岡村靖幸×糸井重里結婚への道 完結編

ミュージシャンであり独身である岡村靖幸さんは、
雑誌『GINZA』で「結婚とは?」を様々な方に聞く
「結婚への道」を約6年間連載していました。
糸井重里も2013年に登場し、
「幸せになるのは義務じゃない」という言葉を
岡村さんに残しました。
これまで70人に結婚観を伺ってきた岡村さんと、
あらためて「結婚とはなにか?」をお話することに。
みなさんも2018年を振り返りながら、
結婚について一緒に考えてみませんか。

第4回恋愛関係にならない男女。

糸井
以前の対談でも思ったけど、
岡村さんは理想のイメージを
上手に描けすぎるのかもしれないですね。
歌には大事な才能だけど、
「こんないい恋愛がある」
「こういう恋愛も嫌なようで、いい」
みたいな恋愛スケッチがものすごく上手だから、
ズレがあると納得できなくて進まない。
岡村
ああ、たしかに。
糸井
歌にして共感をよぶには最高ですけどね。
岡村
そうですね。
糸井
やっぱり、詩人が生きていくのは大変ですよ。
岡村
僕は「憂い」を拾っていく仕事だと
自分で思っています。
人の憂いや自分の憂い、
思うようにならない切なさや哀しみを拾って
自分の中で咀嚼をするような。
糸井
うん、うん。
岡村
葉っぱの裏を見ても、
街の景色でも
たとえ些末なことであっても、
うっすらとした憂いを拾って
感じようとしているんです。
糸井
すばらしいことですね。
岡村
でも、憂いを拾わない、
全能感のようなものに包まれて
仕事をする人もいらっしゃると思います。
糸井
作詞作曲をする人は、
憂いを拾う方だと思いますよ。

大きな快感に流されるよりも、
大もとにある普通の自分を大切にしている。
そういう自分を、
周りの家族や友だちに愛してほしいし‥‥
岡村
そうですね。
糸井
たとえばいつでも待ってくれている人がいたら、
そのおかげで、思いきって
挑戦できることもあるんです。
バランスがとれるのかな。
「普通の自分」がどこにいるのか、
一生探し続けるんでしょうね。
岡村
糸井さんは、
それをずっとやっていますよね。
糸井
もう、趣味かもしれない。
岡村
すばらしいなと思うのは、
そうやって生きる中で冒険してきたことが、
糸井さんが作った歌詞には
全部注がれている気がします。
苦しんだこと、楽しんだこと、
生きざまが歌詞に溢れているような。
糸井
そんなつもりはないんですけど、
もしかしたら作詞が本職でなかったことで、
助かっているかもしれません。
岡村
そうですか。
糸井
作詞ってどうしても
自分の身を削っちゃいますよね。
逆に、歌詞が自分を変えることもあるでしょうし。
岡村
歌詞の影響は大きいですね。
糸井
作詞が本職になりそうな時期もあったけど、
これは長く続かないと思ってからは、
矢野顕子の歌しかほとんど作詞していないです。
岡村
僕は糸井さんが矢野顕子さんに書かれた歌詞が
大好きなんです。
とくに『夢のヒヨコ』はすばらしい。
なかなか泣ける曲ってないんですけど、
あの曲はうるうるしちゃいます。
糸井
それは、僕も本当の自分を入れて
書いているからかもしれません。
矢野顕子が褒めてくれることがたのしみで、
僕も、本気で書くんですよ。
岡村
矢野さんおひとりでつくられた歌も
すばらしいのですが、
糸井さんが作詞をなさった歌を聴くと、
人と人がモノを作ると魅力が2倍、3倍にも
増していくんだなあと痛感します。
糸井
それは僕も思います。
でも、そういう仕事はそんなにないですね。
岡村
そうですか。
糸井
うん。
矢野顕子との仕事は不思議で、
踏み込まない仲の良さがあるんですよ。
まあ、まず、
僕たちは絶対恋愛関係ではないですから。

その、男女で絶対恋愛関係じゃないって
言い切れることを発見しただけで、
もう、うれしいんです。
岡村
男女というよりは、
ひとりの人と人という関係ですよね。
糸井
そう、そういう関係って多くはないでしょ。
岡村
うん、そうかもしれません。
糸井
一方で、僕は好きだけど相手は好きじゃない、
という関係も意外と長続きする。
そうした好きな人との出会いが、
僕をものすごく幸せにしてくれましたね。
ねんごろになりそうでならなかった人たちが、
僕を作った気がします。
岡村
ああ、いい話ですね。
糸井
思いきってアタックしていたら、
違うことになっていた気がします。
岡村
痛いです(笑)。
糸井
ミュージシャンの人たちはね、
愛が仕事だったりするから(笑)。
岡村
汗が出ます(笑)。
糸井
まあ、でも、
男の浅さとか、狭さとか、ダメさとか、
そういうのに目が行くと女の人は
圧倒的に優れていると思わざるを得ないね。
岡村
そうですね。
糸井
男が女の人にどうしても負けると思うのは、
簡単な言葉で言うと
「軽はずみさ」ですよね。
なまじな思慮をぶっ飛ばしてしまうような、
強さと覚悟がある気がする。
岡村
女の人は強くて、カッコいいです。
糸井
うん。涙がでるほどカッコいい。
だからとっても惹かれる。
でも、好きになるのは難しいと思いませんか?
好きっていったい、なんだろうと思う。
岡村
思います、思います。
糸井
人生でたくさんの人に会うのに、
この人を好きだって決めて
持続するのはなんでなんだろう。
その秘密をゲーテが考えつづけたんでしょ?
岡村
老齢になってからですね。
糸井
だから僕も、ゲーテしてるから、今(笑)。
好きとはなにか探求中。
岡村
ゲーテしてるから(笑)。
また名言が出ましたね。
写真
藤原江理奈
岡村さんスタイリスト
島津由行
岡村さんヘアメイク
マスダハルミ