腹が立ってきて。
ミヤケンはなんでこんなにおしゃれで、
カッコいいんだろうかと。
「絶対なれないじゃん!」って、
ずーっと腹が立ってました。
- 岸田
- めちゃくちゃ怒っている(笑)。
- 水野
- 頭の中のフィクションを生きることによって、
宮沢賢治の美しさが生まれたのかもしれないと思うと、
「お前は『LOVE理論』を書いている場合か!」と。
そういうことですよね?
- 男性
- 『LOVE理論』、かなり読んでます。
- 水野
- ありがとうございます!
- 岸田
- 水野さんもミヤケン時代があったわけじゃないですか。
- 水野
- はい。
- 岸田
- でも、そこで文章を書こうとは思わなかったんですか?
ミヤケンを目指して。
- 水野
- だって、文章書いててもモテないですから。
女の子と手もつなげないですよ。
- 岸田
- そのコースは、そうですよね。
- 水野
- 僕が初めてきちんと読んだ本って、
恋愛マニュアル本なんです。
いまだに覚えていますよ。
大学1年の時に読んだ恋愛マニュアル本に、
「男は顔じゃない」ってひたすら書いてあって、
もう号泣しました。
あの時の感動を、
僕は伝え続けてるのかもしれないです。
- 会場
- (笑)。
- 岸田
- 私、ミヤケンはある意味欲望に忠実だったと思っていて、
信じられないことをやっているんです。
宮沢賢治は熱心な法華経信者なんですけど、
家は浄土真宗大谷派を信仰している、
しかも檀家総代という大事な立場だったんですね。
- 糸井
- 子どもの頃からだと思っていました。
- 岸田
- 親は浄土真宗を信仰していたんです。
しかも、檀家総代という、
檀家さんを取りまとめる一番えらい立場の人。
なのに、宮沢賢治は法華経に恋をして、
絶対の教えとして法華経を信じて、家出するんです。
- 水野
- すごい‥‥。
- 岸田
- 当時の宮沢賢治は法華経が好きすぎて、
勝手に法華経の同人誌をつくって、
学校で配るほどだったんですよ。
- 水野
- 有名な話ですよね。
「雨ニモ負ケズ」は法華経で学んだことが
書かれているという。
- 岸田
- 結構怖いことをしていると思います。
女にコロッと行っちゃうみたいに、
美しいお経に彼は心を奪われた。
生まれ育った家のルールを踏み越えてまで
自分の欲望を貫き通した人という意味では、
波にのまれていたんだなって思います。
- 糸井
- 法華経という荒海があったわけだ。
- 岸田
- そうです、法華経の波にザブンとのまれた。
- 水野
- 波はお経もありなんですね。
- 糸井
- そういうことですね。
- 水野
- そうか、僕は限定的な話をしてたかもしれない。
LOVEといっても別に男女の話じゃなくて、
愛にまつわる話ですもんね。
- 岸田
- そうですね。
- 水野
- いやー、子育てをしていて思うんですよ。
親がああなったらいいな、こうなったらいいなって
いろいろ与えたとしても、
整備された環境で親に与えられたものではなくて、
荒波のなかで掴み取っていく瞬間に生まれるものが
大事なんじゃないかって思うんです。
それって、子育てと真逆で。
- 岸田
- ああー、たしかに。
- 水野
- 僕の場合は、まさに恋愛マニュアル本が荒波で、
もともとエロ本コーナーにありましたから。
そこで本を手にとって、号泣して、
「この不遇な本を日の当たる場所に!」
という思いでがんばってきたんです。
初めて恋愛本をドラマ化してもらって、
ある種みんなからバカにされる
「マニュアル」という分野で登って登って、
「LOVE相談」でほぼ日という
素敵な船に乗せてもらいました。
いやー、何の話かわからないんですけど、
本当に頑張ってきたなと思います。
- 岸田
- 若いころの水野さんが泣いている(笑)。
- 水野
- 僕が勝手にシメてしまいましたけど、
今日はありがとうございました。
- 岸田
- ありがとうございました。
- 糸井
- ありがとうございました。
(終わります)
2025-09-30-TUE
すべての悩みは武器になる
~水野敬也と岸田奈美のLOVE相談~
「ほぼ日」で配信していた、
作家の水野敬也さんと岸田奈美さんによる
音声番組『LOVE相談』が一冊の本になりました。
思いもよらない脱線やたとえにお腹を抱えて笑い、
ときに感動して胸がじんわりとする、
ふたりの名言と独自の理論を
あますことなく堪能できる8万字です。
好きってなに?、片思いや失恋、婚活など
恋愛にまつわるお悩みを出発点に人生の話へ。
恋の悩みも人生の迷いも、
笑いながら解決できる、恋愛人生問答集です。
水野敬也と岸田奈美のLOVE相談
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(C) HOBONICHI