岡村靖幸×糸井重里結婚への道 完結編

ミュージシャンであり独身である岡村靖幸さんは、
雑誌『GINZA』で「結婚とは?」を様々な方に聞く
「結婚への道」を約6年間連載していました。
糸井重里も2013年に登場し、
「幸せになるのは義務じゃない」という言葉を
岡村さんに残しました。
これまで70人に結婚観を伺ってきた岡村さんと、
あらためて「結婚とはなにか?」をお話することに。
みなさんも2018年を振り返りながら、
結婚について一緒に考えてみませんか。

第5回還り道の意識。

糸井
僕は85歳を過ぎたら、
すっごいでたらめに女の人を
好きになりたいんです。
岡村
え、でたらめですか?
糸井
85歳って平均寿命を超えるんです。
70歳だと生々しいし、80歳でも危なくて、
85歳ならもういいかなと思って。
人間として人を好きになれるかの実験です。
岡村
年齢を重ねて、
達観したことはありますか?
糸井
人からみたら達観したように
思われるんでしょうけど、ないですね。
岡村
ないですか。
僕は因果応報みたいなことを感じることも多く。
糸井
ほお、因果応報。
岡村
大学で脳の研究をしている僕の友だちに
このことを話したら、
ショックなことや嫌なことが起こると
自然に脳が意識的に原因を決めて、
安心させようとする傾向があると言われたんです。
糸井
解決のヒントが見つかると、
そこに飛びついちゃうものですよね。

でも、もうすこし答えを出さないで、
ゆらゆらさせておくといいですよ。
むやみに考えすぎないで、
機嫌のいい位置にいる方が
気楽じゃないかな。
岡村
ああ、その方がいいですね。
糸井
岡村さんは一生懸命自分で考えるから、
なにかがあると一回道が
ふさがったようにみえるのかもしれません。
そこにぶつかるほうが、
歌詞を書く人はおもしろいと思いますけど。
岡村
ああ、そうかもしれませんね。
糸井
この間、矢野顕子と前川清さんが
デュエットする曲を作詞したんですけど、
2人が歌うならどんな歌もよくなるだろうなと思って、
歌にする必然性がないような歌を作ったんですよ。
『夢のヒヨコ』もそうだけど、
「それも、案外悪くないよね?」っていう歌を
僕はときどき書きたくなる。
岡村
なるほど‥‥
以前アレハンドロ・ホドロフスキー監督と
対談をさせていただいたんですよ。
糸井
『エル・トポ』の。
岡村
現役で映画をずっと撮り続けている人で、
89歳になってどんな心境か伺ったら、
「89歳になっても
6歳の戸惑っている少年がここ(胸)にいるし、
12歳で人を好きになるときめきを知った自分も、
23歳で社会で働くことに挫折する自分も、
40歳で家族を愛する自分も
全員僕の中にいる」と仰ったんですよ。
その言葉が、すごく腑に落ちて。
糸井
僕も同じことを思います。
岡村
僕にとって『夢のヒヨコ』はまさに、
僕の中に4歳の少年がいることを
見開かせてくれたんです。
大人はこう、子どもはこうと
決められるのではなくて、
ずっと変わらないなにかが僕の中にあると。
糸井
ああ、そうでしたか。
うれしいな。
岡村
だから感動して泣けたんです。
糸井
僕は本職が広告だったから、
調子のいいことを書けるんでしょ?って
みなさんから思われがちでした。
でも、自分の気持ちが合わないことって、
やっぱり言葉にはできない。

何百人のうち1人でも
岡村さんのように、
「これいいですよね」って切ない感じで
曲をうけとってくれる人がいるのを、
僕は願って書いているんだと思います。
岡村
うんうん、そうですよね。
僕もそうです。
糸井
それが仕事のいいところだなあ。
仕事がなかったら書かないから、
仕事が自分を助けてくれる。
岡村
はい。
糸井
岡村さんはいま、
いくつになったんですか?
岡村
53歳です。
糸井
53歳かあ。
その頃からやっぱり、
人生の後半戦みたいなことを考えはじめますよね。
岡村
鈍感にしてますがそういう気分のこともありますよね。
糸井さんもそうでしたか?
糸井
うん。後半戦から見えてくるものは、
たくさんありますよ。
50歳手前くらいから吉本隆明さんの書いた
親鸞の本を読むようになったんですけど、
その中に「行き道と還り道」の話があるんですね。
それから僕は還り道になって見えるものを
意識するようになって。
岡村
行き道と還り道。
糸井
行き道というのは、
一番になることを求めるような生き方のこと。
逆に還り道は慌てることもない、
一種の多幸感のようなものがあるんですよ。
岡村
へえー、多幸感ですか。
僕はまだ、そういう感覚がないですねえ。
糸井
もう70歳になったので、
残りがそんなにある気がしない。
今まで生きた分は生きられないと思うんです。

だから、こう、
「アンコール、あと一曲!」くらいの感じで、
気持ちよくエンディングを迎えたいんですよね。
岡村
そうですね。
そういう時にもやっぱり、
ときめくことはとても大事だと思います。
恋愛や結婚のことだけじゃなくて、
仕事をしている時、おもしろい人に出会った時、
どんな時でも「ときめく」っていいなと思います。
糸井
うん、いいですよね。
岡村
結婚までいたらなくても、
街中で素敵な女性とすれ違うだけでも
うれしいですよね。
そういう健康状態は保っていたい。
糸井
心も含めて健康でね(笑)。
写真
藤原江理奈
岡村さんスタイリスト
島津由行
岡村さんヘアメイク
マスダハルミ