岡村靖幸×糸井重里結婚への道 完結編

ミュージシャンであり独身である岡村靖幸さんは、
雑誌『GINZA』で「結婚とは?」を様々な方に聞く
「結婚への道」を約6年間連載していました。
糸井重里も2013年に登場し、
「幸せになるのは義務じゃない」という言葉を
岡村さんに残しました。
これまで70人に結婚観を伺ってきた岡村さんと、
あらためて「結婚とはなにか?」をお話することに。
みなさんも2018年を振り返りながら、
結婚について一緒に考えてみませんか。

第6回結婚の最高のよろこび。

糸井
今日もだいぶおもしろかったですね。
前もよかった気がするけど。
岡村
前もすばらしかったです。
糸井
「結婚への道」の連載は、
やっててよかったですね。
岡村
そうですね。
人とモノをつくるすばらしさもそうですけど、
恋愛でも、仕事でもひとりじゃなくて、
誰かと一緒にやることのおもしろさを痛感しました。
対話することで思いがけない発見があり、
勉強になりました。
糸井
ですよねえ。
岡村
結婚がテーマなので
探られたくないことも探ってしまいますし、
赤裸々にならざるを得ないテーマで。
糸井
個人の話に踏み込まざるを得ないですもんね。
岡村
はい。
嫌な人もいたかもしれません。
糸井
「結婚」というテーマで人に会いに行くのは、
大発明だったかもしれないですね。
通り一遍にしゃべれないし、
どうしたって自分の思想に行き着くから。
岡村
素の、生々しい言葉を
たくさんうかがいました。
糸井
僕との対談はいつごろでしたっけ?
岡村
2013年の3月です。
僕がお土産にパンを持っていったら、
糸井さんが手づくりのあんこを
ふるまってくださって。
糸井
ああ、そうだそうだ。
最近ね、ああいうことしなくなっちゃったんです。
ジャムとかあんことか作る時間がなくて。
岡村
忙しくてですか?
糸井
今もあの時も忙しいんだけど、
今のほうが心境的に急かされているんですよ。
発言は落ち着いたこと言ってるんだけど、
引退を考えているからか
働き者になっちゃって。
これはちょっと、考えものですね。
岡村
周りがそうさせるんでしょうか。
糸井
僕自身がすこし焦っているんだと思います。
責任感もあるから簡単にみんなの提案に、
「それでいいよ」って言えなくて、
仕事が増えるんですよ。
それで、あんこやジャムを作る余裕が減って。
ちょっといかんなあ。
岡村
外食はされていますか?
糸井
外食はしますけど、
新しい場所を探す意欲はあんまりないので、
同じところによく行きますね。
大好きなとんかつも、だいたい同じお店。

ああ、その時に
結婚しているのはいいですよ、岡村さん。
岡村
そうですか。
糸井
うん。
好きなごはんを無言で食えるからね。
岡村
ああ、なるほど。
糸井
たとえば僕が岡村さんとごはんを食べに行こうが
もっと近しい間柄と行こうが、
気を遣ってしゃべるじゃないですか。
どう美味しいのかとか、最近どう?とか。
部下である乗組員だとしても、
僕は気を遣ってしゃべります。
岡村
僕もしゃべります。
糸井
でも、奥さんといるときは
しゃべらなくていいんです。
無言が違和感じゃない。
これを、僕は「純食事」とよんでいまして。
岡村
純食事。
糸井
旅行中でも、食事中でも、
しゃべらなくていい。
ときどき街中で、
しゃべらない老夫婦を見かけませんか?
昔はああいう夫婦をみると
「幸せなんだろうか」と疑ったけど、
あんなに幸せなことはないと思います。
しゃべらないのに、ひとりじゃないんだから。
岡村
はあー、なるほど。
糸井
ひとりで食べるのは、
意外と忙しいんですよ。
うまいなあって思って食べていたけど
全然違うことを考えはじめたりして、
頭の中はぐちゃぐちゃする。

でも、奥さんといると
いい感じでじゃまになるんですよね。
美味しそうにしてるかな?って考えるだけで、
たのしいものですし。
いい沈黙なんです。
岡村
へえー。へえー。
糸井
結婚の最高のよろこびは「純食事」が
できることだと思います。
岡村
ああ‥‥いいですね。
純食事ができる相手がいるっていうのは。
糸井
ときどき相手がみかんを剥いていたら、
ちょっと手を出すと必ずもらえるし。
岡村
ははは、いいですね。
糸井
岡村さん、そのために結婚したらどう?(笑)
純食事をするために。
岡村
そうします、
そういう相手を探します。
糸井
もうそこは、
愛の問題ではないでしょ?
逆に愛の浅さを感じますよ。
岡村
愛の浅さ‥‥深いですね(笑)。
糸井
恋人とも、
愛情を大前提とした結婚相手とも、
この関係はつくれないと思います。
「せっかく二人でいるんだから、
たのしいお話でもしない?」なんて
言われたらさ、辛いでしょ。
僕はもっと、いい沈黙をゆっくり味わいたい。
岡村
女の人はどちらがいいんですかね。
しゃべる人と寡黙な人と。
糸井
ずっとたのしくしているパートナーなんて、
きっと他人行儀ですよ。
落ち着いてきたくらいの関係がちょうどいい。
そしてこの関係は、
どちらかが亡くなってからも
成り立つんですよね。
そういう関係って、いいなと思います。
岡村
なるほどなあ。
今日は名言だらけでしたね。
糸井
よかった。
岡村さんの結婚の参考になるといいです。
岡村
参考にします。
ありがとうございました。
糸井
こちらこそ、また機会があったら
ぜひお会いしましょう。
写真
藤原江理奈
岡村さんスタイリスト
島津由行
岡村さんヘアメイク
マスダハルミ