明るくて、負けずぎらい。  クルム伊達公子さんの、 ふつうは無理な道のり。

ワンチャンスで流れが変わる。

糸井 なんか、ふつうの悩みとか葛藤を
伊達さんも抱えてるってわかるだけで、
妙にうれしくなっちゃいますね。
伊達 ありますよ(笑)。
糸井 やっぱり、ぼくらはスポーツ選手に対して、
肉体的にも、精神的にも、
ものすごいことを平気でやってる人たちなんだ
って思いたいところがあるから。
伊達 ああ、うーん‥‥。
糸井 たとえば、ものすごく大事な試合の、
ぎりぎりまで追い込まれた画面で、
ぼくらがドキドキしながら観てるときに、
やってる選手は顔色ひとつ変えずに、
そこにいるわけでしょう。
もう、想像するしかないですけど、
有利だ不利だっていうことに
いちいち左右されずに
ずっと、勝つと思ってるっていう‥‥。
伊達 いや、そんなことないですよ。
糸井 あら。
そんなことないんですか。
伊達 はい。
糸井 もうダメかもっていうときに
「いや、負けると思ったことはないです」
っていう声を聞くことがあるんですけど。
伊達 そういうこともあります。
スコアとして見れば、
もう無理だ、っていう状況でも、
意外と自分のなかでは
まだまだ大丈夫、って思えてたり。
糸井 で、その逆もある。
伊達 うん、もう今日は無理だな、
っていうこともありますよ、やっぱり。
糸井 はーーー。
じゃ、両方が、ただの事実としてあるんだ。
伊達 そうですね。
糸井 それは、スコアじゃないとしたら、
なにが拠り所になるんですか。
伊達 うーん、なんでしょうね、
なんか、波長みたいなものもあるんですよね。
糸井 おもしろいなぁ(笑)。
伊達 だから、たとえば、スコア的には0ー40で
客観的に考えるとダメなんだけど、
なんていうんですかね、
ぜんぶちょっとしたことでそうなってて、
最後の1本がボール1個分アウトだったとか、
ゲームの主導権が
そういうことでふらふらしていて、
たまたまその結果で差がついてたりして。
糸井 ああ、ああ。
伊達 そこさえ、どこかで噛みあっていけば、
かならず、その「流れ」っていうのが戻ってきて
きっと追いつけるっていう感覚に
なれるときがあるんですよ。
糸井 やりながら、それがわかってるんですね。
伊達 はい。
だから、スコアほど自分は焦ってなかったり。
糸井 そういうことって、
お互いにわかってるんですかね。
勝ってるほうが、危ないぞって思ってたり、
負けてるほうが、まだいけるって思ってたり。
顔や態度に出たりするものなんですか。
伊達 出るときもありますね。
だから、それを出ないようにしたり、
相手も見せないようにしたり、
っていう駆け引きは、
お互いにすごくありますね。
糸井 はぁー、そうなんですか。
余裕見せてるけど、
ほんとうは焦ってるっていうことも‥‥。
伊達 あります、あります、もちろん。
糸井 ちょっと芝居したりもするんですか。
伊達 そうですね。
たとえば、このあいだ、わたし、
コペンハーゲンでやった
シングルスの一回戦で負けたんですけど、
ファーストセット6ー1で獲って、
セカンドセットも5ー3でリードしてたんです。
そこから、セカンドセット6ー7で落として、
ファイナルセットも5ー2で勝ってたのに
そこから負けたんですよ。
糸井 つまり、あと1ゲームで勝ちっていうところから。
伊達 そう、だからスコアで見れば、
途中までは完璧なんですけど。
糸井 観てる人からすると、
「あれ? どうしたの?」
みたいなことですよね。
伊達 そうですね。
もう、ワンチャンスで
がらっと流れが変わることが、
テニスの世界では、まぁ、
テニスだけじゃないですけど、
ありますからね。
糸井 その、コペンハーゲンでの試合でも、
相手がそれを待っていたわけですか。
伊達 そうですね、こう、追い込んでるのに、
終盤になればなるほど、しつこかったですね。
糸井 ぜんぜんあきらめてないんですね。
伊達 そうですね。
わたしのテニスはけっこう攻撃的なんですけど、
向こうはずっと守り一辺倒なんですよ。
もう、しつこく、とにかくもう、
しつこくしつこく、返すだけなんですけど‥‥。
糸井 もう、そう言いながら、イヤそうですね(笑)。
伊達 そういう展開ってよくあるんですけど、
ときどき、イヤになるときがありますね。
糸井 ははははは。
伊達 なんか、攻撃は最大の防御なりって‥‥。
糸井 言うけれど。
伊達 言うけども。
糸井 うん。
伊達 防御のほうがいいんじゃないかな、
って思うときが(笑)
糸井 はははははは。
伊達 ときどき、思うときがありますね。
糸井 でも、そういう、自分の型って
直んないものなんでしょう?
伊達 直らないですね(笑)。
糸井 性格的なものじゃなくって
もうテニスの型なんでしょ。
伊達 そうですね。
まぁ、性格っていう場合もありますけど、
性格はすごい攻撃的なのに
テニスはぜんぜん違うっていう人もいるので、
それはもう、タイプですね。
糸井 伊達さんはどうなんですか。
伊達 両方、攻撃的ですね(笑)。
糸井 性格的にも、テニスの型としても(笑)。
伊達 はい。


(つづきます)

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2012-06-18-MON