街に、部屋に、みんなにアートを。
コーヒー好きは
「わぁ‥‥おいしい! それに素敵なカップ」、
絵の好きな人は
「話題のあの芸術家の作品がこんな身近に?!」。
家具の好きな人は
「北欧の名作家具がいっぱい! 
ホントに座っていいの?」、
オーディオの好きなひとだったら
「このスピーカー、めっちゃすごいヤツじゃ‥‥?」。
そして、カフェにかかわる仕事をしていたり、
この界隈の物件に詳しい人だったら、
「いったい誰が何の目的で、
こんなすごい空間をつくっちゃったの?」
「接客も丁寧で好感が持てる」と、
そんなところにも興味をもつかもしれません。



ここは東京・代官山にできたばかりの
「Lurf Museum(ルーフミュージアム)」。
ミュージアム、という名前ですけれど、
しょうじき、ここって、
ひとつの言葉では表せない場所なんです。
かんたんに言うと
1階が作品展示のあるカフェで、
2階はアートギャラリー‥‥なんですが、
なかなかほかに「似たような空間」は思いつかない。



と、そんな話を「ほぼ日」でしていたら、
「わたし、そこをつくった人、知ってます!」
という乗組員がいたのです。
それは話を聞きにいかなくちゃ! と、
Lurf Museumをつくったチームのひとりである
松川直仁さんと、
ここに展示するアートをキュレーションし、
運営を担当している滝澤かおりさん、
ふたりの仕掛け人にお話をうかがいました。
いったい、Lurf Museumって、なんなんですか?!
取材・構成=阿部太一

文=中村志保

写真=田口智規
【1】アートを見る「あたらしい場所」がつくりたい。
画像
──
わあ、素敵な家具に、アート作品があって、
コーヒーのいい香りまで漂ってきます。
うーんと広々としていて、すごく居心地がいいですね。
「アート」と聞くと、
何だか高尚なものに思えて自分には関係ない、
という人も少なくないと思うんですが、
ここにいると、なんだか自然に目にとびこんできます。
画像
松川
ありがとうございます。
アートをもっと身近に感じられる、
今までにない空間をつくりたい、とスタートしたのが
このルーフミュージアムなんです。
より日常に近いリラックスしたかたちで、
お客さまがアートを鑑賞できる空間にしよう、と。
画像
──
たんに美術館でもギャラリーでもなく、
カフェでもショップでもない。
かといってその全部というのもなんだか違うような‥‥? 
かなり、不思議な空間ですよね。
たとえばこの家具にしても、
ちょっとすごいじゃないですか。
古いものだと思うんですが、状態があまりにも美しい。
松川
1階のカフェスペースにある家具の大半は、
海外から直に買い付けました。
1930年代の北欧、
特にデンマークのヴィンテージでそろえています。
──
天井から下がっている照明も?
画像
松川
そうですね。フロア照明は、
すべてポール・ヘニングセンで統一してるんです。
この空間に合う少し照度が落ちた感じにしたいと思って、
電球の明るさもかなりこまかな調整をしているんですよ。
──
そして、巨大で古いスピーカーが壁面に。
BGMはデジタルミュージックじゃないんですね。
画像
松川
はい、アナログ感を取り入れたいという思いもあったので、
音楽はレコードがかけられるようにしています。
──
うわぁ‥‥。
滝澤
計画している段階で、もう全部にこだわり、
「ここはこうしたい」という思いがあったんです。
コーヒーを出すカップは1階の家具に合わせて、
デンマークのロイヤル コペンハーゲン、
カフェスペースの食器棚と、
物販スペースの棚は、
モーエンス・コッホがデザインしたブックケース。
それぞれチークとマホガニーという異なる素材なんですが、
同じ工房のものなので自然と空間に統一感が出て‥‥。
画像
──
ふつうにカフェの客として来て、
そういう説明を聞かなかったとしても、
「なにか違うな、この空間」って思うでしょうね。
でも、それが押しつけがましくないというか、
すごく自然に受け入れられる印象です。
そもそもこんな素敵な家具に座って、
コーヒーが飲めるなんて、贅沢。
松川
家具好きの人からすると
「なんでこんなことするんだ?」
って思うんじゃないかな(笑)。
椅子ひとつ、普段は実際には座ることができない、
博物館に展示してあるようなものだったりしますから。
でも、こういう「もの」って、
やっぱり実用品としてデザインされているわけだから、
椅子なら座ってもらわないと意味がないと思うんです。
名作家具って、いますごく注目を集めているけれど、
使ってどんなふうに感じるかは大事だと思うんですよ。
──
なるほど。
あの、「そもそも」の話なんですが、
ルーフミュージアムという名前には、
どんな意味があるんでしょうか。
松川
Lurf(ルーフ)自体は造語なんです。
ラテン語で光を「ルークス」と言うこと、
あと、風を感じさせるような音の響きの良さもあって、
この名前をつけました。
それと、ルーフと英語で発音すると
「屋根」の意味ですから、
屋根のもとにみんなが集まってくるような場所にしたい、
という思いもこめました。
──
ルーフミュージアムが面しているのは
「旧山手通り」と呼ばれる代官山のメインストリートです。
ふだんから人通りの多い場所なのに、
ここに一歩踏み入れると、
誰かのおうちのような居心地の良さがあります。
この場所をつくるにあたって、
海外のギャラリーやカフェなど、
参考にした場所はあるんですか? 
外国のあの街の、あのカフェ、みたいな‥‥。
画像
松川
具体的には、まったく、ないんですよ。
でも「どこかにありそう」でしょう。
──
はい。日本的だなと思ったのは、
旧山手通りの裏手にある入り口に
日本風の庭があることですね。
松川
はい、そちらから内部へと続くアプローチの、
ちょっとした演出として、
石や松の木がある、小さな日本庭園をつくりました。
いつも自分たちが、
どういう空間だと落ち着くのか? と考えているので、
自然と日本人目線で
空間をとらえているんだと思います。
──
落ち着く場所であると同時に、
非日常に入っていく感覚もありますね。
松川
お客様には日常を味わってもらいたいんですけど、
家具だったり、アートの展示だったり、
音楽だったりで、非日常的な何かを
体感してほしいと思っているんです。
日常のように落ち着くけど、
やっぱり日常じゃないぞ、っていう。
滝澤
普段はなかなか目にすることのない家具に座って、
コーヒーを飲んで、音楽を聴きながら、
アートを見ていただきたいというのも、
そういうことですね。
画像
──
ああ、ぜいたくな場所ですね! 
それにしても天井が高いです。
松川
天井高は、1、2階のフロアとも
約4メートルあるんですよ。
──
2階の展示室はまた違う雰囲気で、
作品の見え方も変わってきました。
滝澤
そう! そのギャップを楽しんでもらえたらと。
1階は「日常+(プラス)」で感じていただけるアートを。
2階はホワイトキューブのカッコいい空間なので、
美術館みたいな気持ちで
作品と向き合っていただけると思います。
ミュージアム(美術館)とギャラリー(画廊)の
どちらの要素も兼ね備えているけれど、
どちらでもないというような‥‥、
オルタナティブ(主流な方法に変わる新しいもの)な
かたちでやっていきたいな、と思ってるんです。
画像
──
なるほど。6月にオープンしたときの展示は、
長場雄さんでしたね。
その後、ヒロ杉山さん
山瀬まゆみさん
西山寛紀さんと、
注目の作家のみなさんの展示が続いています。
アーティストはどのように決めているんでしょう。
ルーフミュージアム「ならでは」の基準が
おありなんでしょうか。
滝澤
基準を設けてしまうとどうしても幅が狭まってしまうので、
自由に考えていきたいという想いがあります。
あとは、普段から気になっている作家だったり、
この空間に展示したらどうなるかなと考えながら、
我々に共感して一緒に楽しく面白いことを
やっていただける作家にお声がけをしています。
──
作家さんからはどんな反応がありましたか?
滝澤
たとえば長場雄さんは、
ルーフミュージアムの個展にあたり、
新しい試みをしてくださったんです。
いつもはキャンバスにアクリルで描かれるんですけど、
初の油絵の作品を制作してくださいました。
作家さんにとっても
いい意味でプレッシャーを感じ、
新しいチャレンジの場にと考えていただけたら、
こんなにうれしいことはありません。
──
この広い空間を使えば、
大型の作品も展示できますね。
画像
滝澤
はい。ルーフミュージアムにはほぼ縛りがないので、
自由な発想で発表の場として使っていただきたいです。
写真や映像、彫刻などの立体や、
インスタレーションも楽しそうですね。
──
そう聞くと、一般的なギャラリーの枠を超えて、
ぐっとミュージアム感というか、
美術館の印象が出てきます。
滝澤
そうですね、
「ミュージアム」という名前を付けているのにも
そんな理由があります。
応援、というとおこがましいですが、
例えば、若手の方に1階からチャレンジしていただいて、
ゆくゆくは面積が広い2階で大きい作品を展示していただく。
そんなことも起きてくるのではと、楽しみなんです。
(つづきます)
2022-11-17-THU
画像
『Lurf Museum』では、
2022年11月11日(金)~12月12日(月)まで、
アーティスト・谷﨑一心さんによる
個展「光陰」を開催。
風景のモチーフを通じて
光と陰に象られた世界を表現する、
全26点の作品を展示がされる。