七十二候【第五十候 菊花開 きくの はな ひらく】

各地で菊の品評会や菊まつりが開かれる頃です。
旧暦九月九日は重陽(ちょうよう)の節句。
別名「菊の節句」といい、中国ではこの日、
菊の花を浸した菊花酒で不老長寿を祝う習慣がありました。
それが平安時代に日本へ伝わり、
宮中では高貴な人々が菊花酒を飲みながら
歌を詠み花を競う「菊合わせ」を楽しみました。
菊の花に真綿をかぶせて夜露と香りを移しとる
「被綿」(きせわた)という風雅な習わしも知られています。

あずま女 わたくしども、前回、言いわすれたことが。
京おとこ そうなんです。言っていいですか?
── どうぞどうぞ。というか、想像がつきました。
「炙りスターターキット」のことですね?
あずま女 あら、ばればれ。
京おとこ すでに「ほぼ日」さんでも
告知をさせていただいておりますが、
われわれ、「くらしのこよみのお店」
ネット上でオープンいたしました。
そこで取り扱う第一弾の商品が
「旬を炙る」というテーマで、
七輪や旬の食材を用意しているんです。
あずま女 なぜ前回言いたかったかというと、
その旬の食材に、話題に出た
「銀杏(ぎんなん)」が入っているからなんですよ。
京おとこ 「藤九郎ぎんなん」と言いまして。
この銀杏の大きさにはちょっとビックリしますよ。
もともと岐阜の井上藤九郎さんの家の庭に植わっていた
突然変異の樹齢300年のイチョウの木が
大元となっているので、
「藤九郎ぎんなん」と言われているのですが、
粒の大きさだけでなく、照り、形がお見事。
あまり市場に出回っていない逸品です。
炭火でほくほくになった旬の味をお試しいただきたいです。
あずま女 以上、告知でございました。
失礼いたしました。
── いえいえ、たのしい情報、ありがとうございました!
ではまいりましょう、「金盞香」。
「きんせんか」と言っても
水仙のことである‥‥と。


あずま女 はい。こういうところが
昔の不思議なところで。
京おとこ 旬の食材は「山芋」。
あずま女 むしろ今って、山芋も、
通年食べられちゃうじゃないですか、
でも、こうやって
季節を言ってくれると
ありがたみが増しますよね。
── やっぱり冬ですよね。
落ち葉も落ちきって、
蔓も枯れ、という時でないと探せないんですよ。
探すポイントは、
山の斜面に行くじゃないですか。
上を見るんですよ。
蔓がぶら下がってる、そこの真下から
掘り進んでいくわけです。
あずま女 採ったことがおありになるんですね。
── うちの父の趣味のひとつが自然薯掘りなんです。
あずま女 すごい!
── うちの父はとにかく山が好きで
鉄砲かつぐわ、芋掘るわ、茸採るわ。
我が家の食材はそういう感じでした。
あずま女 え、じゃあ、猟をするんですか。
── はい。やります。
山芋掘りも相当上手です。
あずま女 今でもご実家へ帰ると
お父様がお掘りになった‥‥?
── そうですね。まだやってるみたいですよ。
そうやって探すってことは、
相当山が枯れてないと探せないですよね。
本当の自然薯はね、小石を巻き込みながら育つので
砂利みたいなのが入り込んでるんですよ。
それを楊枝でつついて外し、
すり下ろして、卵と味噌汁でのばすと
東海道五十三次・丸子の宿のとろろ汁ができます。
丁子屋っていう、
それこそ江戸時代からある、
浮世絵に描かれている。
あずま女 広重の絵に描いてありますね。
丸子、行きましたわ!
おいしかったです。
── あれ、ものすごく
腹にたまりますよね。
あずま女 たまりますね、ほんと!
── 精力的という印象もあるけれど、
見た目はあっさり、消化が良さそうじゃないですか。
ところがやっぱり腹にたまるんですよ。
街道の宿場町で名物になったってことは
よっぽど腹持ちがよくて
元気が出るものなんだなと思い直しました。
京おとこ カロリーも高いんでしょうね。
あずま女 なんとなく日常的には
長芋でしたっけ、もうちょっと粘りの少ないものを
食べる機会が多くって。
本当の自然薯って、あんまり家で食べる機会が
なかったです。
── 本当の自然薯は
すり下ろしたとたん、
箸でつまめるぐらいの粘り。
ぷるんぷるんです。
あとかなり黒いです。
でも山芋って加熱してもおいしいですよね。
アジア全域にそういう料理もありますけど。
京おとこ 天ぷらもおいしいですよね。
あずま女 「薯蕷(じょうよ)まんじゅう」も。
── 「軽羹」も!
あずま女 独特のにおいがしますよね。
わたしは薬臭いと
思っちゃったんだけど(笑)。
── ああ、なるほど。
産毛が生えてるのを
火で炙るのがいいんですけど、
その時にすでにそのにおいがします。
── そして、旬の魚は‥‥。
京おとこ 「甘鯛」ですね。


あずま女 「グジ」ですね。
京おとこ 甘鯛と聞いて油断してたんですけど、
グジと言った瞬間に盛り上がりますよ。
あずま女 関西のものって感じですよね。
やっぱり若狭とか中心にした
関西の冬の魚って感じです。
京おとこ グジぃ!(尻上がり)
グジぃですよ、グジぃ。
全員 グジぃ!
京おとこ 関東ではあまり食べないですよね。
あずま女 大人になって、料理屋さんで
食べるようになった感じです。
京おとこ うちの家の魚のランキングで言うと
グジが一番上じゃないですかね。
出てくると「おおー」という感じがあります。
── どうやっていただいたんですか。
京おとこ 塩焼きです。
でも料理屋に行ったら
酒蒸しとかにもするのかな。
あずま女 味噌つけた焼き物も食べました。
── やっぱりグジが出る日は
理由があるんですか。
京おとこ なんなんでしょうね。
そんな頻繁に出ないですけどね、
やっぱり。
あずま女 ご馳走の一種ですか。
京おとこ 高いと思いますよ、きっと。
あずま女 やっぱりそうなんですね。
── 静岡の興津鯛も甘鯛ですから
仲間だと思うんですけど、
あれは一夜干しで食べますね。
あずま女 江戸に持っていったからでしょうか。
── いずれにせよ一尾で買うと高いですよ。
すごくご馳走だと思います。
さて、もう一品、
「カリフラワー」です。
あずま女 冬っぽいっちゃ、冬っぽいですよね。
── カリフラワーは
茹でずにサラダにしても
おいしいです。
いいものは生でいただけます。
ひじょうにおいしいです。
いいのが手に入ったら
試してみてください。
あずま女 やってみます。
これは花‥‥つぼみなんですよね、食べるの。
── こんなでかいつぼみがあるということは
花が咲いたらどうなるんですか!
あずま女 資料によりますと
「肥大したもの」とありますから、
改良していってこうなったんでしょうね。
京おとこ カリフラワー、ブロッコリー、
アスパラガスあたりが
わりと一つのグループって
感じですよね。
あずま女 時代的にそうです。
昭和四十年代に
ニョキニョキ出てきた。
京おとこ アスパラガスもその頃は
缶詰だったんですよ。
だから旬を感じなかったんですよね。
── ありがとうございました。
次回は「虹蔵不見(にじかくれてみえず)」。
11月22日にお会いしましょう。
2012-11-17-SAT
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