明るくて、負けずぎらい。  クルム伊達公子さんの、 ふつうは無理な道のり。

1996年の引退から11年半を経て、 日本中を、いえ、世界中を驚かせた クルム伊達公子さんの新たなる挑戦。 その驚きにさえ慣れてしまった感がありますが、 それから4年間も当たり前に第一線に居続けているのも ものすごいことだと思いませんか。 テニスをはじめたころの気持ちから、 現役復帰への道、そして普段の日常の話まで。 久々に会った糸井重里が、 たっぷりとうかがいました。

クルム伊達公子さん プロフィール

 
万全だったからこそ。 2012-06-11
ラリーがつながるよろこび。 2012-06-12
1番になれない悔しさ。 2012-06-13
上に呼んでもらえない選手だった。 2012-06-14
ふつうの悩みを持ってる。 2012-06-15
ワンチャンスで流れが変わる。 2012-06-18
ふつうは無理です。 2012-06-19
気づいてしまった気持ち。 2012-06-20
全日本選手権、そして世界へ。 2012-06-21
パワーとスピードの時代。 2012-06-22
ダブルスをやる理由。 2012-06-25
食べること、大好きなんです。 2012-06-26
新しい一歩を踏み出すこと。 2012-06-27
 


第1回 万全だったからこそ。

糸井 前に一度お会いしたとき、
お話がすごくおもしろくて。
伊達 はい、わたしもたのしかったです。
糸井さんに、自分の中のいろんなことを
引き出していただいたという印象があります。
糸井 ぼくも、すごく刺激になったんです。
スポーツ選手ならではの思考とか、
身体についての考え方をうかがって、
いろんなものを見る目が変わりました。
自分にも、影響を与えましたね。
四十肩、五十肩の治療にも行きましたし(笑)。
伊達 治りました(笑)?
糸井 右の肩は、すっと治って、
反対側はなかなか治んなくて、
けっきょく整形外科へ行って。
いまはもうまったく治りました。
伊達 ああ、そうですか。
糸井 伊達さんのほうはいま、
お怪我は、してないんですか。
伊達 いまは、大きなところはないですね。
小さいのはいつも抱えてますけど。
糸井 基本的には痛いもんなんですか、いつも。
伊達 どこか痛いです。かならず。
糸井 「かならず」(笑)。
伊達 痛くないときはほんと限られてますね。
でも、痛いところがあるぐらいのほうが
調子よかったりするんですよね。
テニスも調子いいし、体も調子いいし、
なにもかも絶好調、っていうときは、
けっこう結果が出ないことのほうが多いです。
糸井 はー、そうですか。
いや、あの、会った途端に、
怪我の話ですいません。
伊達 いえいえ(笑)。
糸井 そんな話からもうはじめちゃっていいですか。
伊達 大丈夫です、はい。
糸井 おもしろいから、つい。
ぼくは知識がないものですから
ほんとに素人として、
相変わらずお話しさせていただきますけど、
いまのお話、自分の仕事に当てはめると
けっこうわかるんですよ。
つまり、「調子いいな」っていうときに、
調子がいいことは、じつはあんまりない。
伊達 ええ。
糸井 「いまオレは冴えてるぞ」とかって
わざと言ったりするんですけど、
それって、もうすでに答えが出てるときに
後づけで言ってるだけなんですよ。
伊達 あ、なるほど(笑)。
糸井 なんか難問みたいなのがあったとして、
わかった、って思ってから、
「いま俺は冴えてるぞ」って言ってる。
ああでもない、こうでもない、っていうときに
そう言うと、まわりがおおって感じるけど、
本人からすると、じつはとっくに答えが出てる。
伊達 ふふふ。
糸井 そんなにすべてがクリアーに
なってることってないですよ。
調子のよしあしもあるし、
だいたいいつも複数の仕事が進行してますから、
ああすればこうなるし、こうすればああなるし、
いつも、もうちょっとここがなぁ‥‥
って思いながら、いろいろやってると、
なんか、ひょいっと、こう、
飛び石を渡るみたいにできることがあって。
伊達 うん、うん。
糸井 流れじゃないところで、
ぴょん! って乗り越えたりしてるんですよ。
まぁ、そのこと自体にも経験が増えてくるから、
難しいながらも、
「そろそろ、ぴょんと超えるかなぁ」とか
思ったりはしますけどね。
伊達 ああ、でも、その感覚はけっこう似てますね。
自分の調子がいいとか悪いとかではなく、
いつのまにか超えてるのかもしれないです。
糸井 その意味でいうと、
自分の状態が万全だっていうことなんて、
ほとんどないから。
伊達 そうそう、ないんですよね。
糸井 あの、たとえば、負けたあとに、
選手が「悔いはない」って
胸を張って言う場合があるじゃないですか。
あれは、自分が万全だったからこそ、
言えるわけですか?
伊達 うーん‥‥両方ありますね。
自分が万全で、万全で挑んで、
やることをすべてやっても、勝てなかった。
そのときに、「悔いはない」と思えるときもあるし、
「だからこそ悔いが残る」という場合もあります。
糸井 あー、なるほど。
もっと行けたかもしれないから。
伊達 そうですね。
万全で挑んで負けて納得できるときと、
万全だったからこそ納得いかない、
っていう場合と両方ありますね。
糸井 おもしろい(笑)。
伊達 そもそも、万全で行けるときが
そう多くないんですけど。
糸井 そういうことが、いつぐらいから
わかるようになってくるもんなんですか。
伊達 いつぐらいから‥‥なんだろう‥‥。
糸井 テニスは、子どものときから
ずっとやってたんですよね。
伊達 はい。
糸井 そのころは、納得できる負けがあるとか、
そういうことは。
伊達 子どものときはそこまで考えてないですね。
糸井 じゃ、どんなことを考えてるんでしょう。
その、子どものころのことから
うかがってもいいですか?
伊達 はい。
  (つづきます)

  2012-06-11-MON
次へ