風は吹くし、隕石は落ちてくるし、波が押し寄せてくる。水野敬也×岸田奈美×糸井重里
作家の水野敬也さんと岸田奈美さんが
恋愛相談にこたえる番組『LOVE相談』が、
書籍『すべての悩みは武器になる』
として刊行されたことを記念して、
三省堂書店神保町本店で
糸井も交えたトークイベントを行いました。
テーマは、番組に最も寄せられた相談、
離婚と不倫について。

もっと深刻な話になるかと思いましたが、
恋愛の奥深くにある「欲望」をめぐって
話はさまざまな方向に揺れました。

クローズドな会でしたが、
この盛り上がりを伝えたく、
一部編集をして公開できる範囲でお届けします。
*水野敬也さんはご本人の意向で、
この日から顔出しをやめました。
白熱する様子を想像しながらお読みください!
第4回 欲望があるから生きていける。
写真
糸井
突然波にかかってしまうものだとしても、
絶対に水がかからない方法はあると思います。
波のそばに行かなければいいんだから、
それだけのことなんです。

でも、人は波のそばに行ってしまう生きもので、
被った人と被らなかった人の違いは、
被ったか被らなかったか、だけなんです。
岸田
ひゃはあ!?
糸井
わかった?
岸田
わからん‥‥
水野
いや、僕もちょっと置いていかれました(笑)。
糸井
(笑)。
水野
間違っているかもしれないですけど
僕なりに噛み砕くと‥‥
極論、妻一筋で他の女性に絶対会わない、
波にかかるまいとずっと家の中にいて
海を見ているだけだとしても、
何が起きるかわからない。
ある日突然波打ち際に行くかもしれない。
そういうことですか?
糸井
そうですね。
岸田
ほかの女が海ってこと?
ジュディ・オング的な話?
水野
ほかの女が海って‥‥言って‥‥いいでしょう!
それがそうとも限らないけれど、
今回はね、いいでしょう!
会場
(笑)。
写真
水野
海は女の人に限らなくて、
仕事だったり推しだったり、
すごく好きになるものですよね。
岸田
なるほど。
いろんな欲望が「海」ってことですか。
水野
たとえるなら、そういうことですよね。
だから、波打ち際に行かなきゃいいんだけど、
理性とは関係なく夢中になって
波打ち際に立ってしまうのが人間だと、
糸井さんはおっしゃっている。
糸井
そうですね。
水野
その状況はすごくわかります。
「絶対にこの状態完璧」って思っていても、
完璧なことって人間にはないじゃないですか。

海が女性だけじゃないんですけど、
波打ち際に行く可能性っていうのは
いろんな状況があると思います。
あと、海から呼ばれることもあると思うんです。
糸井
海は、呼ぶよ!
水野
呼ぶんですよね!
岸田
意気投合している。
水野
絶対に家から出ないと頑なに決めていたのに、
‥‥あれ? って。
予想外の海の声が聞こえてくるわけで。
糸井
海じゃなくてもプールみたいな商売もあるだろうし。
岸田
プールみたいな商売(笑)。
水野
ありますよ。
そうやって波にかかってしまう。
岸田
うまいこと回避できる方法はないんですか?
水野
仕事とかが僕のなかで海に近いかもしれないんですけど、
今、僕は家から出ていないんです。
家にいる理由としては、
子どもと一緒にいる物語を生きているからで。
僕は子どもが4人いて、
仕事を抑えて子育てに振っているのは、
もちろん子どもたちが可愛いっていうものあるのですが、
男としての未開拓の領域がそこにあるかもしれないって
心のどこかで思っているからなんです。
一昔前の偉人なんてほぼ子育てしてませんから、
逆に、子育てを頑張ることで今後、
仕事でもすごい結果が出る可能性があるかもしれない
って頭の片隅で思ってるんです。
写真
岸田
ああ、なるほど。
水野
『夢をかなえるゾウ』で
偉人のたとえをたくさん出してますけど、
ウォルト・ディズニーも子育てをしていない。
ならば、その逆をいく物語に
すがるように家にいるわけですけど、
この物語が崩壊する可能性もあるなと思っています。
岸田
子育てをこれだけやっていたら、
報われるだろうと思うけれど‥‥
水野
でも、そうなるとは限らないじゃないですか。
子育てをめちゃくちゃやったからって、
子どもはどう育つか分からないし、
当然、仕事に結びつかないこともある。
そうなってくると、
徐々に海に向かい始めるかもしれない。
でも、今、家の中にいる僕は、
主夫をしていたジョン・レノンが
「イマジンを書いたのはいつだ?」って調べて、
オノ・ヨーコ以後だとわかって、
「うわーよかった、イマジン書けるかも」
って自分に言い聞かせてドアチェーンを、ガチャっ。
*調べたところ、ジョン・レノンが「イマジン」を書いたのは
オノ・ヨーコさんと結婚したあとですが、
お子さんは産まれる前のことでした。(編集部)
会場
(笑)。
水野
そうやってすがらないと日々が大変すぎて、
いつ波にさらわれるかわからないです。
岸田
怖いですね。
水野
でも、人間ってそうじゃないですか。
未来に意識が飛んでいるから
夢をかなえたいと思うし、
欲望があるから生きていけるし、
ずっと家にいることはできないって
自覚をいつも持っています。
糸井
決まりに合わせて、
人は生きているわけじゃないからね。
岸田
そうですよね。
糸井
だから、生きているうちに、
自分の決まりや改善点に気づくことはあるけれど、
決まりに沿って生きているわけじゃないから
人生は風も吹くし、雪も降るし、波は押し寄せてくるし、
っていう中でそれぞれの事情があります。
そこで、ひとつのルールに縛るのは難しいけれど、
「決まりは守りましょう」っていう
約束をしたほうが世界が安定するから、
守ることを前提にしている。
守れないことをニコニコ言ってたらダメなんです。
岸田
社会が崩壊しますもんね。
糸井
自分だけのルールじゃないですからね、
みんなのルールとして必要だと思います。
だから、我々は色恋のさまざまを
フィクションでは散々楽しんでいますよね。
水野
そうですよね。
岸田
たしかに。
糸井
よく話すんですけど、
『北の国から』っていうドラマを知っていますか?
1981年に放送されたドラマなんで
若い方は見ていないかもしれないけれど、
あの村は、恋愛さえなければ平和なんです。
岸田
おお。
糸井
恋愛に翻弄された人たちのドラマで、
ドロドロですから。
そこで、どう気持ちを制御するかっていうことに
命をかけるのも人生だし、
止められませんでしたっていう人も出てくるし、
おっと危ない! という人も出てくるという、
色とりどりの問題が描かれるわけで。
写真
岸田
七色に輝いていますね。
糸井
でも、正しいかどうかの話は、
大前提になってしまうからできないんです。
それよりも海の水がかかってしまったことについて、
その中身は様々ですよ。
人は安定した詰め将棋を完成させようと
必死になるんだけれど、
ぐしゃぐしゃになってもおかしくないし、
突然変異するかもしれないし、
いろんな可能性があるじゃないですか。
宇宙だって、そうやってできてきたわけだし。
水野
いや、ほんとにそうですよね。
糸井
思いますよね。
水野
宇宙の誕生って、そうですもんね。
糸井
そうです、そうです。
岸田
主語がどんどんデカくなっていくのが怖くて、
今私は、必死に喋らないようにしています(笑)。
糸井
隕石が落ちて、恐竜は滅んだんです。
岸田
たしかに、あんなに強い生命体だとしても。
糸井
だから、考え一つで、
いろんなことを乗り越えられる可能性があるけれど、
隕石が突然落ちてくる可能性もあるってことです。
(つづきます)
2025-09-28-SUN
写真
すべての悩みは武器になる

~水野敬也と岸田奈美のLOVE相談~
「ほぼ日」で配信していた、
作家の水野敬也さんと岸田奈美さんによる
音声番組『LOVE相談』が一冊の本になりました。
思いもよらない脱線やたとえにお腹を抱えて笑い、
ときに感動して胸がじんわりとする、
ふたりの名言と独自の理論を
あますことなく堪能できる8万字です。

好きってなに?、片思いや失恋、婚活など
恋愛にまつわるお悩みを出発点に人生の話へ。
恋の悩みも人生の迷いも、
笑いながら解決できる、恋愛人生問答集です。
水野敬也と岸田奈美のLOVE相談
ポッドキャストはこちらから聴けます。
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