街に、部屋に、みんなにアートを。

コーヒー好きは
「わぁ‥‥おいしい！　それに素敵なカップ」、
絵の好きな人は
「話題のあの芸術家の作品がこんな身近に？！」。
家具の好きな人は
「北欧の名作家具がいっぱい！　
ホントに座っていいの？」、
オーディオの好きなひとだったら
「このスピーカー、めっちゃすごいヤツじゃ‥‥？」。
そして、カフェにかかわる仕事をしていたり、
この界隈の物件に詳しい人だったら、
「いったい誰が何の目的で、
こんなすごい空間をつくっちゃったの？」
「接客も丁寧で好感が持てる」と、
そんなところにも興味をもつかもしれません。

ここは東京・代官山にできたばかりの
「Lurf Museum（ルーフミュージアム）」。
ミュージアム、という名前ですけれど、
しょうじき、ここって、
ひとつの言葉では表せない場所なんです。
かんたんに言うと
１階が作品展示のあるカフェで、
２階はアートギャラリー‥‥なんですが、
なかなかほかに「似たような空間」は思いつかない。

と、そんな話を「ほぼ日」でしていたら、
「わたし、そこをつくった人、知ってます！」
という乗組員がいたのです。
それは話を聞きにいかなくちゃ！　と、
Lurf Museumをつくったチームのひとりである
松川直仁さんと、
ここに展示するアートをキュレーションし、
運営を担当している滝澤かおりさん、
ふたりの仕掛け人にお話をうかがいました。
いったい、Lurf Museumって、なんなんですか？！

取材・構成＝阿部太一

文＝中村志保

写真＝田口智規

──: ルーフミュージアムで展示されているアートは、
購入することもできるんですよね。
最近、日本でも、現代アートが、
なんだか盛り上がっている印象があるんです。
コレクター、と呼ばれる人だけじゃなく、
一般的に、作品を買う人が増えた、
という実感はありますか？

松川: ルーフミュージアムで、というよりも、
アートを買いたい、買ってみたい、
と思っているかたが、
全体的に増えてるなって感じてます。
ここをオープンする前から思っていたことですが、
これから日本でも
もう少しアートに興味を持って
購入する人が増えてくるんじゃないかな、って。

──: アートを買うことの楽しさって、
どんなところにあるんでしょう。

松川: オリジナル作品はその１点しかなく、
アーティストの「エネルギー」を
感じることができる魅力があるということですね。
「そこに宿るもの」は、ポスターなどの複製品とは
まったく違います。
これは、家で、リビングや寝室に飾ってみると
はっきりとわかっていただけるんじゃないでしょうか。
アートを飾ることで、
日々の生活に何かしら変化があるはずなんです。
それが、作品を購入する醍醐味だと思います。

──: 興味はあるけど、
どんな作品を買ったらいいかわからない、
という人も多いですよね。

松川: 自分が好きと感じたものを買っていただくのが
一番いいと思います。
でも、値段的にも買えないから、
みなさん、ポスターとかジークレー（＊）とか、
複製作品を購入されるんじゃないかと。
（＊）

スキャナーでデータ化した作品を、
上質なキャンバスや版画用紙、高級写真用紙や和紙などの
平面素材に高精細・広色域なインクジェットで
プリントした複製画のこと。

──: はい、ピカソとかウォーホルも、
ポスターやジークレーが一般的ですよね。
本当はそりゃ買えるものなら欲しいですが‥‥、
って考えると、そうですね、現代の若手作家の作品は、
もしかしたら手が届く範囲にあるってことですね。

松川: まさに！　だからぼくらは、
これからが期待される作家のみなさんも紹介したいんです。
アートコレクターのかたは、
見て気に入ったら買われるわけですが、
そこには
「何年後かに今よりもさらに有名になっていてほしい」
という応援の気持ちもありますよね。

──: でも松川さん、日本の家って、
アートが飾りにくくはありませんか。
海外だと、映画のシーンでも、
家の中に絵が飾ってあるとか、
アートが身近にある景色をよく見ます。
でも日本では家の壁のスペースが小さくって、
それを理由に「買ってもなあ」って
思ってしまうところがあるんです。

松川: 住まいの文化の違いは
どうしてもあると思いますけれど、
日本でも最近、とくに若い方のマインドは、
「買おう」という方向に、
すごく変わってきていると思いますよ。
やっぱり１点しかない作品というものに
惹かれているんだと。
デジタル社会ということも後押しして、
アーティストとファンの距離が
前よりもっと近くなっているのも魅力です。
作品を買う若い人たち、
今後はもっと増えていくんじゃないのかな。

滝澤: １階のスペースのように、
アートを展示している壁と、
家具や食器なんかが一緒にあると、
実際に作品を飾ったときの家の中を
イメージしやすいですよね。

──: ええ、本当に。
広さはともかく、作品を日常に取り入れるときの
ヒントがありそうです。
従来のアートギャラリーでは、
ギャラリーを通してアーティストとやりとりする、
みたいなイメージがありましたけれど、
ルーフミュージアムでは、
作家とお客さんの距離感、
どんな感じなんでしょうか。

松川: これは世の中のギャラリーと同じで、
作家さんがいる場合は、直接コミュニケーションしたり、
グッズにサインしてもらったり、
作品について直接説明してもらったり、
そういうことができます。
うちの特徴としては、
「まあ、コーヒー飲みながら気楽にちょっと話そうよ」と、
そんな雰囲気が生まれたらいいな、と。

──: たしかに、カフェスペースの居心地の良さもあって、
かしこまらずに話せて、
「買う」ということのハードルも下がりそうです。
値段まで臆せず訊けそう（笑）。

（つづきます）

2022-11-18-FRI