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──
すっかり「はじめての雪上訓練」の話に
聞き入ってしまいましたが
本日は「洞窟探検家・吉田勝次さん」に
インタビューに来たんでした。
吉田
だよね。
──
どのように、山から洞窟へと進んだのか、
どうぞ、お願いします。
吉田
あのー、山は嫌いじゃなかったんだけど、
いまいち、
ときめきやワクワクを、感じられなくて。
──
そうなんですか。
吉田
雪山だけでなく、
ロッククライミングなんかもはじめて
もう1年中、
5年くらい目一杯やったんだけど。
──
いろいろ、のめり込むタイプなんですね。
吉田
そうそう、高所恐怖症だっていうのに
気がついたら
足ブルブル震わせながら
200メートルの岸壁で岩登りやってたし。
──
ちなみに、話は逸れますけど
高所恐怖症って、治らないんですか?
吉田
治んない、治んない。
──
それで、よく行きますね‥‥。
吉田
汗と涙と鼻水を同時に垂らしながら、
岩壁にへばりついてた。

やっぱり達成感がすごいんです、山って。
その高みに立たないと
見られない景色ってのがありますから。
──
でも、もっとワクワクしたかった?
吉田
そう。で、28歳のときに、
雑誌で「洞窟探検」の特集を見たんです。

瞬間的に「これだ!」と思いました。
──
それが、洞窟との出会い。
吉田
っていうか「やってる人いるんだ!」と。

昔、水曜スペシャルの
川口浩探検隊が好きで毎週、見てたから。
──
好きそう‥‥。
吉田
その特集を見た瞬間「うわぁ!」と思って、
浜松ケイビングクラブって、
その、やってる人たちに電話をしたんです。

全国から問い合わせが殺到してると思って、
焦って電話かけたんですけど、
あとから聞いたら、
問い合わせは、俺だけだったという(笑)。
──
おもしろいです(笑)。
吉田
それから
毎週末になると、コバンザメのように
洞窟についていったんだけど、
しばらくしたら、
自分で未踏の洞窟を見つけたい気持ちが、
強くなっていったんです。

当時、お世話になっていた先輩の口癖が、
「自分で洞窟を見つけたときの感動は
 何物にも代えがたい。
 デカいとかちいさいとかは別問題だ」
だったってこともあって。
──
なにせ、他の誰もが知らない空間を、
世界で自分だけが知ってるんですものね。
吉田
すでに知られている洞窟へ行くのは、
勉強になるんだけど、ワクワクしない。

それよりも
「新しい洞窟を探す」ことに重点を置いて
活動しはじめたんです。
で、そこで役に立ったんですよ、登山が。
──
おお、そこで、つながるんですね。
「山」と「洞窟」が。
吉田
山へ入るという経験をして、
生命の大切さだとか、仲間の大切さとか、
身にしみてわかったんです。

だから、洞窟へ入っていくのにも
まずは仲間を見つけて、
いっしょに行くってことをはじめました。
──
つまり、パーティのリーダー、
吉田さんが「川口浩さん」になったと。

でも、どうやって「洞窟仲間」を?
吉田
当時、登山で海外遠征もしていたので、
英会話を身につけようと
「駅前留学」したことがあったんですが、
そこの先生がパソコンに詳しくて
ホームページを、つくってくれたんです。
──
じゃ、そこで仲間を募って。
吉田
うん、1998年くらいだったから
まだホームページ自体がめずらしい時期で
「ホームページの取材」も多かったな。
──
つまり「洞窟の取材」じゃなくて?
吉田
そう。
──
でも、そのようにして仲間を増やしながら、
未知の洞窟へ踏み込んで行ったと。

まるでドラクエのようです。
吉田
ただ俺、はじめて洞窟の入口を見たときに、
逃げ帰ってるんですよ。尻尾を巻いて。
──
え? なんでですか?
吉田
怖くて。
──
入れなかった?
吉田
浜松ケイビングクラブの探検隊に
ついていくようになる前、
愛知県の山奥にある洞窟の場所を調べて、
友だちと行ってみたんです。
──
ええ。
吉田
行くときは、入る気満々でした。

で、洞窟の入口にたどりついたんだけど
その圧倒的な闇を前にしたら、
「あ、無理。これは絶対無理だわ」って。
──
怖いもの知らずに見える、吉田さんでも。
吉田
「怖っ!」みたいな。すぐに帰りました。

でも、そのあと、
浜松の人とはじめて洞窟に入ったら
真っ暗な洞窟の中で、
目の前が明るくなった感じがしたんです。
──
と言いますと?
吉田
「これだ! 俺は、これを待ってたんだ!
 探検だ! ワクワクだ!」みたいな。
──
何かが見えたんですか?
吉田
何にも見えませんよ、暗闇しか。
どんなにがんばっても、泥と岩くらい。

でも、狭い隙間をどうにかして抜けて、
要所要所でパァーッと視界が開けて、
「うわっ!
 こんな世界があったのか!」
って、いちいち、感動しちゃいまして。
──
真っ暗闇の洞窟が、
少女にとっての、お花畑のように(笑)。

でも、吉田さんの撮った写真を見ると
洞窟の内部って
かなり広い空間もあったりしますよね。
吉田
いまから思えば、そのときの洞窟は
そんなに広くもないんだけど、
何だか、めちゃくちゃ興奮しました。

そうやって、どんどん、
洞窟の魅力に取り込まれていったんです。
──
山登りの経験が、随所で役に立った。
吉田
立ちましたね、みごとに。

縦穴をロープで降りていくときも、
岩登りで慣れてたので
浜松ケイビングクラブの人たちよりも、
俺のほうが動けたくらいだし。
──
なにせ、世界的アルピニストによる
10日間の雪上訓練から
山登りをはじめた人ですものね。
吉田
こういう場面では、
こうした方がいいという山の知識が、
バッチリ応用できたんです。

埋まってる穴を掘ったり、
ワイヤーで引っ張って岩をどかしたりとか、
建設業の技術も役立ちました。
──
それはつまり「本業」の。
吉田
いざとなったら、
パワーショベル持ってくりゃ楽勝とか。

山と平行して
スキューバダイビングもやってたんで、
水中での動きと怖さも、知ってた。
──
つまり、それまでの人生の
知識や経験をフル動員できたのが‥‥。
吉田
そう、洞窟だったんです。

<つづきます>

© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN