明るくて、負けずぎらい。  クルム伊達公子さんの、 ふつうは無理な道のり。

第5回 ふつうの悩みを持ってる。

糸井 そのころ、テニスへの情熱が
途絶えたりすることもありましたか。
伊達 ありましたね。
糸井 あ、あるんですね。
伊達 ありました。
たとえば、中学生になると、
学校の友だちといることがたのしくなる。
あと、そのころ通ってたクラブが名門で、
強い選手がたくさんいたから、
どうしても先生からのアテンションが低いわけです。
糸井 ああ、ふつうの子の扱いだから。
伊達 そう、わたしはトップの選手じゃなかったから。
しかも、クラブが家から遠かったので、
思うように練習時間に行けないとか、
そういうことも重なって、
中学のときはモチベーションが
下がってしまった時期がありましたね。
で、サボったりしてました。
糸井 ああー、そんな熱心な人なのに。
伊達 はい(笑)。
学校終わって、家帰って、テニス行く格好して、
ラケット持って、靴持って行くんですけど、
クラブに行かずに友だちの家に行ったりして
で、終わるぐらいの時間になったら、家に帰って。
糸井 まぁ、ふつうの中学生らしい話ではありますけどね。
伊達 よくあるパターンですね。
糸井 でも、そういうサボった経験っていうのは、
しないよりは、そのころしておいたほうが
よかったんじゃないですか、ひょっとしたら。
伊達 そうかもしれないです(笑)。
糸井 で、どうなるんですか。
伊達 まぁ、クラブのコーチから、
家に電話があって、
公子さんが来ない、と。
つまり、すぐバレて(笑)。
糸井 うん(笑)。
伊達 それで母親から怒られて、
月謝を払ってやってることだし、
そもそも誰も強制したことはない、と。
糸井 うんうんうん。
伊達 公子がやりたいって言ってるから、
やらせてあげてるだけで、
別にやめるんだったら、
いつでもやめてもいい、と。
糸井 うん。
伊達 って言われて、ちょっと目がさめた感じで。
糸井 ああー。
それは、すぐに目がさめたんですか。
伊達 すぐにさめました。
テニスをやめるとしたら、
わたしはこれからずっと友だちと遊ぶだけ?
それで、満足するかなぁ、と思ったら、
簡単に答えは出ましたね。
糸井 はーー、そこはおもしろい。
伊達 テニスをやめたいわけじゃないから。
糸井 お母さんもそれをわかってますね。
伊達 そうなんですかねぇ。
糸井 わかってますよ。
でも、そのお母さんの理屈は
すごくまっとうですよね。
あなたが言い出したんでしょ、って。
伊達 やるんだったら、ちゃんとやりなさい、と。
やめるんだったら、
もう今日でもやめなさい、って。
そう言われて、悩むこともなかったですね。
糸井 さっと目がさめるんだ。
伊達 はい。
糸井 そのあとも、何回かあるんですか。
つまり、みんながやってるような
おたのしみが自分にもほしいっていうのは、
中学生だけじゃなく、大人になってからだって
ふつうにあるじゃないですか。
伊達 そうですね。
糸井 そっちへ引っ張られて、
テニスがおろそかになるようなことが
そのあとも、ときどきあるんですか?
伊達 うーん‥‥そのあとは、やっぱり、
恋愛が絡んでくるときぐらいですかね。
糸井 あ、それはでかいですよね。
伊達 はははは。
糸井 そうかぁ。
トップのスポーツ選手っていうのは、
いわば、ひっきりなしに練習してるわけだから、
好きな人に会ったり、友だちに会ったり
っていうことも、なかなか。
伊達 そうですね。そこは、葛藤でしたね。
だから、友だちとかと、夜、食事に行っても、
いつも時計とにらめっこしてました。
もう、帰んなきゃって。
糸井 ああ、そうかぁ。
伊達 テニスのこと考えたら、帰んなきゃいけない。
明日の練習がしんどくなるからって。
じゃあ、あと10分だけ、とか(笑)。
糸井 そういうふうに考えると、
ふつうの悩みをぜんぶ
ちゃんとお持ちになってますね。
伊達 持ってますね(笑)。
糸井 持ってますね。そういう意味では、
我慢し続けた人じゃないですね。
伊達 そうですね。
糸井 ああ、それは、なんか、
ぼくらみたいな観客の側からすると、
すごくいいなぁ(笑)。
伊達 (笑)
  (つづきます)

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2012-06-15-FRI